0から100までの事業ステージを経験
―成田さんはクラスターに入社される前は、サイバーエージェントにいらっしゃったのですね。
成田 はい。新卒でサイバーエージェントに入り、12年いました。初年度はインターネット広告事業本部で新規営業を担当し、2年目にタレントブログの収益化を目的とした関連事業を行うTMNという子会社に移って営業部長になりました。
―2年目で営業部長ですか。
成田 サイバーエージェントには「あした会議」という社内の事業プランコンテストがあって、そこで事業化の承認を得た私の上司が声をかけてくれて、2人で新会社を立ち上げたのです。
その後スマートフォン市場が伸びてきたのを実感し、CAリワードというスマートフォン向けのアフィリエイト広告ネットワークを提供する社員8名ほどの別の子会社に、営業責任者として異動。2年で業界ナンバー1になりました。最後は社員80名ぐらいになっていました。
2013年にスマートフォン専業の広告代理事業を展開する子会社CyberZ(サイバーゼット)に出向し、広告営業部門の統括と海外支社3社の支社長、さらにマーケティング戦略室の室長を兼務しました。移った当時は80名ぐらいでしたが、6年間で社員400名、年商300億円ほどにまでなりました。
―新事業立ち上げと新規開拓の連続ですね。
成田 社内でもそう思われていました。よく「0→1、1→10、10→100」という言い方をしますが、それを一通りキャリアの中で体験させていただき、本当に感謝しています。
一方で同世代が起業する姿を見るにつけ、「サイバーエージェントという看板がなかったら、自分はどれぐらい勝負できるんだろう」という思いがありました。サイバーエージェントでは新卒採用の面接官だったのですが、面接の際はいつも「素晴らしい会社に入るんじゃなくて、素晴らしい会社を作ろう」と言っていました。それを自分でやってみたい、「今の会社の外で、もう一度事業立ち上げに加わろう」と決意しまして、2019年9月に退社。当時は社員数27名だったクラスターに移りました。
―起業ではなく、スタートアップへの移籍だった理由は何ですか。
成田 起業するには、自分が実現したいビジョンを明確に持っているビジョナリストである必要があります。でも私自身は全くビジョナリストではないんです。それまでやってきた事業でも常に営業の責任者だったり、「理想のビジョンやゴールが明確にある中で、そこに最短で到達するにはどうすればいいか」を考え、そしてそれを実行していくことが、自分の強みと思っていました。執行責任者として「結果にコミットする」のが私の仕事の流儀なのです。
クラスターの場合も、代表の加藤は本を出せるぐらいのビジョナリストです。
入社を決める前、加藤や共同創業者の田中と話したとき、「うちはVR 技術で評価されているけれども、必ずしもVRにはこだわっていない。それよりバーチャル経済圏、クリエイターエコノミーを作りたい。そのための選択肢は広いに越したことはないから、スマホアプリも計画している」という言葉が響きました。
強力なビジョンがあり、それを実現するプロセスには制約がない。「こういう方針なら、力を発揮しやすいな」と感じたのです。スマホアプリの話も、「それがゴールに向けてのフックになるかも」という予感がありました。
最初の受注で会社を黒字に
―黎明期だったメタバースをビジネスとして成立させるために、どんな方針で臨んだのですか。
成田 入社して最初に、前職からお付き合いのある企業の方々に一気にヒアリングをして回りました。前職ではゲーム系のお客様が多かったので、ラフに作った資料を持って転職の挨拶に伺って、「ぶっちゃけ、どんなふうに思いますか」と訊いて回りました。
元が広告営業ですから「このサービスをいくらで売ったらお客様の費用対効果が合うのか」と想像するわけです。でもメタバースはまだ世の中になかったものなので、値付けもない。我々の値付けがスタンダードになり、経営に直結してくるんだということを意識しつつ、2週間で30~40社から話を伺いました。
―その時の皆さんの反応はいかがでしたか。
成田 当時は今のように流行っていたわけではないので、企業の方もメタバースといってもわからない。比較対象は無料ライブ配信のニコ生(ニコニコ生放送)で、予算枠としてはキャンペーン。ファン向けのイベントとの比較でした。
宣伝広告費にはいろいろなお金の出方がありますが、スポットのキャンペーンは1ショット300万から500万円ぐらいが相場です。ただ、「それだとビジネスにならんぞ」というのが私の感覚。あと0が1個増えるぐらいにならないと、持続可能なビジネスモデルにならない。考えた末、「前例がない」というところで価値を作りにいきました。
―他社との差別化ですね。
成田 はい。まずニコ生のような2D 動画を配信するだけのイベントとバーチャルイベントの違いを明示する。そしてもう一つ、当時のクラスター以外のバーチャルイベントでは、パソコンもしくはVRデバイスでしか体験できないサービスがほとんどだった中で「うちだったらスマホでできますよ」と提案させていただきました。
クラスターでは2020年3月にスマートフォン用アプリを出す計画でした。アプリが出て最初のイベントが同月15日に予定されていて、そこで「バーチャルイベントにスマホから参加する、こけら落としのイベントを一緒にやりませんか? 他に類を見ないキャンペーンなので、ぜひ御社とやりたいです」という提案ができたわけです。
最先端のVRイベント、しかもそれがスマホから参加できるということで、広告媒体としての価値が大きくバリューアップし、全く新しい媒体として予算を組んでいただきました。そこで値段もついてくる感じになりましたね。
最初の受注はその年の12月でした。10月に入社して、「年内に1つ決める」という目標を立てたのですが、ちょうどそのタイミングで、1案件で会社が黒字になるぐらいの受注を獲得。これまでの取引を2桁以上上回る大型商談になりました。
―そこから「1年で売上が100倍になる」という快進撃が始まったのですね。
成田 まあ、元が小さかったからなのですが。「こうやって売っていくんだ。やるぞ!」となったタイミングで、新型コロナが来たわけです。そこからは市場ニーズに飲み込まれていく形で、BtoBの売上が急激に大きくなっていきました。
―コロナ禍ではどんな業界と関わってきたのですか。
成田 最初はエンタメ企業さんが多かったですね。オフラインでファン感謝祭などのイベントをやりたいけど、コロナ禍でできないのでバーチャルやメタバースで、というシンプルなニーズです。
次が展示会、ショールームビジネスで、コロナで完全にストップしてしまう中で、「何かできないか」ということでお声をかけていただくケースがありました。
2021年に入ってから引き合いが目立ってきたのが、学校や官公庁でした。2020年にコロナ禍が始まったとき、みんな「まあ年内には終わるだろう」と思っていたのに、年を越しても収束しない。「今年も入学式と卒業式ができない」「オープンキャンパスができないから学生が入ってこない」といったことから、「バーチャルキャンパスを設けたい」というご要望が続出し、あちこちで作らせていただきました。ある自治体から「伝統のお祭りができないから、バーチャルな会場を作ってほしい」といった話もありました。
そして観光関係、スポーツ関係の企業の方からの問い合わせも増加。バーチャル横浜スタジアムを作ってベイスターズのホーム戦をライブで配信したときは、横浜スタジアムをまるごと再現し、「追加料金を払えばVIPルームで観戦できます」といった企画も実施しました。
2021年も後半になると、世界規模の企業の方々に向け、世界各地の社員が一堂に会する場を作ったり、バーチャルオフィスを作って採用セミナーや新入社員内定式を開催したり。また株主報告会などにも、業種に関係なく活用いただくようになりました。
バーチャル経済圏のインフラを目指す
―メタバース関連のネット記事や本で、「メタバースを始めるのなら、まず『cluster』に入りなさい」とよく勧められています。「VRデバイスを持っていなくても、手持ちのスマホでできますから」といったことが書かれてありますが。
成田 ありがとうございます(笑)。イベントにもよりますが、現在ではスマートフォンからのアクセスが全体の7~8割を占めています。
―スマホアプリが出たのが2020年3月で、「バーチャル渋谷」もその頃ですね。
成田 自称「バーチャル渋谷」は実はたくさんの種類があるのですが、その中で唯一、渋谷区に公認いただいているのが弊社のもの。その話が来たのがまさに20年の3月末でした。
これからロックダウンするかどうかというタイミングで、「何とか5月に出してほしい」という要請を受けました。そして「これはもうほかの仕事を断っても、一気にやったほうがいい」という話になりまして。新しいものを売る際の先行事例作りは皆さんやられると思いますが、それをどんなモデルでやるかが非常に重要なのです。
弊社が運用するclusterは、それまでもバーチャルアイドルやVTuberといった方々の活動の場としては知られていましたが、一般のビジネスユーザーのように、普段あまりバーチャルに触れていない層には全く知られていないプラットフォームでした。BtoBの事業をやっていく上で、公共性が高いランドマークを手掛けておくことは非常に重要です。
小さな会社で、制作体制もそんなに強固とはいえなかったので、「まずは渋谷をしっかり形にしよう」という方針で押して、無事20年5月初旬にローンチ。それがランドマークになり、さらに多くのお問い合わせを頂けるようになってきました。
―「バーチャル大阪」もやっておられますね。
成田 バーチャル大阪は大阪府・市の公募案件なんです。「持続可能な事業体として共同運営者を公募する」という形で、公募は2021年でしたが、大阪万博が2025年にあるので、まる4年は運営を続けなければならない。弊社では自社のサービスエンドもあって厳しく、どうしようかと思っていたのですが、幸いにも応募する各社さんに、「プラットフォームとしてclusterを利用したい」と声をかけていただきまして。最終的にバーチャル渋谷を運営されているKDDIさんが選定され、クラスターも一緒に参加することになったわけです。
おかげさまで今ではアニメやゲームに強いだけではなく、いろいろな企業や官公庁の皆さんにあまねく使っていただけるプラットフォームになってきました。
メタバースにおける広告のあり方とは
―広告・マーケティング活動の場として、メタバースにはどのような可能性があると思われますか。
成田 マーケティングの基本は「人がいるところに商品を置いて見せること」なので、メタバースの広告価値も結局「そこに人が集まっている」ことにあると思います。
今はまだメタバースの空間内は人の集まりが少なく、その中でビジネスになっているのがアバターです。参入者全員がアバターを持っているので、Epic Gamesが運営するフォートナイトではアバターのスキンの販売が年間4,000億円ぐらいあるそうです。先日はドラゴンボールとのコラボも発表していました。おそらくドラゴンボールのスキンを発売する計画でしょう。
―メタバースにおける広告スタイルは、従来と全く違うものになるのでしょうか。
成田 クラスターと事業構造が近いRoblox(ロブロックス)というアメリカのVRサービスがあって、そこは先日、ネットワーク広告を出しました。ここはDAU(Daily Active Users)が4,800万人ぐらいで、月間2.5億~3.5億人がプレーしているのですが、この広告がクリックもできなければリンクもない、表示するだけのインプレッション広告だったのです。
以前はテレビや新聞といったマス・メディアや屋外広告のOOH(Out Of Home)が広告の中心でした。おそらくメタバースでも、まずはマスに向けて同じ内容の広告を出すトラディショナルな手法が一通り試され、その後にそれぞれのプラットフォームに最適化された広告が、技術革新の中で生み出されていくのだろうと思っています。
―メタバースにおける広告スタイルは、従来と全く違うものになるのでしょうか。
成田 クラスターと事業構造が近いRoblox(ロブロックス)というアメリカのVRサービスがあって、そこは先日、ネットワーク広告を出しました。ここはDAU(Daily Active Users)が4,800万人ぐらいで、月間2.5億~3.5億人がプレーしているのですが、この広告がクリックもできなければリンクもない、表示するだけのインプレッション広告だったのです。
以前はテレビや新聞といったマス・メディアや屋外広告のOOH(Out Of Home)が広告の中心でした。おそらくメタバースでも、まずはマスに向けて同じ内容の広告を出すトラディショナルな手法が一通り試され、その後にそれぞれのプラットフォームに最適化された広告が、技術革新の中で生み出されていくのだろうと思っています。
―それは例えばどういった形ですか。
成田 映画の『マイノリティ・リポート』のように、人が歩いたらその人の趣味嗜好に合わせた動画が飛び出してくるとか、表示される内容も取得されたデータによってどうマッチングするか決められていくという、ターゲティング広告の進化形のようなものかもしれません。
私たちはリアルの世界で生活していると、自分のデータは基本的にどこからも取られていないわけです。スマホを持てば位置情報は取られますが、手ぶらで歩いているだけなら、自分が存在しているというデータはどこにもない。ところが一歩メタバース空間の中に入ると、全てのデータを取られてしまう。
メタバースでの広告もそのデータを活用した広告になるだろうと思います。例えばその人がログインしてから何時間経ったかがわかるわけですね。そうすると目が乾く時間に合わせて、目薬の広告が出てくるとか。
―なるほど。3時になったらお菓子の広告が出てきて、「そろそろティータイムでも」と勧めてくれるとかですね。
成田 はい。そしてメタバースの広告は、ゲームの広告スタイルに近くなるだろうとも思います。かつてセカンドライフで「SoftBank×SAMSUNG 島」という島が作られ、携帯電話のプロモーションに使われたり、コナミさんが2004年に発売したゲーム「メタルギアソリッド3」に、大塚製薬さんの「カロリーメイト」が、食べると体力パラメータが回復するアイテムとして登場したりしました。ああいったものが、わかりやすい例でしょうね。
―クラスターでは何か新しい試みをしていますか。
成田 私たちが先日トライしたのは、「メタバースの空間内でアイテムを買うと、それをアバターが身につけられ、家にも実物が届く」というスタイルです。
ライブではファンがそこでTシャツを買って、みんなで同じTシャツを着て応援することがありますね。一体感があるから楽しくて、ファンはそれを思い出として家に持ち帰るわけです。別に街で着るわけではないけれど、捨てない。
メタバース空間の中で買ったアバターの服は、現実のユーザーは着られない。でも家で着ないという意味では、ライブ会場で買うTシャツと同じなんです。だとすると、アバターが着てイベントを体験した服を家に届けてあげれば、ライブ会場で買ったTシャツを持ち帰るのと同じことになるのでは。それをセットにすることで、バーチャル空間内で消費されて終わりではなく、リアルで体験したことのように思い出を持ち帰ることができ、それが一つの購買体験になるのでは―という話になって、やってみたのです。
結果は好評でした。「何万枚売れた」とかじゃないですけど、購入した方からは、「忘れていた感覚が取り戻せた」とか「本当にコンサートに行ったような気持ちになれました」といったコメントが寄せられました。
―家に服が届いたら終わりではなく、例えば自分でそれを着た写真を撮ってSNSにアップする。するとさらに盛り上がりそうですね。
成田 イベントの思い出のようなメタバース内の体験をセットにできて、初めて3D 空間の中でモノを買う意味が出てくる。自分がリアルで着る服だったらECで買えばいいわけですが、そういう新しい切り口を作っていけると、メタバースもマーケットプレイスとして使っていただけるかなと思います。
ロブロックスやフォートナイトではバレンシアガやナイキなどのブランドが、ゲームの中で着るデジタルアパレルのコレクションを発表していますが、3DCGの制作にお金がかかりますし、イベントを開催すればスタッフのコストも生じる。残念ながら、私たちはまだそれだけの金額に見合った広告効果をアピールできるサイズではないので、「初期費用は私たちが持つので、皆さんのIP(Intellectual Property:知的財産)をお借りしてトライさせていただけませんか」とお声がけをしているところです。誘いに乗ってくださる企業が増えてきたら、うれしいですね。
ユーザーが作るメタバースの未来
―御社が運営するclusterは、基本的にBtoBのプラットフォームなのでしょうか。
成田 そこでBtoBの事業を展開する一方、コンシューマー向けのサービスも提供しています。clusterではユーザーが「ワールド」と呼ばれる仮想空間を作り、ほかのユーザーと交流を楽しめるようになっている。その意味では、いわばバーチャルなSNSのプラットフォームといえます。実は私たちの主要事業はこのCtoC のプラットフォームで、ここが進化すればするほどBtoBでできることも増えていくんです。
例えばユーザーさんが「月面に桜が1本立っていて、奥にきれいな地球が見えるワールド」を作って、そこで「みんなで花見をして地球を見ながら会話するイベント」だったり、ユーザーさんが作って実装した麻雀のゲームなどもある。普通の麻雀ゲームと違ってメタバースの中なので、通りがかった人が後ろから見たら、プレーヤーの手牌が見えるんですよ。そうしたコンテンツを数千人の人たちが日々アップしています。
私たちもそこで勉強させてもらいながら、「ユーザーさんがイベントでこんなことをしている例があるのですが、これを御社のマスコットでやってみたらどうですか」などと企業に提案をして、BtoBに還元しています。そこが他社さんと違うところで、CtoCのサービスを持っていることで、相互作用的に進化していくのです。
clusterではもうすぐクリエイターが作ったワールドのパーツや、アバターや服などを販売できる機能が登場します。今後、自分のアバター用の服や靴を買ったり、自分が創造したワールドを飾るためのアイテムを購入するといった、さまざまな需要が生まれてくるでしょう。最近はアバターやパーツも無料の3DCGツールで作れますから、誰でもクリエイターとしてお金を得られる可能性があるのです。
私たちは世界中のクリエイターたちが稼ぐことのできるインフラをcluster上に構築し、「クリエイターエコノミー」を創出したいと考えています。
―メタバースの運営について、心がけていることは何かありますか。
成田 誰かに特定したサービスにはせず、広くあまねく楽しんでいただくことと、アクセスに必要な環境をできるだけ広く取ること、そして心理的安全性を担保していく、という3点があります。
人は「自分がいちゃいけないんだ」と思う場所には寄りつきません。自分と異質な集団には近寄らない。子どもがたくさん集まるところには自分は入りたくないとか、みんなが英語でしゃべっている場に放り込まれて居心地が悪いとか、そういうことは皆さんもあるでしょう。
言語に応じてサーバーを分けるなどは当然やりますが、基本的に国籍や人種、言語といったものに制限されないよう運営していきたい。広く全てのユーザーさんに楽しんでいただけるコンテンツを提供し、いかなるコミュニティをも包含できる包容力を備えることが必要だと思っています。
2つ目は、とにかくハードルを下げることに力を入れて、「VRゴーグルがなければだめ」ということではなく、スマートフォンでも楽しんでいただけ、いずれはプレイステーションや任天堂スイッチからも入れるようなサービスにしていきたい。「世界一ハードルの低いメタバースになること」が、ユーザーさんを増やしていくためには大切だと考えています。
第3に、ちょっと遊んで飽きてやめるのではなく、5年10年とゆるく長く過ごしていただけるように、心理的安全性を意識しながら運営をしていきます。
例えば一昔前の渋谷のセンター街はガラが悪かったですよね。「夜遅くなったら通らないほうがいい」という場所だったら、まあ普通の人は行かないでしょう。そうならないために利用者からの通報に迅速に対応したり、スタッフを常駐させたり、レギュレーションを整備していきます。この心理的安全性は企業の利活用においても非常に重要になると思っています。
―cluster 利用者の実際の年齢層はどれぐらいですか。
成田 現状では10代後半から40代まで、かなり幅広い年代に偏りなく使っていただけています。これがロブロックスになると14歳未満が54%で、主に小学生が楽しんでいて、フォートナイトあたりも小学生に人気ですね。それらと比べると、clusterはもう少し上の層になります。
初心者が楽しむためのコツ
―私もcluster初心者なのですが、「こうしたら楽しく使える」というアドバイスは何かありますか。
成田 お勧めは一人でやらないことです。お友達でもお子さんでも誰か仲のいい人と一緒にやるほうがいい。一人だと、いきなり話しかけられると怖いじゃないですか。
―そうなんですよ。
成田 いきなり「こんにちは」と言われても、返事をするのも恥ずかしいし、いきなり手を振られても、かえって走って逃げたくなる。私もそうです。なので友達とそれぞれのご自宅からアクセスして、どこかで待ち合わせをしておしゃべりするとか、仲のいい数人でほかの人が来ない空間に入ってくつろいでみるとか、そういうことを繰り返すうちに、「今日も行く?」ぐらいの日常感覚で使っていただけるようになるかと思います。
―本などを読むと、「元の自分と全然違う人間になれる」と書かれていて、性別も年齢も関係ない世界と思っていたのですが、実際に自分が入って周りを見ていると、「私は学生です」なんて、わりにリアルに近い自己紹介をしていましたね。
成田 でもそれが本当とは限らないですよ。それがその人の設定という可能性もあるわけなので。
―そうか、そういうこともあるんですね。
成田 誰しも何かしらのコンプレックスはあって、理想の自分から少なからず遠いはずです。別に本当の自分を引きずる必要はないので、アバターで学生になりたかったら、「学生です」と言っていればいい。もちろん本当の自分のまま入っていく人もたくさんいるし、私もアバターは今の自分に似せたキャラクターを使っています。
clusterではアバターの顔や服を選んだりできますが、皆さんのハードルを高くしないように、用意されてあるのは、できるだけ普通のワンピースやワイシャツ、スーツなど、街で着ても恥ずかしくないものです。
さらに自分のホームの先にロビーという場所があり、そこにはアルバイトの「クラスタースタッフ」が365日配置されているんです。スタッフは初心者の方たちを集めて1日3回、あちこちのワールドを一緒に回るツアーを開催したり、「声の出し方はどうすればいいか」といった解説をしたりしています。スタッフを見つけたら「初心者なんですけど」と話しかけてみるといいでしょう。
―私もクラスタースタッフの方に、手の上げ方やジャンプの仕方など教えていただきました。
成田 今後は初心者マークも付けられるようになりますので、「突然話しかけるのはやめよう」となったり、「何かお手伝いしましょうか」と声がけされたり、いっそう過ごしやすくなってくるでしょう。
clusterにはたくさんのワールドがあるので、それをあちこち覗いてみても飽きないし、日本一イベントが多くて、毎日何かしら開催されているメタバースでもあります。それを見に行くだけでも楽しめると思いますよ。