“自分らしいスタイル”で学ぶ

2020年10月25日 11:34 Vol.73
   
三橋 優希
N高等学校2年生
Yuki Mihashi
幼少期から中学3年まで、ホームスクーリングで育つ。小学校高学年でプログラミングと出合い、さまざまな作品を制作。中学3年、U-17人材育成事業「未踏ジュニア」スーパークリエータに認定。 2019年、N高等学校に入学。20年夏には子どもに向けたプログラミングの書籍『できるキッズスクラッチでゲームをつくろう!楽しく学べるプログラミング』を共同で執筆・出版。現在はWebデザイナー/プログラミング講師として働く傍ら、 子ども向けプログラミング学習サイトの開発・運営に取り組んでいる。
   
向井 彩野
米国・ハーバード大学3年生
Ayano Mukai
東京学芸大学附属高等学校卒業。東京大学入学後、半年で退学し、米国・ハーバード大学へ。大学では自然保護について学び、アフリカのサバンナの生態系を研究。海外経験なしから東大とハーバードの日米トップ大学に合格した経験を生かし、 日本の米国大受験生のサポートも行っている(YouTube:「アヤの白熱!留学教室」/Instagram:@aya_love_harvard/Twitter:@aya_harvard)。将来は、生態学者として現場の自然保護に取り組むとともに、日本の大学で教育に携わり、その発展に貢献できればと考えている。

さまざまな教育問題について、これまでは主に学びを提供する側の視点からアプローチを行ってきた。ここでは、公教育を終えて自らの主体的な選択で進学を果たし、現在は高校生・大学生として学ぶお二人の対談を実施。それぞれユニークな学生生活に臨む、当事者ならではの貴重な意見を伺いながら学びの多様な現状に触れるとともに、改めて教育の意味を考える。

   

 
 
 
 

新型コロナの学業への影響

—向井さんが入学された米国のハーバード大学では、コロナ禍の中、授業はどんな状況ですか。

向井 私はキャンパス内で寮生活をしてたのですが、今年3月に、一部の留学生や特別な事情がある学生を除くほとんど全員が寮を強制退去になって、日本に戻りました。この夏、サマープログラムでカリブ海の島にひと月滞在し、その後は自分の研究で南アフリカに1カ月間行くはずだったのが、両方キャンセルになってしまって。

新学期が始まる9月からは、キャンパスに入れるのは学部生全体の40%までで、1年生のほかは研究のためにどうしてもキャンパスにいる必要がある学生とか、遠隔地からの留学生とか、特別な事情のある人だけなんです。私もその一人なので寮に戻ることはできるものの、授業は完全オンラインだし、今戻っても知り合いはほとんどいない。大学も感染防止に躍起になっているので、秋学期の間は日本からオンライン授業を受けることにしました。時差があるので大変なのですが、オンラインで授業を受けながら10月からは北海道に行って、北海道大学のマリンラボで研究アシスタントとしてフィールドリサーチする予定です。

—三橋さんが在籍しているN高等学校は、もともとオンライン授業を行っていますが、コロナの影響はありますか。

三橋 学業自体に影響はないですね。今はオンラインで授業を受け、レポートを出して、アルバイトして、という生活です。

向井 バイトは何をやっているの?

三橋 いろいろ変わったんですけど、高校に入ってからマクドナルドでバイトして、去年の6月ぐらいからはN高等学校(以下、N高)と同じ角川ドワンゴ学園が運営している「N CodeLabo(エヌコードラボ)」というプログラミング教室で、スクラッチやユニティというプログラミング言語やゲームエンジンを小中学生に教えています。ほかに今年の3月までプロジェクション・マッピングなどをやっている会社でもお手伝いをしていました。その会社は、イベントや施設の演出やイルミネーションなどを手がけていたのですが、コロナで打撃を受け、バイトも3月で終わりになりました。その後、知り合いから「Webデザインをやりませんか?」って声を掛けられて、今は週5日、1日6時間働いています。

向井 週5日で1日6時間?学校あるのに、キツくない?

三橋 N高だと時間の融通が利くんです。授業は好きなときに動画を見ればよくて、あとはレポートを書いて提出するだけなので。早い人だと4月と5月の2カ月で、1年分の課題をサクッと終わらせちゃうんです。

向井 それは、残りの10カ月で学んだことも忘れるって(笑)。

三橋 残った時間で自分の好きなことを勉強するんです。アドバンストプログラムというのがあって、そこでウェブデザインやプログラミングも勉強できるし、数学などの基本科目の上級コースもあります。大学入試のために試験勉強してる人もいます。学習の場所はN高に限らず、自分の学びたい時間に自由なスタイルで学べます。

向井 そうなんだ。実は私、この春にN高の子たちに海外留学の説明会をしたのね。でもオンラインの学校って聞いてただけで、実際にそんなふうだなんて全然知らなかった。

三橋 今だとみんなZoomとかで、リアルタイムでやるものと思うじゃないですか。実はそうじゃなくて、好きなときに好きな授業動画を見ればいいんです。一応、オフラインで体育などのスクーリングには出ないといけない決まりなのですが、もともと年に5日だったのが、今年は新型コロナウイルスの影響で2日ほどに減りました。

向井 それだと自分が望めば、どこまでも落ちちゃうね。2カ月で課題を終わらせて、あと10カ月ずっとゲームやってるとか。でもゲームが好きなら、それでもいいのか。

三橋 eスポーツ部もあって、かなり強いです。

向井 すごくレベル高そうだね。

   
三橋さんの最新著書『できるキッズスクラッチでゲームをつくろう! 楽しく学べるプログラミング』(インプレス/2020年7月)
   
プログラミングのイベントにオンラインで登壇
 
 
 
 

学校の存在価値とは

—三橋さんはN高に入るまでは、ホームスクーリングだったんですね。

三橋 はい、私が2歳のときに弟が生まれて、母が会社を辞め、それまで保育園にいた私と弟を家で育て始めました。そのまま小学校に入る歳になって、「ホームスクールで進めよう」ということになったみたいで。我が家はクリスチャンで、通っていた教会のアメリカ人の牧師先生と日本人の奥様がホームスクーリングをしていました。なので実際的な情報に触れられる環境だったと思います。

向井 勉強はどうしてたの?

三橋 ひらがなの読み方とか、足し算、引き算の概念などは、親が説明してくれました。教科書やドリルの説明が一人で読めるようになったら、自分で勉強を進められる部分もあって。あとはわからないときだけ聞く感じです。

向井 学校に行きたいって、一回も思わなかった?

三橋 「同年代の友達がほしい」っていうのはありました。でも、その後にプログラミングとかでいろいろなコミュニティに関わるようになって、結果的にはなんとかなったかな。

向井 どういうきっかけで、外のコミュニティに関わることになったの?

三橋 中学2年のときに「Scratch Day (スクラッチディ)」という、世界各地で同時開催されるイベントがあって、「スタッフとして何かお手伝いできることはありませんか」と問い合わせたんです。そうしたら「あるよ」と言われて、東京のリアルイベントにスタッフとして参加しました。そこでいろいろな人たちと出会って、「ああ、楽しいな」って思って、そこから小中高生がオフラインで集まれるプログラミングサークルを自分たちで作ったりして、活動を広げていったんです。でも意識して広げていったというより、気づいたら広がっちゃったという感じです。

私にはいつも「誰かに喜んでほしい。見てほしい」という気持ちがあって、小さい頃に絵を描いていたときも、人に見てもらうのがすごく好きだったんですね。プログラミングでも私にとって楽しいのは、自分の作ったものを誰かに使ってもらって、フィードバックしてもらうことなんです。それが外に出ていくことにつながったのかな、と思ってます。

向井 優希ちゃんはやりたいことがいっぱいあって、コミュニティが充実してたんだね。N高には自分で行きたいと思って入ったの?

三橋 中学3年のとき、「高校はどこかに在籍したいな」って思ったんです。でも私、通学したことがなく、勉強は自宅で自分のペースでできるほうが私には合っていると考えて、通信制にしました。通学は大変そうなイメージを持っていたので。

向井 通学は慣れだよね。私は小学校のときはバスで片道30分だったけど、すごく遠かった。高校に入ったら片道1時間になったけど、慣れた。通学時間は短ければ短いほどいい。ただ、通学はみんなが一堂に会するということに、価値があると思うんだよね。学校の良さって、結局は友達かな。友達と会って、ぶつかり合って、高め合うというところ。

三橋 オフラインで人と会うのは、やっぱり大事なことだと私も思います。でも全く趣味の合わない人とランダムに同じ場所に入れられるのは、必ずしも賛成しないかな。学校以外にコミュニティがあれば、別にその必要は感じないです。でも学校以外にそういう場所がないのなら、学校に行ったほうがいいと思う。人との関わり、つながりは大事で、でもそれを作る場所を学校に絞る必要はないかな、というのが私の意見ですね。私の場合、好きなことに取り組むのを続けていきたいと思っていて、N高はそこがやりやすいです。

向井 とっても楽しそうだもんね。

 
 
 
 

日本の高校からハーバード大学へ

—向井さんは高校までは日本の学校だったんですよね。

向井 私は小中高と学芸大の附属でした。小学校で受験して、中学受験もしようとしてたのですが、小6の夏ぐらいに「やっぱ女子校無理」と思って、そのまま附属の中学に進学。高校は改めて受験して附属高校に入って。大学はアメリカと日本で受験して、高校卒業後、半年間東大に行って、9月からハーバードに移りました。

—向井さんのYouTubeを拝見すると、高校時代は、交換留学でタイに行ったり、女子サッカー部で部長をしたり、山岳部でインターハイに出場したり、学校の外でも東北まで行って、ボランティア活動をしていたとか。

三橋 東北では何をしてたんですか。

向井 「アースウォッチ」という自然保護団体のお手伝い。もともと自然が好きで、自然保護に興味があったので、自分でも何かしたいなと思っていたら、この団体では一般人が自然保護のリサーチ活動に参加できるって聞いたので、参加しました。東日本大震災で生き物が受けた被害の状況を調べるというミッションで、そのとき会った人たちとは今でも連絡を取り合ってます。この10月から北海道へ行くのも、アースウォッチの人に「フィールドリサーチできる場所を探してるんですけど」って訊いて、紹介してもらったのね。

三橋 活動範囲、広いですね。

向井 でも私の場合、やっぱり学校がメインだったかな。高校時代には部活や生徒会とか、課外活動をいろいろやっていて、ハーバードに受かった理由をアドミッションオフィスに訊いたとき、挙げてもらったのもそれだったし。自分の手を広げていって幅広くいろんな人たちとつながるのも大事だけれど、それと同時に自分の身の回りの人たち、半径5メートル内の人を幸せにしようって頑張ることも、すごく大事かなって思ってる。

三橋 向井さんは、どうしてハーバードを受けようって考えたんですか?

向井 私は中2のとき、科学者と中学生が一緒に合宿する「創造性の育成塾」というイベントに参加して、そこで塾長の人から「みんな海外へ行け!」って言われて留学に興味を持ったのがきっかけかな。高校では、海外の大学に進学するための塾に通っていて。両親からは「東大に合格して、奨学金にも合格したら留学を認める」って条件を出されて、幸い両方合格しました。

同時に、アメリカの大学にも願書を出していたんだけど、アメリカの大学って合格率10%以下の世界だから、たくさん出すのが普通なの。そのときの出願校選びは、正直「なんとなく」だった。でもハーバードって最初、受ける気なかったのね。「エリート」っていうイメージが強くて、「私はどうせ受からない」と思ってたから。でも受けようと思ってた大学とハーバードの、書かなきゃいけないエッセイのトピックがたまたま同じで、友達から「課題が同じなのに、なんで願書出さないの?」って言われて、記念受験のつもりで出したら、受かっちゃった。

私の場合、10校受けて受かったのは3校で、これは運がよかったと思う。大学側も合格者にはウェルカミング・プログラムを用意してくれていて、そこで初めてキャンパス・ビジットして、いろいろな人に話を聞くんだけど、なかなか進学する大学を決められなくて。

アメリカではハーバードのような総合大学のほかに、小規模で大学院に進学することが前提のリベラルアーツ・カレッジという教養中心の大学があって、この2つは全く違うカテゴリーなんだよね。ハーバードは総合大学のトップ校なんだけど、私はウィリアムズ大学というリベラルアーツのトップ校にも受かっていて、そこのキャンパスは田舎にあって、コミュニティがすごく温かい。キャンパス・ビジットしたら、「ムーンライトハイク」というイベントがあって、丘を登って、頂上に着いたら先輩たちがキャンプファイアしてて、みんなで1つの火を囲んでね。星がきれいなところで、マシュマロ焼いてたら、後からこっそりアカペラグループが来てて、背中からアカペラが聞こえてきて。もう感動して、泣いちゃった。

三橋 なるほど~。ハーバードのほうはどうでした?

向井 ハーバードでよかったのは、キャンパス・ビジットで私を推薦してくれたアドミッション・オフィサーに会えたこと。つまり私を合格させてくれた人。でも私、合格した後になってもまだ、ハーバードでやっていく自信が全然なくて。それまで通ってた塾の友人は、ディベートの世界大会でチャンピオンになったりして、高校時代からインターナショナルに活躍している人が多かったんだけど、私は自分の高校で部活とかを頑張ってただけじゃない?

そのことにすごく誇りは持っていたけど、ハーバードって「世界のトップ」っていうイメージがあったから、国内でしかやってないことにコンプレックスもあって。

アドミッション・オフィサーに「私、なんで合格できたんでしょう」って訊いたら、私が応募したときに書いたエッセイを全部読み上げてくれて、「こんなに高校への愛があふれているエッセイは読んだことがない。これほど身の回りの人を大事にする気持ちを持って、そのために行動できる人はすごい。あなたが入ってくれたら、きっとハーバードを愛して、ハーバードをよくするために手を貸してくれると思った。だからあなたを推薦したんです」って言ってくれて。私、それを聞いたときも泣いちゃって。そう言われて、初めて自分の魅力に気づけたって思った。

三橋 両方で泣いたんですね。

向井 そうなの。で、そのどっちに行くかで、もう悩みに悩んで。でも日本ではつかめない何かをつかみたいと思ってアメリカに来たのに、こっちでも温かいコミュニティを求めるのは違うんじゃないかと思って、ハーバードに決めたのね。実際入ってみたら、ハーバードにもすごく素敵なコミュニティがあった。ハーバードは「世界のリーダーを育てる」っていう大学で、でもリーダーは人に愛されてなんぼだから、コミュニティを作るのがうまい人たちの集まりだったんだよ。

三橋 それは入って初めてわかったんですか。

向井 もう、入ってみないとわかんないことばっかり。留学にもハーバードにも、体験してみないとわからない魅力がたくさんあるよ。それを知ってほしくてインスタグラムを始めて、楽しそうな写真をバンバン上げてます。「彩野さんのインスタ見て、今すごいハーバード行きたいんですけど」なんていうメッセージも来るから、「やってよかったな」と思っている。

三橋 誰かのきっかけになりますもんね。

向井 そうそう。私のインスタ見て、それまでより軽い気持ちで「わたしハーバード行きたい」と言えるようになってくれるのが、すごくうれしい。優希ちゃんは、大学受験とかは考えてないの?

三橋 まだ、あまり考えてないです。でも受験勉強する気はなくて、好きなものを作りながら、さらに学びたいことが出てきたら、そのときは、自分の活動とかで大学に入れたらいいなあって、なんとなく思ってます。

向井 アメリカの大学なら、今から目指しても間に合う。楽しいよ。キャンパスに住むから、通学もないし。

三橋 そうですねえ(笑)。

向井 まあ、無理にプッシュはしないけど(笑)。

   
向井さんは、ウェブ上で積極的に大学や受験に関する情報を発信。アメリカの大学への進学の可能性を伝えている
   
ハーバード大学で仲間たちと。留学の魅力を伝えるため、FacebookやInstagramにはたくさんの写真がアップされている
 
 
 
 

ハーバードのディスカッション

—ハーバードの授業はエキサイティングだと聞きますが、どうですか。

向井 ディスカッションが多く、先生がその質を高めるために、すごく工夫しているのがわかります。例えばオンライン授業だと、予め課題を用意した上で、ブレイクアウトルーム(Zoomのグループワークのための小部屋)に学生を入れて、そこで課題について学生がディスカッションし、事前に配布されたドキュメントファイルに学生がその内容を書き込んでいく。するとほかの学生がすぐに意見を書き入れて、それぞれの発言内容に「いいね(Good)」「よくないね(Bad)」のマークがついて、みんなで見ることができる。先生はそうやってクラス全体の雰囲気をつかんだ上で、誰かの意見をピックアップして、「これを書いたのは誰?詳しく話してくれるかな」といって話をさせて、それについてほかの学生の意見を訊いたり。

オフラインでは先生が教壇に立たずに、学生と一緒に机を囲んで、「この課題図書は読んだと思うけど、その中のこの文章についてぼくはこう思っている。みんなはどう思う?」と質問を投げて、その後2時間まるまるディスカッションということもありました。「結論をここに持っていきたい」という誘導や、意見を集約させることも求めないで、議論し続けたまま終わるんです。

—ディスカッションをする上で大事なことは何でしょうか。

向井 大事なのは、まず事前に考えてくること、そして人の意見も聞きつつ、自分の考えを述べていくことですね。実際に行ってみて思うのは、アメリカの大学の魅力は多様性だということ。人種もジェンダーも今までの人生経験も、お互い全然違う人たちが集まっているので、意見を交換するだけでぶつかって、そこから新しい何かが生まれてくるんです。日本の場合は、何かと同調し合いますよね。「確かに」とか「ぼくもそう思う」とか言って、意見が一本に絞られてしまう。アメリカではそれぞれが違う考え方を主張し合うし、その多様な意見を尊重し合う伝統があって、だからこそディスカッションに大きな意味が出てくるんだと思います。

三橋 ハーバードの教育で一番いいところって、何ですか。

向井 私にとってのハーバードの魅力は、結局、寮生活かな。ぶっちゃけ、共同生活こそ教育の最終形態だと思う。一緒に住むことによって、自分と全然違う子たちと直に触れ合えて、しかも毎日、24時間一緒だから、すごい学びになるんだよね。

私が1年生のときのルームメイトは3人いて、1人は超コンサバティブなムスリムで、彼女の話を聞いてイスラムに興味を持ってイスラム教の授業を受けたり、お互いの宗教観を話して「けっこう似てる」と感じたり。そういう話で朝の3時とか4時まで盛り上がっちゃうんだ。もう1人はパレスチナから来た留学生で、「私は女性初のパレスチナの大統領になる」なんて言ってて。その子からパレスチナとイスラエルの紛争の歴史を聞いてたら、、となりの部屋のユダヤ教徒の女の子が入ってきて、「待って。ちょっと落ち着こうよ」となったり。そういう寮生活の経験が魅力かな。

 
 
 
 

日本におけるアクティブ・ラーニング

—N高ではディスカッションやアクティブ・ラーニングはするんですか。

三橋 強制で参加しないといけないものはないですね。学校でディスカッションしたことはないです。基本、「みんな好きなことやればいいよ!」という姿勢なので。例えばプロのスケーターを目指している人からすれば、みんなとディスカッションするより練習を優先すると思うんですよね。そういうところを縛らないのが、N高のいいところです。

向井 そこは割り切ってるんだね。

三橋 ディスカッションとかアクティブ・ラーニングっていうと、私の場合、家での弟や妹との口ゲンカを連想します。3歳差と5歳差で、ずっと一緒にいて仲もいいので、すごくしゃべるんですけど、お互い価値観というか好きなものが違っていて、それぞれ意見を述べ合うんです。親から「絶対に手を出してはいけないよ」と小さい頃から言われていて、口ゲンカだけなんですが、途中から「自分の意見を通すためには、感情をぶつけるより論理的に話したほうがいい」とお互い気がついて、だんだん議論がうまくなりました。結果的にそれがアクティブ・ラーニングになっていたかな。

向井 「兄弟ゲンカがアクティブ・ラーニング」って捉える発想、すごく面白いね。優希ちゃんの家ではきっと、「私はこういう理由でこう思っているから、こっちがいい」とか、お互い論理的に意見をアウトプットできてたんだね。

三橋 今振り返ると、そこは父親がやり方を教えてくれていたんです。ケンカしているときに「相手をけなすんじゃなくて、相手の意見を受け止めて、『自分はこう思う』と伝えるんだよ」ということを、小さいときから教えられていて、私が「パパ、弟がこんなことやった」と訴えても、「私たちは裁判官じゃないからね」と言って、お互いが冷静に話せる場を作って、どういうふうに話し合うべきか教えてくれてました。

向井 日本のアクティブ・ラーニングの議論では、うまくできない責任を、学校だけに押し付けている印象があるよね。だけど、こんなふうに日常生活の中でも、論理的にアウトプットする機会はあるわけで。

三橋 そうですね。受け身で聞くだけじゃなく、「自分はこう思う」と表現したり、自主的に考えて動けるようになるには、参加できる議論の場があったほうがいい。それが家にあるなら家でやればいいと思う。でも、みんなが家でできるわけじゃないですよね。私の場合は兄弟がいたけれど、「一人っ子だったらどうだったかな」とも思うし。学校に通っている人にとっては、学校以外の時間は短いので、「学校でアクティブ・ラーニングやってください」という期待があるのはわかります。

向井 確かに。でも、日本の学校教育では、まだ、そこをカバーしきれないのかな。東大の授業でもインプットがメインだったし(笑)。

 
 
 
 

今後の目標

—お二人がこれからやってみたいのは、どんなことですか。

三橋 私は今「『作るって楽しい』と気づいてもらうきっかけづくり」が好きだと感じていて、「メクルン」という、子どもたちが自分のアイデアを取り入れながらビジュアルプログラミングでモノづくりを学べるような学習サイトの開発と運営を、相方と一緒にしてます。これからもWebサービスじゃなくてもいいから、「作るって楽しいよ」って伝えていきたいですね。

向井 仲間がいるのがいいね。相方って、どんな人なの?

三橋 去年の8月、東京で「Maker Faire Tokyo(メイカーフェア・トウキョウ)」という、コンピュータやセンサーを使ってモノづくりする人たちの祭典があったときに知り合ったんです。関西に住んでいるので、基本的にネットでやり取りしてます。

去年10月に和歌山県であった「NASA Space AppsChallenge Kushimoto」というハッカソン(プログラマーやデザイナーがチームを組んで、与えられた課題をクリアするために集中的に作業し、成果を競うイベント)ではチームを組んで、大阪から電車で4時間かけて参加して、NASAの星の画像を使ってオリジナルの星座を作るサービスを作って、優勝することができました。

向井 ハッカソンなんてやってるの?私がハーバードで受けた「CS50(フィフティ)」っていうコンピュータ・サイエンスの入門課程でも、最後のイベントがハッカソンで、みんな徹夜で作業して、最後はボロボロになってたよ。朝5時ぐらいに終わって、最後はバスに乗って朝ごはんを食べに行って、貸切バイキングで食べ放題だったんだけど、いつもは大喜びで食べる連中が、みんな「早く帰って寝たい」って言ってた。あれはヤバかったな。

三橋 ハッカソンは健康によくないです(笑)。相方とは、コロナが起きてからは、一緒に「Yobikake」というサービスを4月に作りました。これは、例えば「医療従事者に感謝を」とか「手洗いしよう」と呼びかけたいとき、ワンクリックでできるサイトです。多くの人に使ってもらえたので、作れてよかったです。

向井 いろいろ頑張ってるね。

   
三橋さんは、2019年10月18日(金)~20日(日)に和歌山県串本町で開催された「NASASpace Apps Challenge Kushimoto」というハッカソンで、オリジナルの星座を作り共有するWebサービス「CONSTELLATOR!」をチームで開発。グローバル賞を受賞し、優勝した
   
向井さんは、昨年の夏、タンザニアで自然保護活動について学んだ。ハーバード大では、生態系や自然保護に関する勉強を進めている

向井さんが今後やりたいことは。

向井 たくさんあるのですが、まずは日本の大学教育に貢献したいですね。私は高校生の留学を支援しているぐらい教育に関心があって、といってもポリシーメイキングには興味がないので、自分が教える立場になって、現場から変えていきたい。私の教育方針に共感してくれる学生を増やして、教え子たちが周りを変えていくみたいな形ができたらいいなと。

そのためにはまず、教職に就かないといけないと思っています。ハーバードでは生態系や自然保護の勉強をしていて、去年の夏にタンザニアに行ったのも、その関連です。現場で自然保護活動に関わっていくと同時に、一般の人たちの意識も高めていきたいと思ってます。

私が「自然を大事にしよう」という気になっているのも、もともとアウトドアが大好きで、自然とのパーソナル・アタッチメント(個人的な思い出)があるから。一般の人の関心を高めていくにも、フィールドに出ている人間が動画などを使って、経験を多くの人とシェアしていくことが大事だと思っています。

三橋 経験すると、自分事になりますよね。

向井 そうなんだけど、普通の人はアフリカなんか行かないじゃない?そのためにも手を伸ばす方向をいろいろ広げて、私自身がパーソナル・アタッチメントを感じるコミュニティを増やしていきたいと思っています。

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