eスポーツを部活動に
―全国高校eスポーツ選手権は、昨年で第4回を迎えました。この選手権の設立の経緯についてお聞かせください。
細井 発端は、毎日新聞社の中で、「eスポーツを選手権でやったらどうか」と提案した若い方がいらっしゃったのです。同新聞社は、元々甲子園や駅伝、ラグビーなどのスポーツ事業を手掛けていましたが、eスポーツは全く新しい分野なので、パートナーが必要でした。そこでサードウェーブに声が掛けられました。
サードウェーブは、ゲーミングPCを、注文を受けて組み立てるBTO(Build To Order)の会社です。ゲーミングPC GALLERIA(ガレリア)が市場で広くシェアされ、また、グループ内のeスポーツを専門に扱う会社が、過去に大会を手掛けた経験もありました。そこでまず、2018年度、2019年度と連続して全国高校eスポーツ選手権を一緒になって開催しました。
その流れで、eスポーツを高校生の文化にするなら団体組織を共同で立ち上げたらどうか、という話になり、2019年11月1日に、毎日新聞社とサードウェーブによって全国高等学校eスポーツ連盟が設立されました。
第1回の2018年は、まだ連盟設立前でしたが、コロナ禍ではなかったので、大勢で集まってワッと盛り上がりました。それまでeスポーツは、プロの方が大会に出て、賞金や賞品を獲得するものでした。しかし、スポーツとして高校生に提案したところ、生徒たちは「今まで親の目を盗んで家の中でゲームをしていたのに、外で活躍する場ができた!」と非常に活気づきました。これは大会が続いている大きな要因だと思います。
―実際に、どんな種目で、どのくらいの参加者がいましたか。
細井 まず、「ロケットリーグ」という、車同士で3対3で闘ってサッカーをする種目があります。もう一つが「リーグ・オブ・レジェンド(LoL)」。5人ずつ2つのグループに分かれて、敵の陣地に攻め入り、相手の本拠地を破壊したほうが勝ち。こちらは1億人以上が世界でプレーし、将来、五輪の種目になる可能性があるといわれています。一般的に高校生は、FPS(ファーストパーソンシューティング)と呼ばれる一人称視点ゲームをより好みますが、まずは高校生eスポーツにふさわしいと思われる、この2種目を採用しました。
参加者は、第1回で115校153チーム。第3回には194校346チームに増え、さらに種目を一つ追加した第4回は368校772チームまで拡大しました。
―初回から多くの参加者をどうやって集めたのですか。
細井 毎日新聞社によるさまざまなメディアでの告知活動の成果です。連盟設立後は私たちも参加したのですが、大会のポスターを持っていくと「あの毎日新聞社さんね」と言って貼ってくださいます。そうすると、結構応募者が増えました。
もう一つは、サードウェーブが開発したPCです。インテル社と共同でeスポーツに適した、性能のいいGPU(Graphics Processing Unit)を搭載したデスクトップPCを、高校に2年間、無償でお貸しするのです。要は「高校にeスポーツ部をつくりませんか」という部活支援プログラムです。4年で300校ほどに配りました。
家庭用ゲーム機も人気がありますが、やはりeスポーツの世界的な潮流はデスクトップPC(DTPC)です。構造上の仕組みから見ても、チームで世界大会に挑むためには、必須だと思います。
しかし、DTPCが闘いを制することがわかっても、そのようなPCを高校生は持てない。特に日本では、自分専用のPCを持っている高校生は10%に満たないといわれていて、GPUとハイスピードの回線の双方を備えるとなると、さらに数値が下がります。これが米国の場合だと25~30%の割合だそうです。
そのような、いわば“ 不毛の地”に飛び込んでいったのが、毎日新聞社とサードウェーブなのです。
―なぜ対象を高校生にしたのでしょうか。
細井 eスポーツの世界には、さまざまな協会があります。例えば、サードウェーブが関わっている日本eスポーツ連盟や、同連盟などが統合して、五輪の種目に入ることを目指す日本eスポーツ連合がありますが、いずれも一定以上のスキルを持つ上級者を対象としています。そこで、長年、学生を対象にして各種スポーツや囲碁・将棋、読書感想文など、文化的な大会を主催してきた毎日新聞社は、その実績を活かし、高校生を対象とすることにしたのです。サードウェーブも元々、eスポーツの裾野を広げたいと思っていました。
世界の国、例えば米国は、小中高を通してeスポーツが文化として体制化されつつあります。一方日本はどちらかというと、中高生がメイン。しかも、eスポーツという名前であっても親からすればゲームで、「そんな時間があるなら、勉強しなさい」となってしまいます。しかし将来五輪で勝つためには裾野を広げなければ優秀な選手は出てきません。そのような理由から、対象を高校生にしたのです
eスポーツは子どもを部屋から出すきっかけ
―やはり保護者の認識は“eスポーツ=ゲーム”ですよね。
細井 eスポーツとオンラインゲームとは、意味が違います。ゲームは、本当に夢中になると部屋から出てこないイメージがありますよね。しかし、eスポーツはチームを組み、ヘッドセットを着けて戦略を相談しながら闘い、自分たちで分析も行います。しかも、海外の高校との親善試合では英語で会話します。それはサッカーや野球のフィジカルスポーツの親善試合と変わりません。このように子どもたちが部屋から出る機会になったのが、eスポーツ選手権の最大の効果だと思います。
また、eスポーツはコミュニケーション能力が必要です。それが身についた事例として、福岡県の福翔高校や岡山県の岡山共生高校の生徒がメディアに掲載されました。特に、ある生徒は、かつて不登校だったのにeスポーツ選手権で準優勝し、生徒会長を務めるまでになったのです。
今の子どもたちは、好きなゲームの世界で活躍することに強い関心を持っています。それを示しているのが、2019年にソニー生命が中学生を対象に行った「なりたい職業」の調査です。結果は、男の子の1位がYouTuber、2位がeスポーツプレーヤーでした。かつては野球やサッカーの選手がトップでしたよね。
でも、最近はフィジカルスポーツをやっている子たちの多くが、eスポーツやオンラインゲームもします。いくつかのJリーグのサッカーチームは、eスポーツチームも持っているんです。
さらには、IT関連の大手企業では、社内の部署対抗のeスポーツ大会を開催し、お得意さんも誘って非公式に企業対抗も始めている、とも聞いています。高校時代にeスポーツ選手権を経験した生徒たちが社会人になると、さらに強い根が張り巡らされます。そういう意味で、高校生を対象にしたのは良かったです。
―保護者の方へは、eスポーツの魅力をどう伝えたのでしょうか。
細井 当初、「実業から引退して、eスポーツの普及をしようと思うんだけど」と相談したときには、私の家族ですら「それはゲームでしょ? 人をダメにするものだよね」と反対され、「おいおい、いきなりそれかよ」と参りました(笑)。でも、保護者の反応は、基本はそれと同じだと思いますね。
しかし、eスポーツの大会で活躍する子たちが取り上げられると、それを見た中学生が「自分にもできそうだな」と希望に溢れてくるわけですよ。フィジカルなスポーツはダメだけど、これならできるかも、と。その様子を見た親が最近は、事務局に「eスポーツをするための高校を紹介してください」「今、○○県に住んでいますが、eスポーツが盛んな高校はありますか」などと問い合わせをしてきます。やはり続けている成果ですかね。
昨年度で、第4回が終わりましたので、初めて卒業生が出ました。そうすると、社会人や大学生になって、後輩を指導したり、自分で稼いだお金で寄付する人もいます。私立や通信高校はeスポーツを目玉にでき、資金投入が可能ですが、公立高校はそうはいきません。ですので、資金が厳しい公立高校でそういう取り組みが始まると、OBたちが集まって支え合うことで、いい循環になっていきます。練習も、昔のようにいいコーチにつかなくても、自分でGoogleやYouTubeを検索して、強くなる方法を見て研究し、レベルが上がっていきます。
将来、プロのプレーヤーになるだけが社会の入り口ではありません。大会を企画・運営したり、リーグ戦の解説者や審判になる。またテレビやネット上で発信者となる。そのように、いくつかの職業がつくられると、保護者たちの理解も増し、かつては諦めだったのが、希望に変わっていきます。「この子たちがやりたいのは、これなのか」と。最近では、大手の専門学校にもeスポーツ学科ができ、審判を養成するコースもありますね。
—eスポーツ関連の間口が広いことは、社会の受容につながるのですね。
細井 将来は世代を超えて、祖父母と孫たちがオンライン競技でプレーすることもあり得ます。これがゲートボールだとそうはいかないですよね。最近では、eスポーツが認知症の予防にいいことも着目されています。手と脳と目と耳を盛んに動かしますからね。加山雄三さんが80代でも若々しいのは、対戦ゲームをやっていらっしゃるおかげだと思いますよ。新しいものに興味を持って、孫と闘えるのは、それしかない。サッカーを一緒にやっても肩を脱臼したり、骨が折れたりするかもしれませんからね(笑)。
そういう意味では、eスポーツは年齢・性別・国を問わないユニバーサルな存在なんです。視覚障害の子が同じ障害がある子のためにゲームを作成したり、車いすの子がプロフェッショナルなeスポーツプレーヤーにもなれます。条件が整った一部のエリートが選手になれるフィジカルスポーツとは異なり、裾野が広いのです。
eスポーツを教育に活かす
—eスポーツの裾野を広げるためにどんな工夫をされていますか。
細井 JHSEFの理事メンバーに、朝本俊司先生という脳神経外科の医師に入っていただいています。JHSEFに「医科学管理グループ」を設立し、ゲーム依存症の対策や、リアルスポーツで起きている問題からeスポーツで起こりうる問題を検証する取り組みをされています。「eスポーツは脳と反射神経の連携を極めるスポーツであり、その認識を医学的に正しく広めたい」という高い志をお持ちです。
また2019年11月1日には、北米教育e スポーツ連盟のNASEF(North America Scholastic Esports Federation)と提携しました。NASEFのモットーは、「eスポーツを介してすべての学生にSTEAM 教育の場を与えること」です。実は私はNASEFのボードメンバーも兼任しています。国の力を計るのは数学の力であり、STEAM 教育は重要です。NASEFはすでにその取り組みを行っていました。
—ほかにNASEFのどの部分を参考にしたいですか。
細井 NASEFは国務省が関係するなど政府のバックアップがあります。我々も、米国領事館で開催されるeスポーツの立ち上げ支援プログラムに、日本の高校の先生に参加いただいています。JHSEFの発足当初、あちこちの高校を周って、eスポーツ部の設置を呼びかけました。しかし当時は個人でeスポーツを行うのが主流でしたので、先生たちも戸惑っていましたね。
でも、その時にお伝えしたのが、「生徒を集めて時間を守って練習させるという、部活の監督のようなスタンスで結構です。特にeスポーツについて詳しく知らなくても大丈夫です」ということです。これは、NASEFの方法を倣いました。
eスポーツ業界のプロフェッサーともいえる、スタインクーラー(Constance Steinkuehler)さんという方が、いくつか論文を発表され、eスポーツをやっている子どもたちを追いかけて調査もしています。それによると、その子たちのSTEAM 関連の教科の成績が良くなっているのです。PCやネットの仕組みに興味を持つという数学や科学の力を伸ばす効果があるのですね。なおかつ、感情をコントロールできる機能やコミュニケーション能力が圧倒的に上がっていく、という結果が出ています。いいところを伸ばす基本姿勢なんですよ。
しかし日本ではそこまでの理論づけはないようです。そうすると、「脳に異常をきたすのでは?」などのネガティブな意見が広まり、「1日2時間以上はゲーム禁止」という自治体の条例も登場してしまうのです。
日本では現在、二十数校の高校がeスポーツをSTEAM 教育に活かすカリキュラムを取り入れています。それらが研究結果としてマスコミに発表されれば、もっとeスポーツが積極的に教育活用されると思いますよ。そういう意味では、特にスーパーサイエンスハイスクールや工業高校の取り組みに期待したいですね。
—地域での活動について伺います。例えば、徳島県では高等専門学校と一緒に取り組まれています。
細井 徳島県の阿南高専では、eスポーツを積極的に教育活用されている先生がいます。eスポーツをやっている生徒たちが、素直で成績もぐんぐん伸びているので、それは世の中を変える力になる、と期待しています。
徳島での産官学が連携する「eスポーツによる地方創生 徳島プロジェクト」のきっかけは、飯泉嘉門知事のかつての秘書の方が、eスポーツ協会に所属され、「JHSEFと共同で何かやったら面白いよね」という話になりました。飯泉知事も“ 対東京”を意識され、「徳島県をとにかくeスポーツの中心地にしたい」という熱意を抱いていらっしゃったので、サードウェーブがゲーミングPCを、四国大学と阿南高専にそれぞれ11台ずつ提供。周りの方々も含めて皆さんでeスポーツを体験していただきました。徳島県とJHSEF、サードウェーブと四国大学、阿南高専の連携ですね。要はeスポーツを通した地方創生なのです。
また阿南高専では、地元の小学生にeスポーツを体験させる取り組みを行っています。昨年は、小学3年生にプレーだけでなく、実況中継や解説をしてもらいました。もちろん阿南高専の生徒がシナリオを作っているのですが、小学生だからそのとおりに読まないんですよ。試合に入り込みすぎて、思い余って「このチームダメだな」と平気で言ったりして(笑)。
また四国大学もeスポーツの交流スペースを開設しています。昨年12月には徳島市と中国の湖南省の姉妹都市提携10周年記念イベントとして、eスポーツの試合が開催されました。中国もeスポーツが盛んですよね。
―改めてeスポーツの価値はどこにあると思われますか。
細井 まずネットリテラシーが向上します。グラウンドに入る前に挨拶をする、というリアルスポーツのように、ネット上での礼儀作法が身につきます。一人ではなかなかそうはならないのですが、これが広まることによって、ネット上での悪い言葉が減り、対戦相手をリスペクトし始める。スポーツ部のような指導がネット上で行われるので、「学校教育に活かせますよ」と私たちは呼びかけているのです。
eスポーツの世界では、「GLHF(good luck, have fun)」という言葉が試合前に飛び交うことがあります。「頑張って楽しもう!」という意味ですね。また、試合後には、「GG(Good Game)」という言葉を交わします。勝っても負けても「良い試合だったね」と、対戦相手やチームメイトを称え合うのです。
―eスポーツの見方が変わりますね。
細井 日本では保護者にいい顔をされないから、子どもたちが罪悪感を持ってゲームをするケースが多いです。でも、きちんと教えてくれる先生がいるチームに入って始められるといいですね。
NASEFでは、150人くらいのジェネラルマネジャーの肩書を持った先生たちが、どんどんコミュニティをつくっています。米国は学校に行けない子の割合が高いので、YMCA、YWCAにも入り込んで、eスポーツができるようにしています。最近、政府系の国家安全保障局、National Homeland Security(National Security Agency)からも協力を依頼されたそうです。eスポーツをするとヘイトスピーチが減り、その結果、テロが減るのではという研究も始まっています。
米国では、「高校生がFPSをすると、本当に銃で撃ち始めるのではないか、と心配されるが、実はそうではない」と発表された研究もあります。ゲームの世界で鬱憤を晴らすので、リアルではやらないのではないでしょうか。「FPSは五輪競技向きではない」という意見など世界で評価が分かれていますが、JHSEFで採用しているeスポーツ競技は、必ず2人以上の参加です。普通の団体スポーツと同じで、自然にPDCAを回す技術が身につくのではと思っています。
これからeスポーツを始める生徒たちには、友達と一緒にすることを奨励しますね。
メタバースな時代のリテラシーとは
—最近リアルとバーチャルがシームレスになりつつあります。eスポーツにはどんな影響がありますか。
細井 いくつかの企業がメタバースに着手し、Facebookも「Meta」と名前を変えるなど、新潮流になっていますね。映画の『レディ・プレイヤー1』のような世界がもう来ているんですよね。本当にGPUパワーが至るところで活躍する場が出てきています。eスポーツタイトルのプログラミングは、GPUの物理計算がもとになっています。人物や弾の動き、リアルな木漏れ日や風が吹く様子なども計算され、それがリアルな世界観を作り出しています。今後もっと開発が進めば、本当に境目がわからなくなるでしょう。
そのような中、CEROという、ゲームに年齢制限をかけるシステムがあります。例えば、FPSゲームの「エーペックスレジェンズ(Apex Legends)」というリアルなゲームは、米国では13歳以上、日本では17歳以上になっています。この年齢の差は銃社会かどうか、ということにもよるかもしれないですね。JHSEFでは第4回大会からFPSと同様に人気の高いTPS(サードパーソンシューティング)の「フォートナイト」を採用しましたが、リアルに戦争や暴力を想起させるものは種目として採用していません。ゲームのタイトルによって全然違うという理解をしていただけるとありがたいですね。また、学校の部活動の場合、先生が生徒に指導するなど、地道な努力が必要です。
—ゲームのリテラシー教育が重要になってきますね。
細井 何でもあり、というわけではないのです。米国でも若者がテロを起こさないための教育にeスポーツが使われています。
福岡の福翔高校の取り組みを紹介したテレビ番組では、eスポーツを始めてから、生徒が自分から挨拶するようになったと校長先生がおっしゃっていました。甲子園に出場する高校生たちのほとんどが野球を小学生から始めていますよね。挨拶・礼儀なども身につくという意味では、eスポーツを始める年齢も若いほうがいいと思います。阿南高専の取り組みのように。
米国では小学生からチームでのゲームに慣れています。米国のショッピングモールに行くと、小学生がお店を借り切って「フォートナイト」の大会をやっていますよ。コロナ禍で店がみんな閉まっていたのに、そこだけ活況(笑)。今までマクドナルドで集まって誕生会などしていたのに、今はそういう場所でeスポーツを行う。それが日常化してくると、親子にとって、新たな能力発見の機会になるのです。
ですので、NASEFとJHSEFが大切にしているのが、一部の才能のある子が目指せる運動選手の教育とは異なり、まず競技の面白さを教えることなんです。さらにそこからSTEAM 教育へのつながりを追求しています。
―しかし保護者の多くが、やはりゲームの依存性が気になるのではないでしょうか。
細井 生徒たちが授業や部活で一生懸命集中して練習すると、家に帰ってから、ゲームはできません。疲れてしまうのです。「部活でヘトヘトになる」と生徒がインタビューで答えていました。サッカー部の生徒がたくさん練習してもサッカー依存症と呼ばれないのと同じですかね。自分たちがスポーツをやっている意識があるから、家で勉強するようになる。帰宅したら疲れてゲームをやりたくないので、家族との会話も増える(笑)。
とことん打ち込んだ後は、これからの道を生徒たちは自分で見つけるのではないでしょうか。
―今後はどこに力を入れていきたいですか。
細井 2021年の「京都eスポーツ文化祭」では、eスポーツの競技運営者やマーケティング人材、スポーツ解説、機材担当者など、プレーヤー以外の担当者を育成する講座が開催されました。eスポーツの運営は、リアルな場で行われますので、そこでの教育に、これから力を入れていきたいですね。
そして野球場のように、eスポーツをプレーする場所も増やしたい。これまで、徳島、茨城、京都、和歌山、山口の自治体と組んでeスポーツのプレー場所を設置しました。スタジアムやホテルの中にeスポーツの施設を作ったので、今度は競技場を増やそうという話をしています。現状、まだまだeスポーツの場所が足りません。自治体で予算をつけてもらって、継続できる場所作りを日本全国で展開したいですね。例えばショッピングモールは誰でも集まれますので、そこにeスポーツの場所ができると、地元の学生が集まり、子どもたちのコミュニティができ、自分たちで大会を計画したりします。そのようにして、裾野を拡大したいですね。
またそれは、家にない機材に触れる機会にもなります。ゲーム機しか知らなかった子が、PCの拡張性の高さに驚き、最終的にPCに移行します。本当にデスクトップの中にどういう機材を入れるかによってまるで性能が違うんですよ。スマホやノートPCでは拡張性がありません。また、米国の小学生は自分でプレゼン資料を作成し、操作しながら発表します。だからPCが必要になってきます。早い時期からPCに慣れ親しむことも重要です。その中で、自然とeスポーツに触れる機会を得、世界観を体感してもらえれば、と願っています。
―リアルとバーチャルのバランスをうまく意識できるといいですね。
細井 「エスケープゲーム」というゲームは、5人から10人が、60分の時間内にさまざまな謎を解いて部屋から脱出するというゲームです。フィジカルなゲームだったのが、コロナ禍で、オンラインでできるようになりました。これからはハイブリッド版が出てくると思います。結果的に災害時のシミュレーションもできるかもしれません。
今のサイバー空間では、簡単に戦争やテロというものを体験することができます。未成年者でも、ハッキングの技術を習得すれば、ミサイルを誤作動させることもできます。そういう時代になってきたことを、eスポーツを通して教えていくのが、今後の教育要綱だと思いますね。長い間変わらなかった部分を変えていきたい。リアルとバーチャルのケジメをつけながらデジタル社会に移っていくための教育が、今後、大変重要です。
日本だと、電子マネーが使えず現金だけ、というようにデジタル化が進んでいない地域も少なくありません。DX 社会になるには、まず大人が考えを変えることです。eスポーツはSTEAM 教育に結びつき、新しい考えを生み出す力につながると信じています。伸びる才能を伸ばし、この国からビル・ゲイツやジェフ・ベゾスのような人たちを出したいですね。