AIを活用し、安心できる街に

2023年9月27日 11:00 Vol.85
   
村上 建治郎
株式会社Spectee 代表取締役CEO
Kenjiro Murakami
1974年、東京都生まれ。米国・ネバダ大学理学部物理学科卒業、早稲田大学大学院商学研究科修了(MBA)。ソニー子会社にてデジタルコンテンツの事業開発を担当。その後、米国のバイオテック企業や、IT企業シスコシステムズに勤務。東日本大震災の発生直後から災害ボランティアを続ける中、被災地の情報をリアルタイムに伝える情報解析サービスを目指して、11年にスペクティの前身となるユークリッドラボ(株)を創業。

世間に溢れる情報量の増加が、人々の利便性の向上に一概につながるわけではない。特に生死を分ける非常時などには、混乱を起こさないために精度の高い情報が求められる。近年、日本でも深刻な自然災害が続いているが、「正しく情報を共有し、防災に役立てる」ために、AI技術はどう活用できるのだろうか。AIによる防災革命を実現するベンチャー企業に、「AIを活用した安心できる地域づくり」を中心に話をうかがう。
text: Masashi Kubota photograph: Masahiro Heguri

震災ボランティアをきっかけに創業

—村上さんはかつて、阪神・淡路大震災で被災されたとうかがいました。

村上 当時、私は学生で、神戸市灘区にいたのですが、住んでいたアパートが地震で倒壊してしまったのです。なんとかアパートから抜け出せたら、向かいの一軒家がつぶれ、ご主人が瓦礫で身動きできなくなっていました。そこで近くにいた人たちと協同で、素手で瓦礫を取り除き、引っ張り出しました。その後も東京の実家には戻らず、避難所で生活しながら、ボランティア活動をしていました。

—東日本大震災でもボランティアとして、震災直後に被災地を訪れたとか。

村上 阪神・淡路大震災で、被災者の救助、避難所の運営物資の取り分けなど、各所で人手が不足していたため、今回も「人手が必要なはずだ」と考え、仲間と車で現地に向かいました。

ところが現地に着いてみると、報道と実際の状況の間にギャップを感じました。到着前に見た宮城県石巻市からのテレビ中継では、ボランティアセンターの前に人が列をなして並んでおり、「全国からこんなに大勢のボランティアが来ています」と言っていました。ところが石巻のすぐ隣にある東松島市に行ってみると、ボランティアセンターで受付をしている人は1人か2人。「誰も来てくれない」と嘆いていました。

—なぜそういった行き違いが起きるのでしょうか。

村上 被災地の中でもテレビ中継があった場所には、人が集まってくるんです。阪神・淡路大震災の時、私がボランティアをしていたのは、避難所となっていた神戸市東灘区の小学校でしたが、ここはテレビ中継もあったので、置く場所がないほど大量の支援物資が届いていました。ところがそこから少し歩いた先にある、やはり避難所となっていた小学校には物資が全然ない。私たちボランティアが運んでいました。

同じ被災地といっても地域ごとに置かれた状況は違います。でも全国ネットのマスメディアでは、そういう現地の細かな状況を伝えることは難しいのです。

東北で「被災地の置かれた状況を可視化しなければ」と考えたことが、今の事業を始めたきっかけです。東日本大震災のあった年の11月、勤務していたIT企業を退社し、現在のスペクティの前身となる会社を設立しました。

—独立当初は、どういった活動をされたのですか。

村上 当時はちょうどTwitte(r 現X)が広がり始めた頃で、それが一番、現地で何が起き、何が必要なのかをリアルタイムに伝えている印象がありました。そこで「SNSを使って地域の情報を共有しよう」と考えたのです。新会社で真っ先に取り組んだのは、地域の人々がSNSに情報をアップして共有する、B2Cのスマホアプリをつくること。皆さんが発信した情報を地域ごとに表示していくコミュニティSNSでした。

 
 
 
 

紆余曲折を経てB2Bビジネスへ

—著書の『AI防災革命』では、「最初のサービスは、ビジネスとして理解されるのが難しかった」と書かれています。

村上 このアプリは利用者が2万人ほどになったものの、なかなかマネタイズできるまでに至りませんでした。

もっと便利に使えるようにするにはどうするかと試行錯誤をする中で、東日本大震災での経験から、「投稿数の多いTwitterの情報をうまく整理できたら、より多くの人の役に立つサービスができるのでは」と着想。「Twitterの情報を整理・分類して、地域の人が必要な情報を閲覧できるサービスにしていこう」と方向転換を図りました。

とはいえ、日々大量にアップされるテキストや写真、動画の情報を内容に応じて振り分ける作業を、人間が行うのは無理がある。そこでその頃、話題になり始めていたAIを使えないかと考えました。いろいろ調べた中で、オープンソースの機械学習のソフトウェアなどを活用して、試行錯誤しながらアプリを開発しました。

このアプリが今の社名にもなっている「Spectee(スペクティ)」です。「Twitterで発信された投稿を地域ごとに分類して閲覧する」という機能に特化し、AIによって大量の投稿をスピーディに分類処理できるようになっています。

—AIが、防災テックを大きく変えることになったわけですね。

村上 実は初期のSpecteeは、最初に開発したものと同じB2Cのスマホアプリです。防災に特化していたわけではなく、防災情報以外にも、例えばイベントやスポーツ観戦のときに、その場にいるファン同士で盛り上がったりできるサービスでした。

スポーツの試合や全国のお祭りなどで活用され、手応えはあったのですが、イベントが終わると途端に盛り上がりが収束。なかなか継続的に使ってもらえるようにはなりません。事業をどうマネタイズすればいいのか悩んでいた頃、ある展示会のブースに新聞記者の方が来て、「おたくのアプリ、使ってるよ。取材のネタ探しに重宝してる」と教えてくれました。

このアプリは2014年に正式リリースしたのですが、そのときから、報道関係の人たちが使い始めていたのです。それで気がつきました。世の中では日々、膨大な投稿データが生み出されていますが、その投稿を分類・集約するにはかなりの手間を要します。報道機関もSNSを検索すれば事件や事故の情報をいち早く得られますが、忙しい記者が日々SNSを検索して情報を集めるのは簡単ではない。自分たちの代わりに事故や災害の情報を検索して集約するサービスがあれば、「ぜひ利用したい」と思うのではないか。

そう考え、開発したアプリを報道機関の方が使いやすいように改良することにしました。個人向けから、B2B事業に方向転換したのです。

—それが会社の転機にもなったのでしょうか。

村上 ええ。企業が会社の中で使うなら、スマホよりパソコンのほうが向いている、まずは報道機関の人たちが使いやすいようPC用のアプリを開発。投稿についてもただ分類するだけでなく、発信場所を特定したり、信憑性の判断などもAIで自動処理できるようにしました。

そうやってスマホのアプリからパソコンで使える新しい「Spectee」を携え、全国の報道機関をヒアリングして回りました。

   
村上さんの著書『AI防災革命 災害列島・日本から生まれたAIベンチャーの軌跡』(幻冬舎/2021年)。被災の経験から起業、そして「Spectee Pro」の実用化に至るまでの軌跡が綴られている
 
 
 
 

防災目的の利用が本格化

—その直後から、Specteeは防災利用がメインになっていったのですか。

村上 いえ。PC版のSpecteeは2015年にリリースし、まず報道機関で利用されるようになりました。自治体の防災部門で使われるようになったのは2018年頃からです。

自治体ではこれまで、住民や消防からの情報によって災害の起きた地域に職員を送り、現場の状況を確認し、救助活動や避難指示などを行ってきました。しかし対応が遅くなりがちなので、初動を早める有効な手段として一般の人たちが災害現場から発信するSNSの情報が注目されるようになったのです。2019年には、神戸市がSpecteeを導入。自治体のほかにも、電力会社、ガス会社、鉄道会社といったインフラ企業が利用し始めました。

報道機関の利用は「ニュースのネタ探し」や「取材先の状況を把握する」という色合いが強く、SNSの映像や画像を報道に活用したり、SNSの情報を頼りに現地に事件の取材に向かったりといった活用です。一方、自治体では防災担当の部署が災害時の住民の避難や救助のために使っていました。そのため視点がまったく違います。

報道機関からは「真偽の判断が完璧でなくても、とにかく早く知りたい。後は自分たちで判断するから」と速報性を要求されましたが、自治体は「信頼度のある情報を提供してほしい」と、より正確性が重視される。また正確性以外にも、被害状況を把握するためにさまざまな情報と併せて見える化してほしいなど、ユーザーによって望む方向性に違いがあったのです。

これがその後の「Spectee Pro(スペクティ プロ)」の開発につながりました。

—確かに「災害情報は正確さ・的確さこそ重要」と感じました。

村上 SNS上の投稿には、間違った情報やデマなども含まれています。災害が発生したときには特にデマ投稿や誤情報が出回るため、正しい情報をしっかり選別して伝えないと、不要な混乱を招くことになります。また、災害対応の現場は情報過多になりやすく、不要な情報が増えてしまうと本当に必要な情報を見逃してしまいます。

そういった細かなニーズに対応するために、私たちは投稿の真偽判定や情報の整理に、AIだけでなく人間のチームを加えることにしました。AIがチェックや選別を行った上で、最終的には人のチームがその情報を再度確認して真偽や重要性などいろいろな観点で精査します。チームは24時間365日、常に情報確認を行う体制が整っています。

—デマ投稿には、どういったものがありますか。

村上 例えば2016年の熊本地震の際には「ライオンが逃げた」という写真付きの投稿がありました。しかし実際、それは外国で起きたライオンの脱走事件の写真を貼り付けて投稿したものでした。「猛獣が動物園から脱走した」といった類いのデマは、地震の際には頻繁に投稿されます。そうした際に使われる写真は、投稿者本人が撮影をしたものではなく、ネット上にあるものを拾ってきたケースがほとんどなので、AIを使って類似の写真を検索照合し、デマ投稿を排除するようにしています。

また2018年の北海道胆振東部地震では、「自衛隊の情報によると、6時間後に札幌市内の水道が断水する」という情報がSNSを通じて拡散しました。そんな事実はなかったのですが、こうしたデマ投稿がリツイートされてどんどん広がり、それを見た人たちがスーパーやコンビニに水を買いに走って、市内の小売店から水が一斉になくなってしまうという事態に至りました。Spectee Proでは、こうしたデマ投稿や誤情報を的確に判断し、排除する仕組みが整っています。

 
 
 
 

防災機能を拡充したSpectee Proをリリース

—Specteeは2020年にSpectee Proに進化したわけですが、どういった点が変わったのでしょうか。

村上 Specteeでは報道関係者を念頭に、「SNSの災害情報をなるべく早く伝える」ことを重視してユーザーインターフェースを設計しており、地図表示の機能もありませんでした。一方、新たなユーザーとなった自治体は「どこで災害が発生し、どの程度の規模なのか、どの人たちを避難させたり、救助すべきなのかを知りたい」と望んでいます。このためSpectee Proでは、地図を表示のベースとし、その上に災害のデータをプロットしていくスタイルにしました。またSNS以外の情報も災害対応には必要になりますので、そういった複数の情報を重ねて災害状況を地図上で「見える化」。発生場所の特定も重要で、Spectee Proでは「何丁目何番地」まで正確に表示できるようになっています。

—災害対応で使えるように機能強化したということですね。

村上 そうです。自治体からはまた、「SNS情報を気象など、ほかの災害情報と組み合わせて使いたい」という要望も強くありました。

災害時の防災を行う上で、SNSの情報は一つのソースにすぎません。そこでSpectee Proでは、複数の情報から総合的に判断できるよう、アプリ内で気象情報、交通情報、河川カメラ情報などを表示。地図とSNS情報を同時に、それ以外のデータも一覧できるようにしました。もちろん報道機関も大切なお客様ですから、画面全体を地図にすることができる一方で、全部をSNSの投稿一覧とすることも、あるいは一部を地図として、その横にSNS情報を映し出すこともできるようにしています。

—SNS、地図、気象以外にどういったデータが見られますか。

村上 例えば地図上に、ハザードマップが表示されます。ハザードマップにも洪水や高潮など種類がいろいろあります。

Spectee Proのリリース当時は、まだ各都道府県が作成・公開しているハザードマップの仕様が統一されていませんでした。危険度を表す色一つとっても、自治体ごとに異なっていました(現在では改善されてきています)。

そこで当時私たちは各自治体や国土交通省の許可を得て、ハザードマップのデータを頂き、同じ色、同じ仕様に作り直した上で、Spectee Proの地図上に表示することにしたのです。データの仕様を統一して、一つの画面で複数の情報を確認できるようにすれば、利用者にとって非常に使いやすくなる。おかげさまで今では自治体の方々からも、「Spectee Proのハザードマップが一番見やすい」と言っていただけるようになりました。

Spectee Proでは、ほかにも河川や道路のカメラのリアルタイム映像、人工衛星の画像データ、自動車の走行データなどを収集・解析し、地図と連動して表示できるようにしています。

カメラデータについては、自治体や国交省など官公庁のほか、民間企業が所有するカメラなどからも映像を取得しています。車の走行データについては、大手自動車メーカーに協力をお願いしました。これは物流関連の企業からの「自動車の走行データを使って渋滞情報を出せないか」という要望を受けて実現した機能です。走行中の自動車の速度と位置から道路の渋滞状況を推定し、地図に表示しています。災害が発生した際、そのエリアにある道路で自動車がまったく走っていないことがデータからわかれば、土砂崩れや倒木などの影響で道路が通行不能になっている可能性が高いというわけです。

そのほか携帯電話の通信キャリアと協力して、スマートフォンの位置情報から、大都市で災害が起きた際、帰宅困難者がどこに集まっているか等を可視化することもできます。また家電メーカーと協力して、スマート家電の稼働状況から、災害地域でどの家に住民が取り残されているかを表示する機能なども備えています。さまざまな企業がさまざまなデータを持っていますので、それらの企業と連携することで、災害時に必要な情報を提供することが可能になってきます。

   
災害等の危機情報をAIを活用してリアルタイムで収集・解析、そして可視化するSpectee Pro。こちらはSNSの投稿一覧画面。災害対応の担当者にSNSの情報をいち早く伝えるため、災害場所とキーワード、その情報が第何報であるか、が瞬時にわかる
   
SNS投稿や気象庁・自治体からの情報、全国の道路・河川カメラの画像など、多様なデータを収集。複数の災害情報を地図上で同時に表示するSpectee Proの地図モード。被害状況を瞬時に把握できるため、リスク低減のための的確な初動対応に役立つ
 
 
 
 

さまざまな災害対応に活躍

—自治体の防災への活用について、具体的な事例をお聞かせください。

村上 最近だと今年7月、秋田県で記録的な大雨による水害が発生しましたが、Spectee Proはそうした場合、「リアルタイム浸水推定図」を発表しています。

これまで自治体による水害状況の把握は、主に市役所職員による現地での目視確認によって行われてきました。しかし大規模水害の場合、職員の人手不足や安全確保のため、網羅的な状況把握が難しいケースが多い。

リアルタイム浸水推定図では、SNSの投稿写真などから、その地点における水の深さを自動で推定し、それに国土地理院の標高や地形のオープンデータや降水量などの気象データを組み合わせ、周辺の浸水範囲や水位を推定し、地図上に表示します。SNSに画像情報が上がると、その後10分以内に表示されるので、まさにリアルタイムで浸水状況がわかるわけです。

—AIを活用することで、水害以外ではどのような成果が得られますか。

村上 例えば積雪などにも活用できます。福井県では2018年に、大雪の影響により国道上で1,500台もの車が動けなくなってしまうなど、こうした雪による災害は北陸や日本海側で毎年発生しています。従来は市の職員が現場に行き、目視で状況を確認した上で除雪車を出すといった対応をしていました。しかし、それでは時間がかかるため、福井県では先の大雪以来、道路のあちこちにカメラを設置して積雪を監視するようになりました。とはいえ150台以上あるカメラの全てを24時間体制で人間がチェックするのは大変です。現在はスペクティが県と協力し、カメラからの映像をAIで自動的に監視し、積雪の状況を判定する取り組みをしています。

また、日本気象協会との協力で、道路上に設置されたカメラから得られた画像をAIで解析して、吹雪の視程を判定する技術も開発しました。最新の検証では、人間による判定とAIによる判定との合致率が約90%と、非常に高い精度の判定に成功しています。

—政府や自治体の間では、スペクティは完全に認知されているのですね。

村上 Spectee Proは2023年現在、100以上の地方自治体で利用され、官公庁も含めると公共機関で200を超えて採用。また、民間企業における採用も幅広い業界で伸びています。今年6月に発表された『令和5年版 国土交通白書』では、スペクティのサービスの大分県庁での活用事例が紹介されています。

Spectee Proのリリース前、2018年の年初の契約数は100ほどでしたが、その後、Spectee Proで防災に役立つ機能を充実させたことで、一般企業の危機管理にも広く利用されるようになりました。2022年の年初に契約数は500を超え、その後さらに増えて2023年4月時点で900以上となっています。

—一般企業がSpectee Proの採用を増やしている背景には
何があるのでしょうか。

村上 需要が非常に大きいのはサプライチェーンのリスク管理です。例えば自動車会社では、自動車1台をつくるには数百万点の部品が必要とされ、原材料や部品などのサプライチェーンは日本だけでなく世界中に広がっています。災害でそのどこか一つの会社が被災しても、部品の供給が滞り、生産が止まってしまうおそれがある。

また、こうした事情は小売業も同様で、全国にチェーン展開する企業は店舗数が多く、系列店舗が被災することも少なくありません。店舗の被害だけではなく、配送センターと店舗の間の道路が災害によって塞がってしまえば、物流が止まって店舗の営業が難しくなる。スーパーやコンビニは地域のインフラでもあり、食品や日用品の供給ができなくなると住民の生活に支障をきたします。

このように製造業や小売企業では、災害時に発生する事態に備え、緊急時の体制づくりに取り組む企業が増えている。

Spectee Proはその最前線で使われるツールとなっています。

近年、気候変動にともない自然災害は増加傾向なので、今後、ますます活用の場は広がるでしょう。

   

 
 
 
 

災害大国日本の技術を世界へ

—今まで挙げていただいた以外にも、新たな防災技術の開発が進んでいますか。

村上 現在Spectee Proの災害情報はAIアナウンサー「荒木ゆい」が読み上げていますが、これは当社が開発したバーチャル・アナウンサーです。ニュースや緊急情報を自然に読み上げるもので、既に多くのテレビやラジオ、商業施設の館内放送などに採用されています。今年4月には神戸市の防災行政無線の音声案内システムにも導入されました。

これまで防災行政無線は、人間の担当者が市役所内の操作卓の前でアナウンスする必要性がありました。東日本大震災の際には南三陸町の職員が、防災無線で避難を呼びかけ続けるうち、自らも津波に襲われて亡くなられるという悲劇も起きました。AIアナウンサーを導入すれば市役所でなくとも、インターネット環境がある場所ならどこからでも放送を流せる。行政無線に慣れていない職員でも簡単な操作で文章の作成や放送設定を行えるので、被災地域住民へのスムーズな情報伝達が可能となります。

   

   

— こうした防災テックは、今後どういった形で活用されていくと思われますか。

村上 Spectee Proには災害の発生をリアルタイムで可視化するだけでなく、それらの情報から被害状況を予測推定するなどの機能があります。今後の防災ではこうした、AIによる災害時における予測技術が重要になってくるでしょう。

それに関して追い風となっているのが、今年5月31日の気象業務法の改正です。これまで日本では、気象に関連した予報・予測業務は気象庁か気象会社、気象予報士に限られていました。しかし今は大量のデータをもとにAIを活用した多彩な予測技術が出てきています。気象や自然災害に関連した予測についても「AIの予測精度をどう向上させるか」が重要であり、そういった背景からAIなどの技術を持った会社による予測が一部認められるようになりました。

AIの予測精度を上げるには、大前提として大量のデータが必要です。全国の河川の水位データとその前後の降水量のデータを集め、それをAIに学習させれば、「このくらいの量の雨が続くと、何時間後にどの河川で氾濫が発生するか」といった予測が可能になる。スペクティではこうした予測推定など、新しい防災技術の開発を進めていきます。

— 防災におけるテクノロジーの利用に関して、日本の位置づけはどうですか。

村上 AIの技術やビジネスにおけるAIの活用については、やはりアメリカが世界のトップといっていいでしょう。しかし防災という領域では災害大国の日本は知見も多く、災害時におけるSNS情報等の活用も他の国と比べて進んでいます。スペクティとしても日本の災害で培ってきた技術を今後、世界の舞台で役立てていきたいと考えます。

2022年に、JICAの海外における「中小企業・SDGsビジネス支援事業」プログラムに採択され、今はフィリピンでフィージビリティスタディを行い、フィリピン当局と事業化に向けた議論やニーズの確認をしているところです。フィリピンは東南アジアの中でも経済成長の著しい国の一つですが、日本と同じく、地震や水害などの自然災害が多い国でもある。さらに英語が通じ、若年層が多く国民一人当たりのSNS使用時間も世界トップレベルに長い。そういった点から、スペクティのサービスとの親和性も高いと見ています。来年にもSpectee Proと同等のサービスを使えるように、ローカライズなどを進めていく予定です。

   
必要な情報のみを正確に発信するため、AIによる解析とともに、人によるファクトチェックは欠かせない。専門チームが24時間体制で対応しているという

株式会社Spectee

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