人と環境へも配慮した“幸せな住まい”とは

2021年3月25日 16:35 Vol.75
   
石田 建一
積水ハウス(株)常務執行役員
Kenichi Ishida
工学博士。東京生まれ。建てる前に住宅の快適性とエネルギー消費を予測する シミュレーション手法の研究で工学博士を取得。積水ハウス(株)入社後は、 主に快適でエネルギー消費の少ない暮らしを提供する住宅の研究開発 および普及に携わってきた。1999年の環境未来計画に参加、 2008年には洞爺湖サミットでゼロエミッションハウスを建設、 09年から CO2排出を50%以上削減するグリーンファーストモデル、 13年には ZEH であるグリーンファーストゼロを開発 ・ 推進。16年より現職。

地球環境への配慮は、経済活動・社会活動など、あらゆる面で当たり前になりつつある。だが、それを実現するためのビジョンや具体的な計画・戦略は十分に整っているだろうか。積水ハウスグループは「環境先進企業」として、日本の環境ビジネスに新たなマーケットを切り開いてきた。ここでは、同社で環境推進事業を長年手がけてきた石田建一常務執行役員にインタビュー。その先駆的な取り組みの経緯などについて話を伺った。

積水ハウスの環境問題への道のり

― 石田さんはどういった経緯で環境問題に関わるようになったのでしょうか。

石田 きっかけは学生時代にオイルショックがあって「日本にとってエネルギーは非常に重要だ。なんとかしなくては」と感じたことでした。大学では建築を専攻していたのですが、そこへ積水ハウスが「パッシブソーラーハウスをつくるので、研究してくれないか」と言ってきて、私もその研究に参加したのです。そこで「うちに来ないか」と誘われて、博士課程修了後の1985年に入社しました。

最初は設計部で研究し、1996年に高断熱複層ガラスを標準採用した高断熱仕様の家「セントレージΣ(シグマ)」の開発に参加し、その後に商品開発部に移りました。ただ、このときも断熱の狙いは省エネではなく、より快適性の高い家をつくることでした。

アメリカの住宅の多くは、玄関のドアを開けると目の前に大きな空間があります。それは家自体の断熱性が高いから可能なんですね。日本の家は断熱性が低く寒いので、少しでも暖かくしようと小さな部屋に区切られていて、「ウサギ小屋」と言われていました。それを開放感のある家に変えようということで、断熱性を上げ、吹き抜けや広いLDKのある家をつくったのです。ここから吹き抜けやLDKが増えました。

― 積水ハウスは1999年に「環境未来計画」を発表し、2008年には「エコ·ファースト企業」の認定も受けていますね。

石田 スウェーデンのグレータ・トゥーンベリさんが「あなたたち大人は環境を破壊することで子どもたちの未来を奪っている」と批判しましたが、「環境未来計画」も「環境は未来の子どもたちからの借り物であり、きれいにして返さなければいけない」という考えから生まれたものです。地球環境対策のために、「次世代断熱仕様を標準化」「資源循環システムの構築」「生物多様性保全活動を行う」ことを宣言しました。

私はこのプロジェクトにサブリーダーとして参加しました。こののち環境推進部がつくられましたが、自分はそこに参加せず、ICT推進部を立ち上げました。そこで緊急地震速報システムの研究などもやりました。当時、関西の積水ハウスの団地で実証実験をしましたが、地震が全然起きずにテストにならなかったなんていうこともありましたね。

その一方で世の中では、「これからは環境だ」という流れが始まっていました。

2005年には、各国の温室効果ガスの削減目標を定めた京都議定書が発効します。積水ハウスではその年、「持続可能な社会の構築を経営の旨とする」という「サステナブル宣言」を発表し、「すべての商品で生活時のCO2排出量を1990年比でマイナス6%にする」とコミットメントしました。

翌2006年には社内に温暖化防止研究所が設立され、私はその所長に就任して、環境問題に関わっていくことになります。

― その後に「グリーンファースト」モデルを発表されました。

石田 2008年には洞爺湖サミットが開催され、日本は「2050年までにCO2排出量を現状に比べて60〜80%削減する」と宣言しました。日本が工業国として発展し続けるためには、工業部門のCO2排出量削減には限界があります。一方、家庭部門のCO2排出量は限りなくゼロに近づけていくことが可能です。このため、積水ハウスは、「住宅の建築から解体廃棄までのライフサイクルでCO2排出をゼロにする」という「2050年ビジョン」を2008年に発表しました。これは恐らく日本最初の「脱炭素宣言」だと思います。

住宅は寿命の長い商品ですから、ビジョンを実現するためには、今、建てている家のCO2排出量を削減しないと間に合いません。

そこで2009年に「生活時のCO2排出量を1990年比で50%以上削減する住宅」として、太陽光発電パネルや家庭用燃料電池エネファームなどの先進的なシステムを備えた環境配慮型住宅「グリーンファースト」を発表しました。

その後、政府は2013年に「2020年までに新築住宅の標準をネット・ゼロ・エネルギー・ハウスとする」と決定しました。ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH/ゼッチ)とは、冷暖房、給湯や照明など住宅における消費エネルギーを太陽光発電システムなど住宅における創エネルギーでカバーし、年間のエネルギー収支をプラスマイナスゼロとする住宅です。

積水ハウスではグリーンファーストをZEHにした「グリーンファーストゼロ」を同年に商品化したのです。

 
 
 
 

住んでみてわかるZEHの良さ

― 御社の環境ビジネス戦略は、お客様からはどのような反応がありましたか。

石田 実は私たちは省エネをあまり売り物にはしていないんです。ゼロエネルギーハウスにしても、アピールしているのは「健康」「快適」です。

お客様からの評価ですが、積水ハウスの場合、元々1年後の満足度を調べるアンケートでは「満足」の割合が97%もあるので、そこではZEHといっても差がつかないんです。ただグリーンファースト戦略を採るようになってから「非常に満足」の割合が10%上昇しました。ZEHには、住んでみないとわからない良さがあるんです。

太陽光発電システムにしても、建てるときには「高い」と言われることが多いものの、1年後に感想を伺うと、「光熱費が安くなってよかった」「もっとたくさんつけておけばよかった」と言われる方がほとんど。「だから言ったでしょう」と(笑)。結局、「高い」と感じるのは1度だけで、その後は毎月「電気代が安い」と年に12回感じることになるので、そちらが勝ってしまうんですね。

私の自宅は1999年に建てたものですが、今のZEHよりもさらに断熱性能が高い家になっていて、2001年に環境・省エネルギー住宅賞である、国土交通大臣賞を受賞しています。全館冷暖房で、家の中はとても快適。建てたばかりの頃は、家の中にいて「今日は暖かい」と思って薄着で外出して、初めて外の寒さに気づいたということが何度かありました。冬の夜でも暖かく、寒くて起きるのが嫌になるということもまったくありません。

それまで住んでいたのは戦前に建てた家で、朝起きると室内の気温がほぼ外気温と同じになっていました。私の父は若い頃結核にかかったために肺が弱くて、風邪をひくとそのまま肺炎になって入院してしまうことの繰り返しでしたが、新しい家ではまったく風邪をひかなくなりました。

父はやせていて、一方、母は太っておりまして、それまでは夏になると母が「冷房をつけたい」と言い、父は「嫌だ」と言って、よくケンカになっていました。新しい家ではそれもなくなりました。

地球環境にいい上に快適で健康、家庭内も平和になり、光熱費ばかりか医療費まで削減できる。こんなにいいことはないですよ。父が入院すると家族も何かと大変だったのですが、そういうこともなくなりました。

妻の実家は玄関から入ると廻り廊下があるような大きな日本家屋で、結婚当初はしょっちゅう里帰りしていたのですが、新しい家ができたら、とたんに帰らなくなってしまいました。親の介護で毎日1時間かけて通っていた時期もあって、「泊まってくればいいじゃないか」と言ったら、「寒くていられない」と言うんです。

自分がそういう快適な家に住みながら、同窓会に行くと、同級生から「寒さ対策で家の窓にビニールを張っている」なんて話を聞かされるわけです。そりゃあ「非常に満足」になりますよ。

どうです、聞いているとみなさんもZEHの家が欲しくなってきたでしょう(笑)。

おかげさまで2019年度には積水ハウスの新築戸建て住宅の87%がZEHとなり、ZEH累積販売棟数も2020年3月末までに5万棟を超え、世界一を続けています。

   
積水ハウスの環境への取り組み
 
 
 
 

エコはビジネスと両立する

― 「CO2排出量の削減」と聞くとつい、「ストイックで大変そう」と思ってしまいます。

石田 東日本大震災の後、電力不足から節電が求められて、東京も暗くなり、寒くなりました。そういう経験があると、「省エネは寒くて辛いもの」と思ってしまうかもしれませんが、無理な我慢は長続きしません。

ゼロエネルギーハウスが実際に住んでみると非常に快適で、かつ省エネであるというように、CO2排出量の削減と快適さは両立できるものです。そもそも積水ハウスの場合、ゼロエネルギーそれ自体が目的ではなく、「快適な暮らしのためのZEH」という考えです。

ZEH仕様というと「省エネのためには窓が小さいほうがいい」ということで、窓を小さくするメーカーも多いですが、我々は庭づくりにも力を入れており、「庭を見て楽しむために窓は大きいほうがいい」という考え方です。

ZEHでは屋根に太陽電池モジュールを載せますが、多くの住宅メーカーでは四角くて大きな太陽電池パネルを使っているため、屋根もそれに合わせて四角になり、建物まで四角になったりしています。積水ハウスには瓦型の太陽電池パネルがあって、ZEHであっても設計の自由度が高く、それぞれのお宅の敷地やライフスタイルに合わせて家を設計できます。ZEHであってもデザインは重要ですし、なにより「快適に住まうこと」が一番大事です。

事業者の視点から見ても、ゼロエネルギーハウスは社会貢献になる一方で、収益にも貢献しています。坪単価が上がるので、業績にも良い影響があるんです。ビジネスを犠牲にしてエコにするのではなくて、エコにすることでビジネスも成長する。当社は過去5年で売上は13%増加し、CO2排出量は20%削減しています。イケアにしてもアップルにしても、みなそう言っていますよ。「CO2排出量を削減すると経済成長が犠牲になる」という見方はナンセンスです。

― 新型コロナを機に在宅勤務が広がり、住まいに求められる期待度が上がっていると感じます。

石田 私はせっかく快適な自宅を建てたのに、実は単身赴任がもう20年にもなって、自分はそこに住めていないんです。今は大阪のマンションに住んでいますが、冬は寒くて、会社のオフィスのほうが快適です。うちの社員はみんな「家より事務所のほうが快適」と言っていますね。

ただ自宅をZEHにすれば、「会社より家のほうが快適」となるでしょう。その意味ではZEHは在宅勤務向きですし、コロナ禍ではもっとクローズアップされてもいいんじゃないかと思います。

昨年の12月には、ウイルスや花粉といった住まいの汚染物質に配慮し、新しい生活様式に対応する戸建住宅用の次世代換気システム「SMART-ECS(スマートイクス)」を発表しました。コロナ対策のために窓を開けると、冬は寒くてしかたありません。そこで「そんなことをしなくても十分な換気をできるシステムがありますよ」ということで発表したものです。

ただコロナのために新たにつくったわけではなく、換気システムそのものはZEHでは以前からきちんと考えてつくっています。その意味でも、ZEHはウィズコロナの時代に適した家といえます。

今回のコロナ禍の前から、パンデミックの危険については指摘があったわけです。ただ、これまでみんな準備してこなかった。最近の日本で台風や洪水の被害が増えているのは、地球温暖化の影響と考えられますが、その対応も十分とはいえません。

コロナでは、「人々の行動の影響が2週間後に患者数に表れ、1カ月後に死者数に表れる」といわれています。行動と結果の間にタイムラグがあるわけです。気候変動の場合はそれがもっと大きくて、私たちの行動の影響が明らかになるまで、数年あるいは数十年の時間がかかります。タイムラグが大きいのでピンとこないかもしれませんが、それでも温暖化ガス排出量と気候変動の因果関係は明らかです。影響が出たときには、取り返しがつかなくなっているかもしれないのです。その意味では今回のコロナ禍は一つの教訓といえるかもしれません。

   
積水ハウスオリジナルの瓦型太陽電池パネル。発電装置と屋根素材の機能を兼ね備え、デザイン的にも優れていることから、2009年度グッドデザイン賞を受賞した
 
 
 
 

海外でのZEHの現状

― ゼロエネルギーハウスに対する海外の反響はいかがですか。

石田 海外ではまだゼロエネルギーハウスは普及していません。日本の場合、家を建てるのは一生に1回の買い物ですが、海外では家は投資です。アメリカの場合なら平均10年ほどで買い替え、10年経っても価格はほぼ変わらず、ローンの金利だけ払うという感覚です。このためゼロエネルギーハウスに関しても「10年で元がとれるか」という見方をするんですね。銀行が「ZEHの家にはローンの金利を優遇する」といったことでもしてくれれば別ですが、なかなか銀行にメリットがないので難しいといわれます。

海外でもいずれ、ZEHが義務化されるかもしれません。そうすれば10年後に売る際に、ZEHの家のほうが高く売れるようになるでしょう。しかし今のところZEH自体があまりなく、エビデンスが乏しい状態です。

― アメリカのバイデン新大統領がパリ協定への復帰を表明しました。これはゼロエネルギーハウスには追い風ですね。

石田 そうですね。バイデン政権の下で、アメリカでもゼロエネルギーハウスが普及して、価格も安くなるかもしれません。ただ我々の活動は、アメリカ政府の方針に左右されるものではありません。

積水ハウスは2015年、パリ協定における共同宣言の一つであり、世界のCO2排出量の約4割を占める建物からのCO2排出量の削減を目指す「パリ協定ビルディングアライアンス」に、日本企業として唯一調印しました。翌々年、パリ協定に批判的なトランプ政権が誕生しましたが、我々は粛々とCO2排出量の削減を進めていきました。

バイデン新大統領がパリ協定に復帰するのはいいことだと思います。日本での菅総理の所信表明でも同じです。我々ももちろん、世の中の流れが追い風になって困ることはなく、やりやすくなるのは確かです。ただ、ずっと以前からやってきていることなので、それで何か変わるわけではありません。

 
 
 
 

事業とは社会貢献のために行うもの

― 今後は日本企業に求められる環境面での目標も増えてきそうですね。

石田 金融に関する国際組織である金融安定理事会(Financial Stability Board/FSB)が設置した、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)による2017年の報告書があって、積水ハウスは2018年これに賛同し、2019年12月には非金融系の企業として初めてTCFDレポートを発行しています。

この報告書は、気候変動が企業の財務に及ぼす影響を経営戦略に織り込み、開示していくことを推奨するもので、その際にシナリオ分析を行うことが求められています。例えばカーボンプライシングやさまざまな規制の下で経営をどう展開していくのか。あるいは内燃エンジンがEV化した場合に自動車メーカーや部品メーカーの経営が成り立つのか。地球温暖化で海水面が上昇した場合に海辺の工場が水没しないか。そういった多方面にわたる課題を織り込んだシナリオを複数作成し、それぞれの想定の下で、どのように事業を展開していくかを対外的に明らかにしていくというものです。私はこの「財務に影響のある気候関連情報の開示」は、上場企業すべてに対して義務化するべきだと考えています。

― 企業も世界的には環境を重視する流れになっています。

石田 そうです。例えば「事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーにより発電されたものとする」という活動に取り組む、「RE100」という国際企業団体があります。積水ハウスでは2017年、日本企業として2番目にこれに加盟しました。事業用電力に占める再生可能エネルギーの割合を、2040年までに100%にすることを目指しています。

積水ハウスで使用する事業用電力は年間約120ギガワットアワー(GWh)。一方、積水ハウスでは2017年までにお客様の住宅などに設置してきた太陽光発電システムにより年間におよそ700GWhの発電量があるので、お客様の発電量のうち2割弱を提供いただければ、再生可能エネルギー100%が達成できる計算です。

ちょうど2019年11月から徐々に固定価格買取制度(FIT)から外れるお客様が出てきます。そうした方々が自宅で使い切れない余剰電力を積水ハウスで買い取らせていただくことで、お客様の不安を解消するとともに、自社のRE100の目標も達成していく“積水ハウスオーナーでんき”という仕組みをつくりました。

米アップルは2016年にRE100に加盟し、サプライヤーに対しても事業用の電力を再生可能エネルギーに転換するよう求めています。「目標を達成しないとアップルに製品を買ってもらえない」ということで、RE100に加入する企業があります。しかし我々の場合は「事業継続のためにやむを得ないから」という理由ではなく、社会問題解決のために自ら進んでRE100に加入したものです。

私は環境保全や社会貢献は事業継続のためにするものではなく、企業活動の目的の中にそれらがあるのだと考えています。私たちは、社会に貢献をするために事業をしているのです。「積水ハウスは何を売っているのか」と質問すると、「家」と答える社員もいるかもしれません。しかし家を売ることが私たちの本当の目的ではありません。「幸せな暮らし」「幸せな人生」を提供することが私たちの事業です。そのために「安全」「安心」「快適」「健康」などの幸せな暮らしの条件を満たす家をつくってきたのです。

ずっとそれをやってきて、1軒1軒の家について見れば、高いレベルで提供できていると感じています。東日本や熊本などの大震災の被災地を訪れると、積水ハウスの家は激しい揺れにも耐え、無事に残っています。しかし地震では倒れなくても、最近増えてきた洪水があればやはり被害を受けてしまいます。

洪水や台風のような自然災害を根本から解決していくためには、地球温暖化を防止しなくてはなりません。それは我々1社だけが努力しても無理で、世界中で力を合わせる必要があります。「脱炭素にはお金がかかる」と言いますが、2019年の台風による被害額は2兆1,500億円にもなったそうです。その負担は特定の地方の個人に集中しています。脱炭素化はお金がかかるといわれますが、費用はみんなで平等に負担すればいいのです。地球温暖化で海面の水位が上がり、東京で荒川が氾濫したら、被害額は90兆円にもなるという試算があります。これは日本の国家予算並みです。いざそうなったとき、いったいどうやって補償すればいいのでしょうか。被害が起きる前に対策するしかありません。

 
 
 
 

子どもたちの未来のために

― 人々の意識を変えていくために、何が必要でしょうか。

石田 地球温暖化の影響については、企業に入ってそれなりのポジションに就いてから学ぶのでは遅すぎます。もっと子どもの頃から、例えば小学校の授業で、「地球温暖化によって気温が4度上がったら、海水面が上昇して、きみたちが今いる辺りはみんな水没してしまう。それをどう思う?」といった問いかけをする。そして「みんな嫌だよね。それではどうしよう」と一緒に考える。そういったことをやっていくべきなのです。

住んでいる地域が水没しないようにするには、自分たちが生活を変えていくしかない。それを知って、その上で大学ではどんな学科に進もうか、どんな職業に就こうかと考える。そこまでやるべきなんです。

今、日本の自治体の半分以上は「2050年にCO2排出量を実質ゼロにする」という脱炭素宣言をしています。東京都もそうです。しかしおそらく都民のほとんどが、その事実を知らないでしょう。それでは意味がありません。「未来の子どもたちを幸せにするために、今どうしたらいいか」と考えれば、必ず「みんなで地球温暖化を防止しよう」となるはずです。でも実際は皆さん、そうは考えられていないように見える。日本政府は「2020年までに新築住宅の標準をZEHに」という目標を掲げましたが、現在の比率は13%からせいぜい15%ほどです。

気候変動というと話が大きすぎて、他人事のように感じてしまいがちです。しかし、いかに自分のこととして考えられるかが大切です。

幸い1990年代後半から2000年代初めにかけて生まれたZ世代では、フェイクミートを食べたり、リサイクル素材の服を着たりといったエシカルな生活を行う、地球環境の保全を自分のこととして考える人が増えています。これはおじさん世代では考えられなかったことです。高齢の人にとっては、2050年は自分の問題としては考えられないかもしれませんが、そうであれば「孫たちのため」と考えて実践していくべきでしょう。

― 住宅産業のマーケット·リーダーとして、環境関連事業の今後についてお聞かせください。

石田 我々は「ZEHの賃貸住宅のマーケットを創りたい」と思っています。若い世代はエシカルな消費を志向していますが、衣食住のうち「衣」と「食」にとどまっており、「住」に関しては、まだあまり関心が高くありません。グレータさんが何か言ってくれたらいいんですが(笑)。若いうちは「自分が家を建てる」という感覚がないんですね。そこで「賃貸住宅をZEHにする」ことで未来を良くする暮らしの選択肢を提供したいと考えています。

今は大手の賃貸住宅サイトで「ZEH」で検索しようとしても、そもそも検索ワードになっていません。物件が少なすぎてマーケットがないんです。そこで私たちは今、ZEHの賃貸住宅をたくさんつくることに注力しています。マーケットができたときに、ZEHの検索ボタンを押したら、積水ハウスの賃貸住宅がたくさん表示されるような状態に持っていきたいですね。もっとも当社がつくる賃貸住宅は入居率が平均97%なので、検索してもなかなか物件が出てこないのですが。

そして自社の環境問題については「サプライチェーンをどう巻き込んでいくか」が目下の課題です。ZEHを建てることも、事業用のエネルギーを再生可能エネルギー100%にしていくことも自分たちだけでできます。しかし外部から購入する部材に関しては、自分たちだけでは変えられません。今、「サプライヤーの皆さんのRE100加盟についても、積水ハウスがサポートします」と言って、この問題について話し合いをしているところです。

ヨーロッパでは現在、「服だけでなく住宅にもリサイクル素材を使おう」という動きが出てきています。積水ハウスでも工場や施工現場の廃棄物のリサイクル率は100%を達成しましたが、日本の場合、新築住宅には材料も新しいものを使う文化があり、建物本体へのリサイクル素材の利用には踏み込みにくい面があります。しかし今後はそれも変わっていくかもしれません。「リサイクル素材を使ったダウンジャケット」などと聞いたら、昔は「へえ?」という反応でしたが、今は当たり前のものになっていますから。

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