横のつながりで進化するAI ─広告会社の挑戦

2023年3月16日 11:44 Vol.82
   
児玉 拓也
(株)電通 AI MIRAI 統括/AI ビジネスプランナー
Takuya Kodama
デジタルプラットフォーマーなどのクライアント担当プロデューサーとして活動した後、全社企画セクションに異動。2017年春に立ち上がった全社AIプロジェクトを統括し、18年からはAIの活用を社内外で推進する統括プロジェクトチーム「AI MIRAI」の推進役として、60件以上のAI関連開発案件に関わる。現在は電通国際情報サービスに出向、UXデザインセンターのマネージャーも務める。

AIをマーケティングや広告クリエーティブに活用する試みは、以前から行われてきた。しかし近年、AI 技術の発展とビジネス活用の範囲が拡大するにつれ、新たにさまざまなサービスが登場している。今後、広告ビジネスはどのようにAIを活用し、さらなる進化を目指すのか。電通グループ社内でのAIプロジェクトのリーダーに話をうかがう。
photograph: Masahiro Miki
                                                        

 
 
 
 

全社横断プロジェクト「AI MIRAI」とは

――最初に、全社横断プロジェクト「AI MIRAI」の発足について教えてください。児玉さんは当初から総括という立場でいらっしゃいました。

児玉 発足は2017年に遡ります。当時は第3次AIブームと呼ばれ、現在につながる活用が広まり、社内のさまざまな部署にAIに関する相談が増えていました。やがてそれらを各現場対応ではなくチームとして手がけ、そこに研究や開発予算をつけて運用していくべき、ということが言われ始めました。

そこで、まずAIの情報共有会のようなものを始めたのです。自分は特に機械学習などのバックグラウンドがあったわけではないのですが、当時経営企画の部署で全体プロジェクトの推進を事務局として見る立場でしたので、「AIもやってみてくれ」という話が来るようになりました。
AIは個人的には興味があり、少し自分で本を読んだり人に聞いたりしていましたが、いざ仕事でやれと言われても、最初はどうすればいいのか戸惑いましたね。

当時は事務局として、社内で声をかけて会議をセッティングするだけでしたが、段々と面白くなり、自分でも次第に勉強を進めるようになっていきました。2017年の終わり頃に、「AI MIRAI」という全社横断プロジェクトとして立ち上がることになり、これまで自分が会をまとめていた流れから統括に着任。最初は本当に素人からの出発でした。

―それは意外でした。でも、かえって新鮮な気持ちで取り組めたのではないですか。

児玉 全くそうですね。私はビジネスプロデューサーという営業的な立場を長く務めていて、大学の専攻も美術史学という全く関係ない分野。しかし当初からテクノロジーは面白い、と思っていました。
AI テクノロジーに携わる人は若い方が多く、また、これまで接する機会がなかった技術者たちとの話を通してかなり刺激を受けました。マーケターは、どうしてもその市場に注目しがちですが、技術者の方が考えるポイントは、それとはかなり違ったものでした。

―技術者は社内の方々だったのでしょうか。

児玉 当時は社内に技術者がほとんどいなかったので、データアーティストという会社をはじめ、さまざまな会社とやり取りしていました(注:その後、データアーティストは電通グループに参入)。
当時のAIの状況は、インターネット黎明期に近いものがあり、期待値が高く、電通グループでもビジネスでリードする立場を目指して、かなり力が入っていました。
自分は当初、技術のことがよくわからなかったので、開発や実証実験などの進め方にも苦労しました。例えば技術者の方から提出いただくレポートがこちらの目的に合っているのか、をチェックするのですが、そのためには当然、こちらが専門的な言葉を学び、知っておかなければなりません。

―当初AI MIRAIには、どのような方々が集まったのですか。

児玉 今でもそうですが、AI MIRAIのメンバーは専任ではありません。クリエーティブからメディア、デジタルなど、本当にさまざまな部門の方々が属しています。また発足当時は働き方改革を進めていた時期でしたので、人事や総務の担当者もいました。

その方たちが「AI 技術で何ができるのか」といったことを情報交換しながら、研究開発予算を使って「テレビ広告ではこれをやってみよう」「クリエーティブはこれをやってみよう」「働き方改革や新規事業ならこれをやってみよう」と全方位的にトライしていましたね。AIでできそうなチャンスはなるべく多く根を張っていこうと(笑)。
そのように高いモチベーションで集まったメンバーに対して、私は指示をするのではなく、皆のやりたいことを応援する立場。研究予算がないとか、適切な取引先が見つからないなど、困り事があれば協力させていただきました。

 
 
 
 

ニーズに合わせたAIソリューションの作成と進化

――そのような横のつながりから生まれたものを、クライアントに提案されたのですか。

児玉 クライアントから受注し、一緒に開発することも結構ありましたね。例えば電通グループの場合、テレビの視聴率を予測する「SHAREST」や、テレビ広告枠の組み換えを行う「RICH FLOW」というAIソリューションシステムがあります。今まで人間がやっていた仕事をAIで高度化、効率化してお客様に提案する目的で開発されました。
一方、バナー広告や広告コピーを生成するAIにもトライしましたが、なかなか難しいところがありました。しかし当時のノウハウや集めたデータと最新の技術を掛け合わせて、現在、新たなトライアルを始めています。

ほかにもチャットボットエンジンやトレンド予測エンジンといった当時の取り組みが、別の形で転用されたり、活用されたりしているケースは多いですね。視聴率予測やバナー生成、効果予測などは、実際のソリューションとしてお客様にご提案しています。

―それらは、最新技術でアップデートしているのですか。

児玉 そうですね。どんどんアップデートしてソリューションを進化させます。昨年、インタビュー調査をAIチャットボットで行うサービスをリリースし、現在ブラッシュアップ中です。インタビュー調査は時間やお金がかなりかかるので、一度に可能な人数は限られていましたが、AIだとその制限がほぼありません。

―AI 調査は対面より本音が出やすいのでしょうか。世間には「AI上司」のほうが話しやすい、といった意見もありますが。

児玉 AI 調査は、ネット調査と対面調査のいいとこ取りのような感じですかね。相手がAIだとフリーアンサーの記入率もはるかにいいことが実証実験の結果からわかっています。
そして「AI 上司」については、私も立場上、やや寂しいところもありますが(笑)、ただ相手が機械だと思うと、虚飾をする必要がないので気楽なのだと思います。「いやあ、実際、やってらんないっすよ」などは、相手がAIだからこそ出てくる本音ですよね。

―そうですね。でもAIが当たり障りのないことを言うと、スルーされたと思って寂しくなります(笑)。

児玉 その言語関係のエンジンも、ここ2年ほどでかなり進歩しました。2020年頃に流行した最新技術ですと、本当に人間と変わらないレベルでAIがブログの記事を書き、それがバレずに、かなり人気になった事例もあります。そのエンジンは今はオープンになっていて、現在、それを使ってコピーを書き、ECサイトの商品説明をAIに任せるという実証実験を行っています。日々新しい商品が生まれ、膨大な数になる中で、人間が一つ一つ説明文を書くより、圧倒的に早くできますからね。そのように高い効率性とうそを書かない点が実証されれば、ビジネスにつながるのでは、と思って研究を進めています。

 
 
 
 

広告業務におけるAI技術の活用

―コピーライティングなどのクリエーティブ領域では、AIをどう活用していますか。

児玉 広告賞を受賞するようなカッティングエッジなものでないシンプルなものであれば、広告コピーも、かなり書けるようになっていると思います。
そして最近のトレンドでいえば、画像生成AIがかなり盛り上がっていますね。「Stable Diffusion」や「Midjourney」などを使えば、人間のイラストレーターよりもはるかに簡単に、安く制作できます。例えば「海から昇る朝日」と入力すると、条件にハマるテイストの絵がパチッと出てくる。そのようなソフトがすごい勢いで普及しています。AIは何十億枚という画像データをキャプションと一緒に学習しているので、それらをつなぎ合わせて適切な画像を生成してくれるのです。

そのような新しい技術をビジネスにつなげるため、緊急の勉強会も開催しています。その中には、権利関係をはじめとする法務的な内容もあります。現在はリモートワークがメインですので、それらの勉強会はオンラインで開催されるのですが、だからこそ、電通だけではなく関連会社など、さまざまな方々に参加してもらうことが可能になりました。

現在ではAI 制作物のクオリティは、人間がつくったものと見分けがつかないものも多い。つい最近もAIが描いた絵がイラストコンテストで優勝し、物議を醸しました。世界中でそのようなサービスが出てくると、イラストレーターのモチベーションが下がったり、権利関係があやふやになったりということが予想されます。その点は今から備えたいと思っています。

―今後、クリエーティブな制作物においても、人間とAIが同じ俎上に上るということでしょうか。

児玉 そうはいっても、AI が全部つくります、というのはまだ無理ですね。例えばイラストでは、モチーフや構図などは人間が考えなくてはいけない。AIが何枚も作成したものを人間が選び、修正しながら進めていくことになると思います。動画も同じです。AIと人間のどちらかの選択ではなく、AIを使いこなせるクリエーターが求められてくるのではないでしょうか。

それは現代に特化したことではなく、似たような例だと、かつてPhotoshopなどの画像加工ソフトの登場で、手描きからパソコン制作に移行しました。さらに時代を遡ると、カメラが登場した際には、風景画家のニーズが取って代わられ、後に抽象画家が誕生します。言葉のクリエーティビティについても、書くよりも、選ぶほうが実はすごく難しい。そんなふうに現在のテクノロジーをいかに使いこなし、新たなクリエーティビティを人間がどう探っていくか、といったことが、これからも行われていくのではないでしょうか。

クリエーターの方々にとっても、テクノロジーの可能性を知りながら挑戦する時代になっていて、その範囲もすごく広がっています。これまでは手を動かし分担して進めていた仕事が、最近では全部ひとりでもできるようになりました。今後はAIをうまく活用して、自分が狙ったクリエーティブなアウトプットができるよう、ワークフローも変わってくると思います。

―そうなると一般の人々はどのような発想の転換が必要になってきますか。

児玉 AIで対話や画像生成がうまくできるようになると、偽物が増えます。先日の台風災害の際、AIがつくったデマ画像がネット上で拡散してかなり炎上しました。このような事例が今後増えてくるのではないでしょうか。現在も、イラストを販売するサイトで、AIが作成したことを隠した大量の雑な画像が売られていますよ。著作権やその他の法的リスクもあります。それは画像に限らず、文章やチャットなどの対話にも当てはまりますので、現時点でAIで何が可能かを把握し、それがうそではないか、を疑うことが大切な世の中になってくるでしょう。

―情報を見極める力ということでしょうか。

児玉 そうです。少し前までは、AIの実用化は予測分類が中心でした。例えば、ある絵の中に描かれている木の種類や人の年齢を予測したり、分類することが最も実用化されていました。

しかし、ここ1、2年で何かを新しくつくり出すことがすごくできるようになったのです。クオリティやコンプライアンス的な要素を見極め、AIや人がつくったものの中から、自分が求めるものを選択するリテラシーのようなものが、今後は求められてくると思いますね。そういう意味で、現在は本当に転換期といえます。AIで生成することは新しいソリューションなので、まだダイレクトにビジネスに結びつきませんが、これから変わってくるはずです。

 
 
 
 

これまでの蓄積を生かしたAIニーズへの対応

―AI MIRAIの発足時から社会のニーズは変化しましたか。

児玉 すごく変わりましたね。当初は、AIは初めてという人がほとんどでしたので、「一緒にやりましょう」という感じで、ビジネスとして明確に見えていない部分もありました。2022年時点では、既に多くのクライアントさんがさまざまなことをAIで試しているので、何かお願いしたい、というよりは、AI 人材を育てて、社内でAIを自走させたい、というニーズがけっこう増えています。それに対して電通グループもAI 人材育成サービスの提供という形で対応し、社会の中で普通に扱われる存在になってきたな、という印象はあります。

―一方で続かなかったAIプロジェクトはありますか。そこから何か気づくことはあったのでしょうか。。

児玉 社内向けのものですが、社員の面談結果を言語分析してマッチングするようなものを作成しました。技術が追いつかなくて、終了してしまったのですが、大きな問題は、そもそもそこに課題がなかったことです。つまり、誰も欲しがっていなかったのですよ。当時、いろいろな人に聞いたところ「いいね」という答えが返ってきたのですが、実際につくると誰も使ってくれない。これは別にAIに限らず、システム開発では無限にあること。「こういうのがあったらいいよね」という意見に応えて情報システム部門がつくっても、ユーザー部門からは、「そんなシステムをいちいち起動して使っている暇がない」と一瞬で使われなくなる(笑)。

ちょっとした盛り上がりで手を出してしまったものもあります。例えばAIのCMプランナーはなかなか使われなかったですね。技術が及ばなかった上に、CMプランナーたちにとっては、自分で考えたほうがはるかに早く、簡単にいいものができたのです。そこを十分認識できていませんでした。そんな感じで、なくなっていったプロジェクトも数知れずありますよ。

これはマーケティングでも同じだと思います。授業でよく出る事例ですが、「体に優しいマクドナルドのメニューが欲しい」というインタビュー調査の回答に対して、本当に体に優しいメニューを出したら売れなかった。生活者やユーザーが欲しいと言っているものと、本当に欲しいものとは全然違う、ということですね。

―現在、何かに活かされていますか。

児玉 うまくいかなかったことでも、ノウハウや技術資産として残っていくんですよね。当時失敗したプロジェクトでも、つくったデータやAIモジュールが残るので、「あの時のものが使えるんじゃないか」と引っ張り出して別のところで使うこともあります。失敗プロジェクトは大いに意味があるのです。
自分がテクノロジーに携わるまでは、失敗は失敗だと思っていました。技術を社内に蓄積していくためにもやはり内製化は必須で、テクノロジーで新しいことをするには、こういう視点が大切だな、と強く思いました。

―AIの種を社会に撒いていくイメージでしょうか。

児玉 そうですね。AIは経済社会にとって成長の原動力となります。最近、それを使っていかに自分たちの事業を進めるのか、という構想が温まってきていると思います。ですので、これまでのように、外部に「何かつくってよ」とぱっと投げかけるよりは、自分たちの中でそういったものを育成し、一緒にやるメンバーを育てたい、というニーズが上がってきたと思います。

 
 
 
 

グループ社内でAIプロジェクトを自走させるために

―児玉さんはブログで「ふさわしいプロジェクトリーダーの育成」ということを強調されています。一般的なプロジェクトリーダーとAIのそれとでは、大切にすべき共通点と異なる点はありますか。

児玉 当たり前ですが、共通点は、責任感を持ってやり切ることですね。特にAIは不確実性が高いので、そのような状況で「まだやるのか、ここで終わりにするのか」といった、きちんとした意思決定は必要です。
AIならではの違いは、技術やデータの中身といったものに対する知識が十分にあること。AIを活用した事業成長を指す言葉に「MLOps(エムエルオプス)」(Machine Learning Operations:機械学習オペレーション)というものがあります。社内でどういうオペレーションにすれば、AIの力を最大限に発揮できるのか、という事業設計みたいなこともかなり大事になっています。そういう知見や知るべき範囲というのがテクノロジー側に大きく広がってきているな、と感じますね。

―そういう意味で、「勉強しなくてはいけない」とおっしゃっていたのですね。

児玉 それを一番やらなくてはいけないのは自分なんですけど(笑)。私のような非エンジニア人間が、「これはわからないので、ここから先は、よろしく頼むよ」ではなく、技術側に片足を突っ込んで、これはどういうことか、この検証の仕方は合っているのか、といったことを向こうの言葉で話せるようにならないといけない。

新しい技術もどんどん出てくるので、それにどう対応していくか、も考えています。電通に限らず、これまでの社内プロジェクトは、高度な専門知識より、社内をまとめていく調整力やリーダーシップというビジネス的な感覚が重視されていました。
しかし、これからは、そこにテクノロジーの知識が上乗せされてきます。近頃は社会人全般に求められる教養も変化していますよね「これからはDXだ」とずっと言われていますが、それもやはり、テクノロジーを使って自分たちの仕事をどうアップデートするのか、を「常に考えなさい」という話なのです。それを考えられるだけのアンテナの高さや知識がすごく必要になりますね。

―ある意味、主体的に物事が進められるということですか。

児玉 進めていかないといけないですよ。電通のような広告会社は、基本的にはお客様からの依頼に応える受託型の産業といわれています。でも、受託だけして自社に向けて何もしなくていいわけではありません。世の中の流れに合わせてテクノロジーについて知っておかなければ機会を逃します。例えば、テレビ視聴率やバナー生成ツールなどを試して、そのノウハウを蓄積しないと、その領域で信頼感を得て、ビジネスにつなげることはできません。自社内の改革に手を抜くべきではないと思っています。

―AI 関連のビジネスは、先にプロダクトをつくってクライアントに提案する技術ドリブンの会社が主流です。そんな中で、広告会社の強みは何でしょう。

児玉 テクノロジーそのもので価値を出すよりも、ユーザーエクスペリエンスに結びつけて、価値あるものにできることかもしれません。新しいBtoBのサービスをつくっても、楽になったり早くなったりといった手段の枠から出ていなければ、テクノロジーの面白さを伝え、実際の生活者サービスにはつながりにくい。生活者のインサイトや体験設定といったところまでやり切ること。テクノロジー単独でやるのではありません。
ですので広告会社が生活者の立場に立って、全体のユーザー体験を設計し、その中でテクノロジーの役割を決めていく、という視点が大切ではないでしょうか。

―長い目で見てユーザーとクライアントをつなぐということですか。

児玉 そうですね。ユーザー価値をどうつくっていくか、だと思います。AIソフトを一つ入れただけでは、それで進化・改善したとは言い切れないですね。お客様に伝えたいことがあって、全体のブランド資産や価値をもとに、その伝達手段としてテクノロジーが活用できているか、ということをきちんと設計することが大切だと思います。AIを使ってブランド価値を高めたり、お客様と良いリレーションを築くといったことは、あくまで手段。ブームになってしまうと、目的がわからなくなりがちですが、お客様にとっては、AIかどうかなんて本当は関係ない話なのです。

アマゾンのレコメンドやグーグルの検索なども当然、機械学習ですが、精度が高くて便利という話であって、一つの手段でしかない。そういったことは常に意識しておきたいです。

―現在、個人的に注目しているプロジェクトにはどのようなものがありますか。

児玉 ブレークスルー中のAI 画像生成や動画生成ソフトを使って自分たちの仕事をどう改善していくか、にすごく関心がありますね。
また、電通グループが持ち株会社になって、グループ会社の中にさまざまな仕事があることを実感しています。例えば、グループ会社として、提供しているソリューションのログデータを扱うことができていないという話がありました。そこで電通グループの会社のAIエンジニアと協力して、今年、社員の活性度評価をAIで行うプロジェクトを手掛けましたが、改めてグループならではの仕事の幅の広さを感じます。新たなつながりから生まれるものが、まだ無限にあると、社内を見渡しても思います。会社が大きくなると、やはり視点も広がりますね。

―今後のAI MIRAIのビジョンについておうかがいします。

児玉 AI MIRAIは、単独で何か明確なビジョンを打ち出すというよりは、AIでつながる社内のコミュニティです。電通グループの人々とのネットワークができてきたので、その中で今までトライしていなかったアイデアなどが生まれるのをすごく楽しみにしています。グループ内のさまざまな会社を、テクノロジーという共通言語でつなぎ合わせていくようなことができればと思います。広告やマーケティングという枠をはみ出して、どんどん新しいことに挑戦していきたいですね。

 
 
 
 

電通グループのAI ソリューション

電通グループが現在提供している、AI を活用した多様な広告・マーケティングソリューションの中から、注目サービスの一部を紹介する。

予測/最適化を活用したコンサルティングサービス「ミチシロウ」

「ミチシロウ」は、予測や最適化の技法を用いてマーケティングのさまざまな意思決定を支援するコンサルティングサービス。購買データ、気象データ、SNS データなど多様なデータを用いて予測・最適化モデルを作成し、従来の方法では捉えられなかったきめ細かな需要や施策の最適パターンを発掘。

広告販促やサプライチェーンマネジメント(SCM)などの幅広いマーケティングの精度向上を通じて、新たな機会獲得を支援する。また需要と大きく関係する影響因子やその背景にある顧客インサイトを読み解き、新たに創出可能な顧客体験価値までを視野に入れたマーケティングの機会を探求する。

これら2つの予測モデルを組み合わせることで、達成率を確認しながら最適なCM素材を指定し、広告運用のPDCAを加速させることができる。

   
「ミチシロウ」活用領域と提供できる価値

テレビ広告の投資対効果を最大化する「RICH FLOW(正式版)」

企業やブランドごとに異なるさまざまなKPIの達成に対応するため、AIを活用し、多様な指標に合わせてテレビ広告枠を柔軟かつ自動的に運用するシステム。2020年に開発したテレビ広告枠の組み換えシステム「RICH FLOW(β版)」の進化形。

新しく①「広告主間のテレビ広告枠の組み換え」と「広告主内の広告素材のアロケーション(割り付け)」を連携させる機能、②テレビの実視聴データを用いたオンライン・オフラインの統合マーケティング基盤と連携して顧客企業のマーケティングKPIに基づくテレビ広告枠運用を可能にする機能、③複数のKPIに合わせてテレビ広告枠を高精度に運用する機能が追加された。

   
「RICH FLOW(正式版)」概念図

テレビ広告運用のPDCAを加速する「SHAREST」

AIを活用したテレビ視聴率予測システムで、従来の「1週間先」の視聴率を高精度で予測する「SHAREST_RT」に加え、新たに「SHAREST_LT」を開発。これは過去視聴率データの分析に「再帰型ニューラルネットワーク」という手法を導入し、ある層の出力を別の層の入力として利用する再帰的構造で解析を行うもの。時系列データに表れるパターン認識に強みを発揮するため、「120日先」という長期(Longterm)視聴率についても高精度の予測が可能になった。

   
「SHAREST_LT」と「SHAREST_RT」を活用した視聴率予測
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