消費増税とモバイルキャッシュレスの浸透
― 2019年10月1日から消費税が10%に引き上げられ、同時に施行された「キャッシュレス・消費者還元事業」が人気を呼んでいます。今は日本社会が現金からキャッシュレス決済に移行する、パラダイムシフトの最中なのでしょうか。
岡田 実は私は個人的に、QRコード決済が苦手でして(笑)。私は90年代からICカード型の電子マネーを研究してきましたが、新しいサービスの普及のポイントとなる購入動機は、第1が「新規性」、第2が「利便性」、第3が「利得性」です。
ほかの人に先駆けて新商品を試そうとする人たちはマーケティング理論でいう「イノベーター(革新者)」で、新規性に反応します。スマートフォンを使ったQRコード決済でも、最初に使い始めたのは「新しいものだから、とにかくまず使ってみよう」という人たちでした。ただ日本には「新しいものにすぐに飛びつくのは、はしたない」という社会通念があるようで、いち早く新しいサービスを使うには、何かしら言い訳が必要なんですね。普及の初期の段階で使っている人たちにアンケートをとると、「便利だから」「お得だから」といった別の理由を挙げてくることが多くなります。
電子マネーの場合、Suica、PASMOといった交通系のカードは、「切符を買わずに、タッチするだけで改札を通れる」という利便性が認められて普及しました。一方、コンビニのセブンイレブンで使われる電子マネーのnanacoや、ショッピングセンターのイオンで使われるWAONなど流通系のカードは、「買い物のたびにポイントが還元される」という利得性で会員を増やしました。
今の「○○ペイ」の場合、サービス内容は各社ほぼ一律で、消費者への訴求ポイントもポイント還元の一点張りですよね。それでお互いに競争していると、いずれ資金が尽きて“弾切れ”になるはずです。QRコード決済はICカード型電子マネーと比べて必ずしも使い勝手が優れているわけではないので、私は今のままでは初期の消費者還元キャンペーンが終わったら、潮が引くようにブームも消えてしまうおそれがあると見ています。
― キャッシュレス決済に対してはこれまでは消費者の側に「データが勝手に使われるのでは」という警戒心があったと思います。それが今年10月1日を境に、多くの人が一斉にQRコード決済を使い始めました。この消費者心理の変化には、どういった理由があるのでしょうか。
岡田 新しいサービスの購入動機の第4として、「公共性」「公益性」があります。「世の中で決まったことだから」「社会のためになるから」という“言い訳”です。
モバイル端末を通してビッグデータを集めたいというとき、企業から「うちの会社の営業に使う」と言われて、データ提供を受け入れる人はほとんどいません。ところが政府から「地震や台風などの災害が起きたときに、素早く対処して被害に遭った人たちを救うためです」と言われれば、大抵の人がデータの提供に応じるでしょう。
その意味で今回の消費者還元事業では、「国が後押ししている」ということが大きいですね。国が旗を振りつつキャッシュバックもあるということで、「公共性」プラス「利得性」という珍しい事例になっています。
吉濱 ポイント還元は予想以上に盛り上がりを見せていますね。「現金でしか買い物しない高齢者が不利になる」といった批判もあるようですが、「高齢者だからキャッシュレスサービスは使えない」というのは思い込みでしょう。私の母は今84歳ですが、近所のコンビニでも交通系のICカードを使って買い物しています。目がよく見えないので、小銭を数えて渡すより、ICカードで「ピッ」と精算するほうが楽だというんです。利便性があれば高齢者にも新しいサービスが浸透していくという例でしょう。現金好きとされる日本人ですが、キャッシュレス決済が現金払いより便利であれば、世代を問わず普及していくはずです。ただQRコード決済については、現状ではサービスが乱立していて、「この店ではこのサービスは使えるけれど、あのサービスは使えない」といった、消費者にとっての使いにくさにつながっています。現金より便利なものと認知されるためには、今の混乱が整理されなければいけないでしょうね。
購買データ利用の問題点
― 経済や社会の視点からは、キャッシュレス化にどのような意味があるのでしょうか。
吉濱 一つは現金コストの削減です。日本経済新聞は2017年の記事で「日本では現金決済を支えるのに、年間2兆円ものコストがかかっている」と推計しています。例えば国内のATM(現金自動預払機)設置台数はメガバンク3行だけで2万台にもなり、保守や現金の輸送などに、1台当たり月に数十万円の維持管理コストがかかっています。キャッシュレス化が進むとATMを減らせるため、そのコストが削減されるという利点があると思います。
― キャッシュレス化が進めば、これまでのように「合計金額が1円合わないから帰れない」ということもなくなりそうですね。
吉濱 おっしゃるとおり、金融機関にとっても小売店にとっても、現金を扱わなくていいと仕事が楽になるでしょうね。
金融機関にとってのもう一つのメリットとして、顧客の購買情報へのアクセスがあります。ATMで現金を下ろす代わりに銀行系のキャッシュレス決済サービスで買い物してもらえれば、購買データを通じて顧客のライフスタイルを知ることができ、販売促進につなげられます。例えば幼児用の洋服をよく買っているとわかれば、小さな子どもがいるはずだから、「学費積立預金」を提案するといったことですね。
― インターネットの検索連動型広告は、仕事で一度検索しただけなのに、それから毎回、検索した言葉に関係する商品の広告が表示されたりして、使う側としては「うざったいな」と感じることもあります。キャッシュレス決済になると、購買履歴に応じたニーズのマッチングに継続的に活用されたりするようになるのでしょうか。
吉濱 私もある通販サイトで食器棚を買ったとたん、他のいろいろなサイトで一斉に食器棚の広告が表示されるようになって、うんざりしたことがあります。お酒や文房具など、継続的に買う商品が適当なタイミングでリコメンドされれば、買う側にとっても便利です。ただ食器棚のように一度買ったらもう買わない商品については、やり方を変えたほうがいい。検索連動型広告を「うざったい」と感じるのは、一つには見せ方の問題で、システムが洗練されていないという面が大きいと思いますね。
岡田 企業が購買データを集める上で大事なのは、消費者の側に「情報を渡すことには、プライバシーを侵害される以上のメリットがある」と感じてもらうことでしょう。提供したプライバシーより受け取る利便性が大きいと利用者が判断すれば、その取引は成り立つはずで、それがデータビジネスの本来の姿だと思います。QRコード決済サービスについても、データを使ってユーザーに独自の利便性を提供できれば、今の乱立状態の中でも生き残ることができるでしょう。他社にできない何かを提供できるかどうかが勝負ですね。
コンソーシアム型ブロックチェーン
― 今後、キャッシュレスサービスの競合各社の中で連携が進む可能性はあるでしょうか。
吉濱 今はさまざまなキャッシュレス決済サービスが乱立していますが、ブロックチェーンを使うことでこれらを連携させることも可能です。
ブロックチェーンというと、ビットコインのような仮想通貨を思い浮かべる人が多いと思いますが、ビジネスの世界ではすでに、業界内や業種にまたがった物流ネットワークなどの形で、企業が連携するためのプラットフォームとして使われ始めています。
ビットコインは参加者を限定せず、全体を管理するものもいないオープンな形のブロックチェーンで、「パブリック型」とか「トラストレス」と呼ばれるスタイルです。一方で参加者を許可制とした上で、企業コンソーシアム(共同事業)などクローズな形で、ブロックチェーン上で情報や価値をやり取りする形のサービスもあり、「コンソーシアム型」「プライベート型」と呼ばれています。後者ではこれまで各社ごとにバラバラにやり取りしていた情報を、ブロックチェーン上で共有して一元管理し、決済業務や物流を効率化することができます。
弊社が最大手のコンテナ事業者であるマースク社とともに2018年にサービスを開始した国際物流コンソーシアム「TradeLens(トレードレンズ)」には、各国の大手船会社や港湾管理局が参加しており、発足1年で既に世界のコンテナの50%以上を扱うまでになっています。コンソーシアムに参加することで、どのコンテナがどの船に積まれ、どの港から出荷され、今どの国にあるかといった情報を共有できます。これまで積み出しや通関手続きには大量の書類が必要でしたが、情報をブロックチェーンに記録して共有することで書類業務の手間を省き、物流の透明性とトレーサビリティを確保できます。入管に要する時間が劇的に短縮され、書類が足りずに輸出ができなくなったコンテナが港に放置されるといったトラブルがなくなると期待されています。
また「IBM Food Trust(フードトラスト)」は、食品サプライチェーンのためのブロックチェーンによるネットワークで、参加者から提供されるデータを共有することで、食材の物流を効率化し、食の安全性の向上にも寄与します。例えば「スーパーのレタスから大腸菌が検出された」といった問題が発生したときにも、共有された情報から汚染源を突き止めて素早く対策することが可能になります。
岡田 貿易の場合は関係者が多く、しかも複数の国にわたるので、国ごとの書式に合わせて書類を書き換えるだけで大変な手間がかかっていました。商品がサプライチェーンの途中で所在不明になるケースも少なくないので、いち早くブロックチェーンが導入されたことは納得できますね。
ある卸売市場で話を聞いたことがありますが、扱う商材によって市場が別々になっていて、1人1台ずつ端末が置かれたブースで電子入札するものもあれば、昔ながらに手を使ってセリをしているものもあるんです。昔ながらの市場では、まだ入荷していない商品をどこからか探し出して納入するのが仲卸の才覚とされていて、「あまりわかりすぎると面白くなくなる」と言われたりしました。ただ、そうした人たちもみんなで積立金を積んで事故に備えるなど、ある種、一蓮托生のところがあるので、コンソーシアムをつくって情報を共有すればいいじゃないかと思うんですね。行く前には「ここにはブロックチェーンはいらないかな」と思っていたんですが、お話を伺っているうちに、「お悩みの問題が解決しますよ」と熱烈に勧めたくなりました(笑)。
仮想通貨の信頼性
― ブロックチェーンが注目されるきっかけとなった仮想通貨については、どうお考えですか。
吉濱 ビットコインのような仮想通貨は、私は通貨とはいえないと考えています。今では「暗号資産」と呼ばれるようになったことからもわかるように、決済手段ではなく投機目的で売買され、価値が乱高下するため、支払い目的で使うには適していません。
通貨に必須の信頼性にも問題があり、これまでも仮想通貨交換所が攻撃され、保管している暗号資産が盗まれた事件が何度もありました。多くは暗号資産をホットウォレットに置いたままだったり、暗号鍵を盗まれたりといった、交換所の管理の甘さが原因でしたが、暗号資産のシステム自体にも問題があります。
ビットコインのように「マイニング」によって報酬を得られる暗号資産では、理論上、参加者全体の半分以上の計算能力があればブロックチェーンを乗っ取ることができてしまいます。これは「51%攻撃」と呼ばれ、実際に参加者が少ないマイナーな暗号資産では乗っ取られてコインを奪われてしまうケースが頻発しています。こうしたものがこれからも安定して参加者を確保し続けられるのか、私は非常に懐疑的です。
一方ではFacebookのリブラのような、法定通貨を担保として交換価値を保証する暗号資産である、「ステーブルコイン」が出てきています。ビットコインのようなトラストレスな暗号資産と異なり、主に「パーミッション型」といわれる企業コンソーシアムで運営され、一定量の法定通貨を集め、それと同等額のコインをブロックチェーン上に発行することで、法定通貨との交換を保証するものです。投機目的でなく決済手段として使うために、交換価値の安定を考えた電子通貨ですね。
岡田 少し前に台北でブロックチェーン関係の会議に参加したとき、「ステーブルコインを発行したい」という業者側と、「暗号資産など絶対認めない」という経済学者が討論したことがあります。このときの討論では、経済学者が「全てのステーブルコインはステーブルではない」と全否定したのに対し、その場に集まった人たちはグウの音も出ませんでした。これまでの例では、ステーブルコインが値上がりしてしまうこともあったからです。
リブラへの否定的な反応でもわかるように、「通貨は公共財であって、国あるいは中央銀行が発行すべきものだ」という考えが、最近の経済学者たちの主流になっています。
しかし、だからといってビットコインのようなトラストレスの仮想通貨に存在意義がないのかといえば、そうではないと私自身は考えています。
2000年頃に参加したアメリカの「コンピュータ・フリーダム・アンド・プライバシー」という会議は、政府から参加したスーツ姿の女性がプレゼンしている一方で、ヒッピーのような若者が床に座り込んでハッキングしている、という状況でした。
ハッキングしていた若者は、「シーランド公国のサーバー管理をやっている」と言っていました。「政府のない通貨ができないか」と思って、会議に参加したそうです。
シーランド公国というのはイギリスの沖合にある砲台跡を占拠して造られた自称独立国です。昔、イギリスのラジオ放送でロックミュージックを流すことができなかった時代に、公海上で船の上からラジオ放送をした人がいましたが、これと同じようなノリで独立国家を建てたのです。かつて目的とされたのは音楽の無国籍化でしたが、現代の自由国家が目指すのは通貨の無国籍化です。
良し悪しは別として、「どこの国の規制も受けないお金があってもいいじゃないか」という考えの人がいる。彼らにとってビットコインは、国籍を持たず、どこにも管理者がいないことに意味があるんです。
ビットコインが登場した当時、「この先、仮想通貨はどうなるのか」と議論し、「ビットコイン型の完全に無国籍なものと、しっかりした主体が発行するものに二極化していくのではないか」と予想したことがありますが、その後、実際にそうなってきているように思います。
デジタル法定通貨の動向
― 中国人民銀行が法定の仮想通貨の発行を計画しているという話がありましたが、この問題についての国内外の中央銀行の動きはどうなっていますか。
岡田 2019年9月に日本銀行が、「『中央銀行デジタル通貨に関する法律問題研究会』報告書」を公開しました。私もこの研究会に参加していたのですが、日銀にはデジタル通貨を発行する計画はなく、ブロックチェーンの利用も想定していないという、いささか控えめな結論でした。
吉濱 もし日銀がCBDC(Central Bank Digital Currency/中央銀行デジタル通貨)を考えているとなったら大騒ぎですから、そう軽々しく口にはできないでしょう。だからといって日銀がブロックチェーンに興味がないというわけではなく、例えば欧州中央銀行との間で決済にブロックチェーンを使う「プロジェクト・ステラ」という共同研究を、もう数年続けています。個人的な想像ですが、仮に中央銀行がCBDCを出すとしても、当面は一般の人向けではなく、銀行間決済に限定された形になるのではないかと思いますね。中央銀行は「銀行の銀行」で、民間銀行間のお金のやり取りを仲介する立場ですから。
岡田 海外の中央銀行ではイギリスのイングランド銀行、中国の人民銀行などがCBDCについてプレスリリースを出しています。イングランド銀行は以前からブロックチェーンに関心が強く、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)に協力して「RSコイン」という間接型のデジタル通貨の試作品まで作っていますし、中国人民銀行には数字貨幣研究所という傘下の組織があり、既に2016年に、「将来的に法定数字貨幣を発行する計画がある」と公表しています。法定数字貨幣というのは法定デジタル通貨のことで、「央行数字貨幣」という名称で呼ばれることもあるようです。
発展途上国でも幾つかの国がブロックチェーンを使ったデジタル通貨を出す動きはあります。こうした国では自国通貨への信認があまり高くないため、国民がスマホで買い物したり送金をしたりする際に、よその国や外国企業が発行したデジタル通貨を使うようになるかもしれない。そうなる前に自分たちでデジタル通貨を発行し、自国の通貨を守ろうという考えです。その関係で、日本企業でブロックチェーンに関わっているエンジニアの人たちが東南アジアに呼ばれて行っています。
地域通貨とブロックチェーン
― ブロックチェーンを使った、デジタル地域通貨も出てきていますね。
岡田 先日、飛騨・高山で行われた「貨幣革新・地域通貨国際会議」というイベントに参加させていただいたんですが、飛騨・高山には地元の信用組合が関わっている「さるぼぼコイン」という地域通貨があるんです。1コインが1円で、QRコードを使う「さるぼぼPay」で支払います。1%分のポイントが還元される一方で、コインの有効期限は1年で、なるべく早く使うようにすることで消費を促しています。預金口座直結のコインなので、流通範囲が限定されていることを除けば、ほとんど通貨そのものです。
このさるぼぼコインではブロックチェーンは使っていないのですが、もし使っていたら、「どこかの国の中央銀行がやる前に、日本の信用組合がデジタル通貨を出していた」ということになったかもしれません。
吉濱 ブロックチェーンの場合、トランザクション(取引の処理)のスピードにより時間がかかるという性質があるため、現状では広域通貨より地域通貨のように利用者が限られているほうが適用しやすいと思います。ビットコインなどは秒間7件程度しかトランザクションを処理できないため、処理が滞ることもあります。弊社が提供しているブロックチェーンはその百倍から千倍の処理速度がありますが、それでも全世界で発生する全ての決済を処理するのは、現在の技術ではまだ難しいですね。
岡田 地域通貨はボランティア団体が主宰する現金から遠いタイプと、商店街の商品引換券のような現金ライクなものに二分されます。最近は金融機関が関わるケースが増えていますが、これは電子化された預金通貨そのものです。電子化された通貨の場合、ある地域内で使うと特典がつくけれども、地域の外で使うとそれがないとか、ある時期までに使うとキャッシュバックがつくけれども、それを過ぎるとつかないといった、紙の通貨では難しい細かな設定が可能で、これからもいろいろユニークな通貨が登場してくるでしょう。
吉濱 最近ではインターネット上で使用される電子通貨である、「トークンエコノミー」も注目されています。ネットサービスを提供する側がトークン(代替貨幣)を発行し、サービスの利用者は特定の行動をすることでトークンがもらえ、それを別のサービスを受け取るのに使うことができるという仕組みです。
弊社がご支援する三井物産も、健康に関するトークンのサービスを提供しており、広島でのパイロット実験を2019年前半に終え、全国展開に向けて準備中です。これは、健康に良い商品・サービスを購入するとポイントが発行されて、それをマッサージ店や薬局などの店舗でお金として支払いに使えるというもので、トークンの利用を通じて健康増進活動を活発にすることを狙っています。また、音楽配信サービスの中で、あまり知られていないようなマイナーな音楽を聴くとトークンがもらえ、それを貯めるとメジャーな音楽をダウンロードできる、といったものがあります。日本でもLINEやエイベックスなどがブロックチェーンを使ったトークンエコノミー・サービスを発表しています。
岡田 ブロックチェーンは物流だけでなく、コンテンツビジネスとも相性がいいんです。
スマート・コントラクトによる業務改革
― ブロックチェーン技術は、今後どういった形で発展していくのでしょうか。
吉濱 ブロックチェーンのもう一つの大きな特色は、スマート・コントラクトが使えることです。これはブロックチェーン上で動くアプリケーションで、契約で合意した内容を自動的に実行するプログラムです。
スマート・コントラクトを使うと、これまで分離されていた「サービスを買う」「コインで代金を払う」「サービスを受ける」といった一連の行為を、連続的に自動実行することができます。また同じサービスの価格を、使う時間帯や場所によって変えるといった振る舞いを組み込むこともでき、これまでになかった面白いサービスが生まれるのではないかと期待しています。
岡田 スマート・コントラクトは、関係する人が多くても一括してさばけるのが特徴です。これまでは5社が参加するプロジェクトをやるとしたら、それぞれ一つ一つの会社同士で紙の契約書を作るため、複雑な契約では弁護士費用だけで何千万円もかかっていました。スマート・コントラクトを使うとそうした作業が、ブロックチェーン上の情報共有だけで済んでしまいます。生産性がないのに時間ばかりかかっていた作業がなくなって、働き方に大きな変化が起きる可能性があります。
吉濱 日本の会社の残業は月末に多くなっていますが、それは一つには請求業務が月末に集中するからです。ブロックチェーン上に合意事項を記録していけば、その都度証跡が残り、発注も決済もスマート・コントラクトで一気に済ますことができる。すると月末に残業することもなくなるかもしれません。また、口約束で仕事を発注してしまい、あとで「言った言わない」と問題になることもなくなります。そのような点からも、今後は活用すべき場が大きく広がりそうです。
― 月末の残業がなくなるというのは、素晴らしいですね。お話を伺って、ブロックチェーンという新しい技術について、ポジティブなイメージが湧いてきました。