「地域循環共生圏」に向けた取り組み ―北九州市の事例から

2024年3月26日 12:00 Vol.87
   
松本 亨
北九州市立大学環境技術研究所教授
Toru Matsumoto
株式会社野村総合研究所、九州大学を経て、2001年より北九州市立大学に勤務。2018年より、環境技術研究所都市エネルギーマネジメント研究センター長。20年より株式会社KDDI総合研究所招聘研究員にも従事。環境省循環利用量調査改善検討会座長、環境省脱炭素先行地域評価委員会専門委員、環境省廃棄物処理施設等の管理に係るデジタル技術の実現可能性に関する検討会座長、高度資源循環・デジタル化推進協議会運営委員、北九州循環経済ビジョン推進協議会代表等を務める。専門は資源循環、環境システム工学。

環境産業の集積と課題

●北九州エコタウン事業の実績

北九州エコタウン事業は、環境産業の発展を通じた地域振興と、リサイクルの推進を通じた循環型社会の構築を目的に1997年にスタートした。産学官の連携や、地元企業・大学の技術力、最終処分場の存在、多分野にまたがる豊富な人材等の地域資源や優位性が最大限に活かされてきた。また、市民への情報公開や、行政窓口の一本化(ワンストップサービス)による企業支援、官民の明確な役割分担等により、エコタウン事業に係るハード、ソフト面の資産が整備された。

2010年以降は、それまでのリサイクル中心の事業展開から、再生可能エネルギー関連事業や高付加価値型リサイクル事業を志向するようになった。その中で小型家電、電子基板、携帯電話、リチウムイオン電池(LIB)等、高度技術を必要とする新たなリサイクル事業の立地が増えている。2021年3月末時点の事業数は26となり、その集積度は国内では群を抜いている。

●静脈産業から脱却の試み

エコタウン事業はリサイクルを中心として始動したが、静脈産業だけではないさまざまな取り組みも行われている。まず、プリンターカートリッジやパソコンのリユース事業を誘致(2003年)。そして、環境負荷の低い製品やサービスを提供する市内中小企業を応援する「エコプレミアム産業創造事業」を創設した(2004年)。現在までに200件以上がエコプレミアム製品・サービスとして認定され、展示会への共同出展等の支援が行われている。また、地元民間企業との研究会において「エコ・コンビナート構想」についても議論された。これは、市内の多種多様な重厚長大型素材産業が個社および企業の資本関係の枠組みを超え、他社、さらに都市施設とも連携することにより都市全体として省資源・省エネルギーのまちづくりを進めようとするものである。具体的には、工場や都市施設(清掃工場、下水処理場等)から発生する廃棄物・副産物を事業所間で融通し資源化する可能性や、排熱等の未利用エネルギーを他産業や隣接する生活圏で利用する可能性が検討された。

●変化の必要性

企業単体でのイノベーションには限界があるため、企業間連携(動脈間連携、静脈間連携、動静脈連携、地域連携等)を進めることが必要である。連携の例としては、資源・エネルギー、技術、設備、スペース、人材等の相互連携や、動脈と静脈を連携させた物流最適化による積載率改善等が挙げられる。産業間連携により、資源循環の最適化が図られる可能性がある。さらに、PaaS(Product as a Service:モノのサービス化)の実現にも、業種をまたいだ連携が不可欠である。

また、リサイクル産業にとって、高品質で低炭素という付加価値が付与されたり、DXによるトレーサビリティを確保した再生材を動脈側に供給したりすることが、今後の鍵になると考えられる。動脈産業の中には、サプライチェーンに対して一定割合の再生材の活用を要求している企業もある。これはサプライチェーンの上流側に対する要請であるが、将来的にはサプライチェーンの下流側であるリサイクル事業者に対しても、同様な要請、つまり脱炭素型リサイクルが求められる可能性がある。その際、再生可能エネルギーが充実している都市にリサイクル産業が立地することがアドバンテージになる。

さらに自治体単独に閉じた議論ではなく、より広域的な連携を検討する必要性も議論されている。北部九州は多岐にわたる産業群を擁し、この地域で多様な循環圏が成り立ち得るポテンシャルがある。市町村や県の境界に制約を受けない、より広域的な産業間連携によって、廃棄物等の効率的輸送と大規模な選別・処理を行うことも有効であると考えられる。

 
 
 
 

循環経済のためのビジョンの共有

●循環経済ビジョン

北九州環境ビジネス推進会(KICS)が中心となり、2019年8月~2022年2月に北九州循環経済研究会が開催され、北九州市の環境産業のあり方について全14回にわたり議論された。

そこでは「明日の北九州の環境産業ビジョン」を描くことを目標に、北九州市の環境産業政策、北九州エコタウン事業に係るこれまでの資産の棚卸しと、今後の展開可能性について検討が重ねられた。これまでの資産をベースに、世界的な脱炭素・循環経済へのシフトが地域の産業にとって好機になると捉え、「北九州循環経済ビジョン」が取りまとめられた(1)。

そしてビジョンの実行フェーズとして2022年6月に設立されたのが、北九州循環経済ビジョン推進協議会(以下、協議会)である。北九州市が2022年2月に策定した「北九州市グリーン成長戦略」におけるイノベーション支援のためのプラットフォームとしても、一体的に運営されることとなった。

ビジョン図[図表1]は、エレン・マッカーサー財団のバタフライダイヤグラムをアレンジして描かれたものだ。蝶の右羽は社会循環(技術によるサイクル)を、左羽は自然循環(バイオマスのサイクル)を表し、それぞれの上羽を市民資本(下羽)が支える構図である。さらに、これらの循環に必要なエネルギーは地産地消、特に再生可能エネルギーと蓄電システムでまかなわれ、デジタル技術の活用による情報プラットフォームが循環の最適化を実現することを意図している。北九州エコタウン事業による資産は、蝶の下部に位置する葉の部分で描かれている。

社会循環は、①リセール、メンテナンス、リペア、リファービッシュ、リビルド、リマニュファクチャリング等の製品の長寿命化を実現するための産業を通じた製品の機能管理、②使用済み製品の効率的な回収の仕組みの構築、③機械選別、ケミカルリサイクルなどによるマテリアルの分離、といった3つの要素から成る循環ループが形成され、循環ループから漏れるものは、エネルギーとして利用する。これらのマテリアルの循環を支えるのは、下羽で表される製品・サービスの利用者である市民。その積極的な参画をベースにした、使用済み製品の回収、シェアリング、サブスクリプション、リペアカフェといった新たなビジネスモデルの構築が望まれる。

一方、自然循環は、バイオマス資源のリサイクル(食品廃棄物等のコンポスト化、バイオマス燃料化等)を通して、農林水産業でコンポストや再エネを利活用し、生産された農産物を加工工場で商品化することで、地産地消型のリサイクルループの形成を目指す。こちらも積極的な市民参画により、フードバンク、こども食堂、家庭用コンポスト、アップサイクル食品等の取り組みが促進されることが期待されている。

左右の循環を支えるエネルギーは、蓄電システム先進都市を目指した「再エネ100%北九州モデル」を基軸に、再生可能エネルギーと蓄電システムでまかなうことで、脱炭素型の循環経済システムを構築。これが蝶の血液で表されている。一方、IoT・AI等のデジタル技術の活用による情報プラットフォームが、循環システムの高度化を支える。

蝶の中心に位置するのが、幅広い企業間連携(動脈間連携、静脈間連携、動静脈連携、地域連携等)を主導するコーディネート機能であり、ビジョンの実現において重要な役割を果たす。さらに、ESG投融資といったサステナブルファイナンスの潮流を踏まえ、ESG地域金融が基軸となり、資金の呼び込みや域内での資金循環を促進する。これらの取り組みが北九州のSDGsの達成に貢献するとともに、将来的にはローカルSDGsとして自立分散、相互連携、循環・共生をうたう地域循環共生圏の実現に貢献することがビジョンとなっている。

   

●社会循環

この分野では、エコタウンにおける企業間連携の高度化による再生品の高付加価値化への取り組み、動静脈間の連携による水平リサイクル・アップサイクルのさらなる促進、技術力を活かして新たな循環資源を対象にした事業展開等の動きがある。

響灘地区には多様な静脈産業が立地しており、エコタウン事業を通してゼロエミッション化が進められてきた。静脈産業の連携のいっそうの高度化に加え、再生品の高付加価値化が図られている。例えば、廃プラスチックと製鉄業の地域循環として、自動車のシュレッダーダストに含まれる廃プラスチックを還元剤として活用した、ミルスケール(酸化鉄)のケミカルリサイクル事業の研究開発が進められている。また、県内の建築現場や製材工場から排出される廃木材を粉体化し、そこに市内で発生した産業廃棄物や家庭ごみ(容リプラ)である廃プラスチックを混合して、木材・プラスチック再生複合材(Wood-Plastic Recycled Composite:WPRC)が製造されており、今後トレーサビリティの確保によりWPRCの多回リサイクルの構築が検討されている。

家電、OA機器、自動車等では素材の水平リサイクルが一部で実施されている。例えば、廃家電製品から高純度のPP樹脂を回収し、家電メーカーに供給することで、冷蔵庫や洗濯機の一部に再利用され、家電to家電を実現している。これまでは再生材利用に関する情報が消費者に対して積極的に発信されてこなかったが、再生材利用の環境価値の発信が今後は重要となると考えられる。再生材の安定的な供給体制の確保も課題である。

ペットボトルについては、世界に先駆けてポリマーリサイクルを商用化した工場が立地しており、ファッション業界、商社等を巻き込み、回収─リサイクル─製品化の仕組みを創出する取り組みが行われている。アパレル業界やスポーツ用品のハイブランドは、再生材利用を前面に出したブランド戦略を進め、脱炭素化や再生材利用が急速に価値を持ち始めている。

トレーサビリティを担保することの必要性が高まり、静脈側が保有している情報の動脈側への連携を戦略的に行うことが求められるようになった。

また、既存立地企業の技術力を活かした新たな資源循環産業の創出の動きもある。具体的には、使用済み炭素繊維強化プラスチック(CFRP)から炭素繊維を分離するリサイクルや、廃太陽光パネルのリユース・リサイクルの事業化が進められている。廃太陽光パネルのリサイクルについては、高度リサイクルプラントが既に事業化された。シリコンやガラス、アルミニウムや銅配線で構成される太陽光パネルを熱処理分解後に資源を選別し、ガラスはほぼ100%の純度で回収しグラスウールや板ガラス等に再生。銀・銅は精錬業者で再資源化できる品位で回収される。さらに、廃太陽光パネルのリユースの事業展開についても検討が進められている。

ハイブリッド車を含む電動車に搭載されている使用済みLIBを対象に、電池の正極材に含まれるレアメタル(コバルト、ニッケル等)を回収するための研究開発を実施。リサイクルの事業性確立に向けた検討が継続的に進められている。

   

   
福岡県では廃太陽光パネルのスマート回収のための仕組みを構築。その回収実証の様子
   
北九州市でのリユースパネルによる発電実証
   
電動車に搭載された使用済みリチウムイオン電池を取り出すために、傾転装置で車を反転させる
   
電池ユニットからレアメタルを回収するための解体ライン

●自然循環

食品ロス廃棄物対策として、食品残渣堆肥を活用した有機農業の拡大を核に、地域が抱えるさまざまな課題、すなわち農業従事者の確保、耕作放棄地の問題、障がい者・高齢者の就労機会の創出、社員のメンタルヘルス管理、農業分野の脱炭素化等を同時に解決する環境保全型農業推進体(SDGsソーシャルファーム)の構築が目指されている[図表2]。

市内等で発生した食品残渣をもとに堆肥を製造し、ファームへ供給。ファームは社会福祉法人が運営・管理し、企業の特例子会社で雇用された障がい者が農作業に従事し、また、ICTによる需要予測に基づく最適出荷調整システムにより、付加価値の高い農作物を生産する。また、ファームに従事する障がい者や勤務するスタッフのWell-being(幸福度)を測定することで、Well-beingを評価軸に据えた事業運営を行う。行政(北九州市)とは企業誘致、農業分野での人材育成支援、脱炭素化の実現支援、耕作放棄地情報の提供等で連携する。

これらにより、福祉、農業、環境、企業、行政、ICTの6つのコンテンツ(福祉×農業×環境×企業×行政×ICTエコシステム)を組み合わせ、相乗効果を生み出すシステム構築が検討されている。

また竹の利活用も重要な課題である。北九州市は全国の自治体の中でも有数の竹林面積(1,900ha)を有し、森林総面積の10%を超えている。また、人工林もしくは天然林から竹林に変異した面積は799haであり、竹林の侵入被害が顕在化している。さらに、災害リスクが高い危険区域の割合は6.7%となり、北九州市はこれらの問題を解決するため、竹林改善事業を6年間実施して年間5haの竹林を広葉樹へと転換。切り出された年間200トンの竹を有効利用してきたが、放置竹林面積を減少させるまでには至っていない。この原因として、竹材の利用先が少ないほか、竹林整備者の高齢化、竹林整備の難しさ等が挙げられる。

この問題の解決策として、竹のさらなる利活用事業が検討されている。例えば、WPRCの原料の一部に廃木材の代替品として竹材を利用することである。現在は、粉砕した廃木材と廃プラスチックを混合・成型しWPRCを生産するが、廃木材の代わりに竹材を使った複合材の実験が実施されている。これまでの実証では、施工後5年を経過しても施工直後の状態を維持しているとの結果が得られている。

   

   
青果物の残渣を堆肥化施設へ投入
   
微生物による1次発酵後、北九州エコタウンリサイクルセンターでさらに2次・3次発酵させて堆肥を製造、農家に供給する

●エネルギーの脱炭素化

エネルギーの地産地消では、北九州市の施策である「再エネ100%北九州モデル」が中核である(2)。市内に立地する民間企業が、安定的かつ可能な限り安価に再エネ100%電力を導入することで、競争力強化につなげるとともに、再エネを必要とする企業を市外から誘致し、産業を活性化することを目的とした事業である。市内および北九州都市圏域の公共施設に「再エネ100%北九州モデル」を普及させるとともに、市内の民間企業にも順次対象を拡大することを想定している。施策は3つのステップで構成される。

ステップ1では、再エネと非化石証書を組み合わせて再エネ100%電力を調達。ステップ2では、第三者所有方式により初期投資をかけずに太陽光パネルと蓄電池を施設に設置し、地域電力会社が管理・運用する。ステップ3では、太陽光パネルと蓄電池に加え、省エネ機器を第三者所有方式で導入する。これらにより、創エネ、蓄エネ、省エネを組み合わせ、電気料金を抑えながら電力の100%再エネ化を実現するモデルである。

産業団地内の企業間で余剰熱を融通利用することで、団地全体のGHG排出量を削減する動き、すなわち産業熱エネルギーシェアリングが近年世界で進んでいる。北九州市でも、発電所や工場での余剰熱を活用した産業熱エネルギーシェアリングの実現に向けた調査が実施され、①熱需要量、供給ポテンシャルのデータ計測と響灘地区の需給ポテンシャル把握、②需給調整事業の事業性の検討、③事業主体(需給調整事業者)の検討等について、課題の解決を図る必要があるとされた。

 
 
 
 

循環性の高いビジネスモデルと情報通信技術

循環経済ビジネスについて、アクセンチュアは5つのモデルを提示している(3)。すなわち、①循環型サプライチェーン、②回収とリサイクル、③製品寿命の延長、④シェアリングプラットフォーム、⑤サービスとしての製品(PaaS)である。

①は、動静脈連携あるいは動脈側主導のクローズドループの形成が有効であると考えられる。動静脈が連携することで動脈側の性能の要求水準が明確になり、動脈側主導のクローズドループにより、静脈側は出荷量、動脈側は受け入れ量が確実に見込めるようになる。環境配慮設計を実現させるための情報フィードバックと、その効果を最大限発揮することにもつながる。

②は、エコタウンの優位性が最も発揮される分野であるが、その強み(資源・情報集積、技術の蓄積)を再認識する必要がある。静脈産業の集積拠点であるエコタウンには、廃棄物や循環資源の量的確保と、多様な製品を扱うことによって得られる情報の集積がある。絶対的な量の確保により、再生資源の安定的供給とともに一定量のリユース品の供給も可能となる。今後、再生資源のさらなる需要が高まることが予想されるが、集積された情報の活用により、再生資源の付加価値の向上と、動脈側に対する交渉力強化を進める戦略が求められる。

③は、リペア、リビルド、リファービッシュ等によって実現される分野である。

①~⑤の実現のためにはいずれも情報通信技術の活用が有効であり、その実現について協議会でも議論されている。その方向性として3点事例を挙げる。

1点目は、情報プラットフォーム(情報PF)の活用である。情報PFには、トレーサビリティ、物質情報の管理、資源・エネルギーの需給マッチング機能が期待される。環境省の検討においても、製品・分野を特定したプラットフォーム、分野・製品横断的なプラットフォーム両方の可能性が言及されており、実証事業への補助も開始された。ブロックチェーン技術による認証で、再生プラスチックのリサイクル率証明を担保する動きもある。事業に参加する企業だけでなく、消費者からも信頼を得ることを目指している。情報PFを活用したPaaS、シェアリングビジネスによる新たなビジネス創出も期待される。

2点目は、情報通信技術による広域の需給マッチングである。これが地域の環境資源によるビジネス発信、有効活用につながった事例もある。例えば、農産物・水産物の産地直送の仕組みや、フードシェアリングサービスである。いずれも、通常では直接つながることの難しい生産者と消費者を、Web上の電子商取引によってマッチングさせることで、地域活性化や食品ロスの削減に貢献している。

3点目は、市民の消費行動に対するインセンティブ付与や効果の見える化を、情報通信技術を活用することで即時的に行うことである。需給状況の変化に応じて料金を変動させるダイナミックプライシングは、資源循環分野でも萌芽がある。携帯アプリを活用した食品ロス削減事業では、賞味期限・消費期限の近い食品の安売りを専用のスマートフォンアプリで周知し、それを購入した消費者にアプリ上でポイントを付与する。このような技術は、市民の行動変容を促す手法として期待されている。

 
 
 
 

多主体協働と市民資本

市民は、循環経済において消費者の立場で商品を選択することで間接的に設計に関わる立場にある。また、消費後の排出者として資源循環の起点となる立場でもある。さらに、市民の集合体でもあるNPOや市民団体が環境問題の解決と地域経済の両立に取り組んでいる事例もあり、ソーシャルビジネスにより循環の輪の担い手となる可能性が検討されている。

例えば、国産綿花で作られた服の購入や、途上国と正当な対価で取引された商品を扱うフェアトレード等、環境や貧困層に配慮した購買行動を積極的に行うエシカル消費は、社会に対して一定の影響を与えている。北九州市内に工場を持つ企業が、衣料品販売店と提携し、使用済みの衣料品を回収しアップサイクルする動きや、法律で回収義務のない使用済み製品について、市民が自ら回収に参加する事例も出てきている。

安定性や継続性を確保するために社会課題の解決をビジネスとして取り組む事例、すなわちソーシャルビジネスも萌芽が見られる。北九州市八幡東区で行われている「紙の循環から始める地域共創プロジェクト(KAMIKURUプロジェクト)」は、産学官民が連携して目指す取り組みである。オンサイト型の乾式オフィス製紙機を用いて、地域で廃棄される使用済み用紙を再生し、さらにさまざまな紙製品としてアップサイクルする。運営に地域の障がい者就労支援団体が参画することで、障がい者の雇用確保やQOL向上も目指している。

市民参画により、廃プラスチックの回収の仕組みを検討するための実証も行われた。日用品メーカーがリサイクル事業者などと連携して、小売店舗や公共施設等に回収ボックスを設置し、使用済みプラスチックボトルやパウチを回収。分別に協力した住民にICTを活用してポイントを付与し、そのポイントが社会支援団体へ寄付できる仕組みである。別の事例では、カフェや外食店等で提供される使い捨てのプラスチックカップや弁当容器を、リターナブル製品に置き換えることを目指し、関係者の受け入れ可能性についての検証が行われた。

循環経済の駆動力の一翼を担う市民資本の萌芽について事例を取り上げたが、市民個々人の環境意識の醸成、地域コミュニティの活性化との相乗効果を目指す動き、雇用の創出につながるソーシャルビジネスまで、さまざまな動きがあることが確認できた。市民のみならず多主体が連携することで、地域の循環経済モデル形成に向けた厚みが増していき、複層的な循環経済の輪が形成されていくことが期待される。

〈参考文献〉
(1) 北九州循環経済研究会:明日の北九州の環境産業ビジョンを描く―北九州循環経済研究会報告書―, 2022,〈 https://www.iges.or.jp/jp/pub/kitakyushu-circular-economy/ja〉
(2) 北九州市:脱炭素先行地域提案概要, 2022,〈https://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000977970.pdf〉
(3) Peter Lacy, Jakob Rutqvist: Waste to Wealth: The Circular Economy Advantage, 2015

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