日立東大ラボの発足の経緯
―最初に日立東大ラボの発足の経緯について教えていただけますか。
松岡 2016年に当時の安倍内閣で「第5期科学技術基本計画」が閣議決定されました。計画の中で内閣府は「ICTの進化等により、社会・経済の構造が日々大きく変化する『大変革時代』が到来し、国内外の課題が増大、複雑化する中で科学技術イノベーション推進の必要性が増している」との認識を示し、我が国が目指すべき未来社会の姿として「Society 5.0」、すなわち「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」という新たなコンセプトを提唱しています。
日立製作所としても「社会的な課題が複雑化する中で、自社単独でそれを解決できるのか」という危機感とともに、「『協創』が今後のビジネス拡大の鍵にある」という思いが強くありました。例えば東京・国分寺の中央研究所の中にも、イノベーション創生を加速するための研究開発拠点「協創の森」を開設。2019年4月から運用を開始しています。
そういった現状認識から「『Society 5.0』という新たな社会像をターゲットとして、連携して大きな課題に取り組んでいこう」という合意が日立と東京大学さんとの間に生まれ、2016年6月に日立東大ラボが設立されることになりました。
吉村 20世紀は「どのように成長していくのか」というロードマップが明確な時代でした。しかし21世紀に入ると情報科学が発達、社会そのものに大きな変化が生じ、時代の先行きが不透明化しています。価値の源泉はモノから「知」そのものに移り、その中で大学も人材育成の場だけでなく、知による価値創出の場であることを求められるようになりました。そこでは企業や市場経済との明確な役割分担より、むしろ互いに関わりながら新たな価値を創出していくことが重要になってきます。
この点から東京大学の活動を振り返ると、産学連携の数こそ多いものの、個別の研究者同士のマッチングに終始し、組織同士の連携には至っていませんでした。「これでは社会で果たすべき大学の役割としては不十分ではないか」という問題意識から、2015年4月に東京大学総長に就任した五神真が、産業界のリーダーの皆さんに「一緒に社会課題の解決に取り組んでいきませんか」と呼びかけ、対話を始めたのです。
今後目指すべき社会について、大学と産業双方の視点から考え、未来ビジョンを共有し、解決すべき課題を抽出、どのような取り組みをすべきかを考えていく。論文や特許を出して終わりではなく、研究成果を広く社会に還元し貢献していく。東大では大学と産業界とのこの新しい協力の枠組みを「産学協創」と呼びますが、その協創の第1号の相手が、日立さんでした。日立の中西宏明会長、東大の五神総長の2人は共に第5期科学技術基本計画の策定に関わっており、その過程で互いのビジョンに共鳴して、「一緒にラボを立ち上げよう」ということになったわけです。
共同研究の実際
―吉本さんは日立の主任研究員として日立東大ラボに参加されたわけですが、ラボの実際の活動はどのようなものでしょうか。
吉本 日立東大ラボでは現在、大きく2つのプロジェクトを推進しています。1つは「ハビタット・イノベーション・プロジェクト」で、Society 5.0にふさわしいスマートシティのコンセプトづくりと、実際の都市を舞台にスマートシティのシステムの社会実装を試みようとするもの。もう1つは「エネルギー」で、Society 5.0を支えるエネルギーシステムのあり方を検討し、世の中に提言していこうとするものです。
私自身は日立にある現在の基礎研究センタで地域エネルギーの研究を行い、環境機能材料、エネルギーマネジメント、再生可能エネルギーの建築設備への応用などに関わってきました。それまでの研究成果を日立東大ラボで実際の街づくりに発展させていこうということで、2017年に「ハビタット・イノベーション・プロジェクト」に参加しました。
一口に「未来の街づくり」といっても、実際は多くの分野にまたがっています。「脱炭素」を目指す超省エネ都市のエネルギーマネジメントシステムの研究のほか、維持管理コストを低減した、持続可能な社会の実現に向けたインフラマネジメントの研究や、都市サービス創出を支援するデータ駆動型都市プランニングの研究も行っています。
―企業の研究所から大学の研究室に移籍され、どういった違いを感じられましたか。
吉本 今はコロナ禍で私も在宅勤務中なのですが、それまでは東大の本郷キャンパス内の日立東大ラボに通っていました。
一般的な産学共同研究は大学の研究室にある特定のシーズと市場のニーズをマッチングさせていく作業になりますが、日立東大ラボの産学協創はテーマが大きく、関連分野が非常に広いため、自分で興味を持った先生の研究室に学びに行くといったこともしています。会社の業務から少し距離を置いて、フットワーク軽く、さまざまな分野に関わって研究できる立場です。
会社員時代とは違ってニュートラルな立場から研究を進めているので、研究成果についても会社に持ち帰るだけでなく、学術研究として偏りなく発信していくよう心がけています。視野が広がり、いい経験をさせてもらっていると感じています。
吉村 日立東大ラボの活動内容としては、具体的な課題に対してソリューションを求めていくというより、「何が問題で、それに対して何をやっていくべきか」を考えることが中心です。
その中で私と松岡さんは、テーマごとにどういった体制で検討すべきか考え、適切な人を大学、企業から探してコーディネートすることが役割です。
複雑で、特定の視点だけからでは解けない社会問題を、多様な分野を専攻する研究者が集まることで、多方面から検討していくのが狙いです。東大側からは工学系、新領域、公共政策など、幅広い分野の専門家に入ってもらい、フラットな立場で議論を重ねています。
エネルギー問題への取り組み
―2大研究テーマである「ハビタット」と「エネルギー」は、どういう形で決まったのでしょうか。
吉村 日立東大ラボにおいては個別のテーマの積み上げではなく、まず「これからの社会はどうなるのか」を考え、目指すべき社会像を描いた上で、「そうした社会をどのように創造していくか」という視点から考えていきます。ラボを設立することがまず決まり、そこでどんなテーマを扱うかは、設立後に議論して決めていく流れでした。議論の末に決まった最初のテーマが「ハビタット・イノベーション・プロジェクト」で、スマートシティに代表される未来の「街」のあり方を考えていく試みです。
もう1つのテーマ「エネルギー」は、Society 5.0におけるデータ駆動型社会を支えるエネルギーシステム、特に電力システムのあり方を構想しています。
―エネルギーに関しては、どういった形で取り組みをされていますか。
吉村 地球温暖化、資源枯渇、少子高齢化、地域格差などの社会課題への対応を視野に、ワーキンググループの中で「Society 5.0におけるエネルギーは何が最適で、何が課題なのか」を議論。クローズドのワークショップを開催して提言をまとめ、その後に市民も参加するオープンフォーラムで社会に発信していく。そういった段取りで進めています。具体的には電力を中心とした「基幹システムCPS構築」と「地域社会CPS構築」に加え、脱炭素を実現するための「カーボンニュートラル社会シナリオ」の3つのワーキンググループを置き、それぞれが議論を繰り返してプロジェクトを牽引しています。
松岡 例えば2018年10月には「超スマート社会の実現に向けた電力システムの将来を考える」と題して、資源エネルギー庁や電力会社などから約80名の参加者を迎え、クローズドなエネルギーフォーラムを主催。半年後の2019年4月に今度は、参加人数約700名のオープンフォーラム「Society 5.0を支える電力システムの実現に向けて」を開きました。年に1度提言書をリバイスし、クローズドのワークショップを実施して、オープンフォーラムを開催して発表するという形です。エネルギーに関しては提言活動に重きを置いています。
吉村 2020年に日本でも2050年における温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を宣言しました。世界的にカーボンニュートラルの議論が高まり、最近は新聞でも連日大きく取り上げられています。
脱炭素を実現するためには、再生可能エネルギーを活用することがわかりやすい手段ですが、エネルギー供給から私たちの家庭にまで送電される電力システムの視点で考えてみると、再生可能エネルギーの拡大は一筋縄ではいかない課題を抱えています。
電力は使用量と生産量がバランスをとらないと安定しませんが、再生可能エネルギーの場合は風力にせよ太陽光にせよ、発電量が不安定で地域的にも偏在しており、蓄電システムとセットで使わないと効率的に運用できません。しかし現状では蓄電池は高価で、普及の壁になっています。
そこをデータの利活用によって突破できないかというのが、現在の研究の骨子です。普及期にある電気自動車(EV)を集合的に蓄電に利用して、細かく電力供給をマネジメントしたり、従来の大電力会社が持つ情報と再生可能エネルギー発電会社の情報をすり合わせて相互に補完的に運用していく。電力を使う需要側に対しても、使用状況に応じて料金体系を変えるなどして、供給側とバランスさせていく。国の政策は「再生可能エネルギーの発電容量が○○MWあればいい」というレベルで止まっていますが、そういう単純な議論ではないのです。
エネルギー関連の個別のテクノロジー開発については、東大、日立さん共にそれぞれたくさん手掛けているので、ラボでは個別の技術開発は行っていません。
そうした個別の研究に欠けているのがグランドデザインで、そこをラボで担っていく。個々の技術的シーズをどういう形でインテグレート(融合)し、社会制度、法制度、経済メカニズムをどう組み合わせて運用していくのか。コンセプトだけに終わらせず、具体的な技術シーズや法律制度を組み入れた形で、2050年さらにはその先までの長期スパンで展開を考え、提言していく。その過程では企業、市民、政治家、官僚、地方自治体といった多くのステークホルダーと議論し、ビジョンを共有し、それぞれがビッグピクチャーの中で何を担い、どう連携していくかも考えていきます。
「ハビタット・イノベーション・プロジェクト」とは
―街づくりについては、いかがですか。
吉本 ハビタットの場合は提言と並行して街づくりの社会実装も進めています。人を快適に幸せにし、街を活性化していくことを目標に、千葉県の柏の葉と愛媛県の松山市という両地域にご協力いただき、必要な要素技術検討のためのワークグループを設置。ソフトウェアの開発や、地域や社会に受け入れていただくための社会受容性の研究も行っています。
街づくり研究におけるキーテクノロジーとしてCPS(サイバーフィジカルシステム)によるデータの活用があります。CPSとは、実世界(フィジカル)で起きている事象についてのデータをセンサー等で収集し、サイバー空間でデータ処理を行い、そこで得られた知見を使って、産業の活性化や地域社会の問題解決を図るというアプローチです。
吉村 ハビタットでは元々「人々がより幸せに、より快適に生きられる生活空間はどうあるべきか」を研究テーマとしていましたが、新型コロナ問題が起きてからはそれに加え、「いかにして安全に集うか」も課題となっています。
情報技術や都市工学の専門家だけでなく、高齢者医療や、さらには「幸福」について考えている文系の先生など、多方面の人たちに集まってもらって、いろいろな切り口で共同研究を進めています。
―柏の葉、松山の両地域では、どんな研究を行っているのですか。
松岡 柏の葉で進行しているプロジェクトが、「フレイル予防AI」です。フレイルは最近よく聞かれるようになった言葉ですが、要介護、要支援の前の段階を指します。高齢者の方がそういった状態にならないために、データに基づく個人向け健康サービスを提供しようと計画しています。東京大学さんの知見を活用し、集めたデータをAIで処理し、フレイルになりそうな人に適切な改善メニューを提示していく取り組みです。
松山の場合は、市の「松山スマートシティ推進コンソーシアム」にアドバイザーとして参加しています。このコンソーシアムは、高齢化や地域人口の減少、経済の低成長などの地域の問題に対し、新技術やデータを活用して解決していこうという取り組みです。
日立東大ラボでは「シティスコープ」と称する、サイバーとフィジカルをつなぐハードウェアのプラットフォームを構築。また「スマート・プランニング」と呼んでいますが、松山駅前、道後温泉周辺をフィールドとして、市中のセンサーで人や交通の流れをセンシング、そのデータを生かし、街の活性化を図ろうとしています。またそれらのデータを可視化するツールを用いて、市民が参加するワークショップを開き、データを活用した市民参加型の街づくりを志向しています。
―柏の葉、松山のどちらのプロジェクトもデータがポイントなので、データ収集について市民の理解が必要になってきますね。
松岡 私たちもまさにその点が、データ駆動型都市プランニングの“キモ”だと考えています。データ活用が世の中に定着するためには市民の合意、納得が必須で、それがなければどんな技術も社会実装されることはありません。データ取得に対する社会受容性は、私たちの研究テーマの1つでもあります。
吉本 私が注力しているのも、データの可視化です。ハビタット・イノベーション・プロジェクトで私が担当しているのは、道路や水道、橋など、地域のインフラのマネジメントです。そうしたインフラはないと困ってしまいますが、普段はあまり意識しませんよね。この点はエネルギーも同じで、「電気はついて当たり前」と皆さん思っています。プロジェクトではデータを活用することで、インフラやエネルギーを可視化し、人々が身近に感じられるようにすることを目標に研究しています。
吉村 柏の葉や松山のような事例が1つうまくいくと、それがデータ駆動型プランニングの社会実装への突破口になるのではないかと期待しています。
市民の皆さんの理解を得ていく上では「個人からデータを集めて集合的に活用すると、こんないいことがある」と体験してもらい、具体的な効用を見せて訴求していく必要があります。ただしそれだけやっていればいいというものではなく、誰がデータを集め、何に使うのかがわからないと、どうしても不安になります。そこを無視して進め、炎上してしまったら、一度でプロジェクトが終わってしまいかねません。
このためプロジェクトではタウンミーティング等を含めた市民へのフィードバックの仕組みや、そのための技術開発も研究しています。
個人データの取り扱いに関する法や倫理については、2020年に東京大学未来ビジョン研究センター内に、法や倫理の専門家による「データガバナンス研究ユニット」が設けられたので、今後はそちらとも連携して進めていく予定です。
―コロナ禍が続いていますが、ラボの活動に影響は出ていますか。
松岡 現場での作業は制限を受けています。例えば松山でのリアルなワークショップは開催できていない状況です。その一方で、2021年1月にはオンラインフォーラム「Society 5.0を支えるエネルギーシステムの実現に向けて」の第3回を開催するなど、オンラインによる代替活動はできるようになってきましたが、慣れてくると同時に限界も見えてきたように感じています。
吉村 松山のデータ駆動型プランニングは、本来「個人の行動履歴データを使って賑わいのある街をどう創出するか」をテーマとして研究を続けてきたものです。その技術は今後、「どのようにして3密を避けつつ街を活性化させるか」という、コロナ禍での課題解決につながる可能性もあると思っています。
協創による研究者のモチベーションアップ
―各分野のエキスパートをマネジメントしていく上で、何かコツはありますか。
吉村 正直なところ、試行錯誤しています。日立東大ラボの研究テーマは非常に多岐の分野にまたがっている上に、そこに産業界の方のビジョンも入ってくる。持っている思いもそれぞれが違うので、今は東大として事例を進めながら、それをコーディネートするノウハウを蓄積したり、人を育成している段階です。
産学協創がスタートしたときは、「どれか1つやればフォーミュラ(方程式)ができて、定型的なやり方が決まるだろう」と安易に思っていたのですが、実際はテーマごと、相手企業ごとに、それぞれの具体的事例に即したバリエーションを作っていかなければならないとわかってきました。個別の事例におけるノウハウを共有化したり、幾つかのやり方を定型化したりといった作業は、これから少しずつまとめていきたいと思っています。
企業の場合は全従業員を1つの方向に向けて束ねていくことも可能だと思いますが、大学の場合は研究室がそれぞれ独立していて、研究テーマの方向性も時間スケールもまったく違います。大学はそういう多様性が重要で、企業のトップマネジメントに優れた方でも、大学の先生たちを企業と同じロジックで動かそうとしたら、うまくいかないでしょう。大学ではそれぞれの先生が自分で「これは重要だ」「面白い」と感じたことを自由にやれることが大前提です。とはいえ大きな社会的テーマを掲げて、たとえ一部であっても同じ方向を向き、協力し合う動きが出ると、一人ひとりがばらばらにやっていては難しかった、非常に大きな力が生まれるのではないかと思っています。
それが社会課題の解決の力になり、東大という組織の活性化にもつながる。そういうイメージで捉えています。
問題は「面白い」と先生たちが自分で思わないと、いくら言ってもやってくれないということです。コーディネーターとしては、いかに先生たちを知的に刺激するかがポイントで、お金だけでは絶対動かない。そこは会社と大学の違いでしょう。
―そういったコーディネートは、もちろん大変だと思いますが、一方でやりがいもあるのではないですか。
吉村 はい。自分1人では解決できない課題に対して、皆さんと一緒に解決に向けて動いていけるので、やりがいはあります。
実は産学協創は、参加している教員へのメリットも大きいのです。今は街づくり、エネルギーといった大きなテーマで、関連する分野の先生を呼び込んでいるわけですが、ラボのプロジェクトは皆さんの従来の専門からは少し外れています。ところがそうしたビジョンドリブンな産学協創の場で専門外の人たちの話を聞いたり、議論することで、研究意欲が刺激され、研究活動が活発化するということがあるのですね。
ラボでの活動を通じて、参加者の関わり方の変化を見ていると、研究者の中に眠っていた新しい部分に刺激が加えられ、自由な発言やクリエーティブネスが促されているという実感があります。
おそらく会社勤めの方々も、日頃は自分の部署の仕事が中心だと思います。ところが日立東大ラボでは元の所属などお構いなしで議論が行われるため、企業側からの参加者も刺激を受け、活性化するということがあるのではないでしょうか。
私自身も議論の中から新しいアイデアをもらい、刺激を受けています。日立東大ラボでの私の役割はコーディネーターですが、その活動が一研究者としての私自身の研究にフィードバックされていると思います。
協創の今後の展開
―日立東大ラボが誕生して今年で5年です。これまでを振り返っていかがですか。
松岡 研究テーマとしてスマートシティとエネルギーの2つを選んだわけですが、現在スマートシティ関連の動きは非常に活発です。エネルギーでも「脱炭素」がこれからの本命になり、十分に盛り上がってきていると感じています。その分、ほかにない特徴をいかに出していけるかが問われることになります。Society 5.0という未来のビジョンが描ければ、必然的に日立としてのビジネスもそこに生まれてくるでしょう。東京大学さんに知見を頂きながら、研究成果の創出と社会へのフィードバックを実現していきたいですね。
もう1つ、スマートシティにしてもエネルギーにしても、日本の抱えている課題は、実は国内だけのものではなく、グローバルに認知される提言をしていくことが重要と思っています。そうした政策提言は日立という企業単独からのものは世の中に受け入れられにくい面もあり、東大や他のステークホルダーと連携したもののほうが社会からの受容性は高まります。その意味でも日立東大ラボは、日立にとって価値ある取り組みだと認識しております。
吉本 テクノロジー開発の部分もさることながら、データ収集への社会受容性、人々の健康増進といった課題の解決を含めて、新しい社会をどういう形で具体化していくのか。そこがこのプロジェクトのポイントで、街づくりでもエネルギーでも、大きなビジョンの実現に向けて研究を進めていきたいと考えています。
吉村 我々の研究も社会に連動する方向で考えないと、自分たちでやっているだけでは絵に描いた餅に終わってしまうでしょう。いい設計図ができても、誰もその設計図を尊重してくれなかったら意味がありません。
経験や勘だけでローカルな意思決定を続けているだけでは解決しない課題を、データを使うことで解決していくという我々の方法論を、このプロジェクトに関わる外部のステークホルダーと協力しつつ、世の中に広めていきたいと考えています。
東大はいろいろな企業と一対一の形で産学協創をしていますが、全体を見ると、テーマとして共通する部分がかなりある。東大がハブとなり、複数の企業とワークしながら、一緒に社会を動かしていくこともできるのでは、と今、考えているところです。民間企業だけでは難しいことも、大学のように中立の機関が中にあることで、より大きな枠組みがつくれるかもしれませんから。