災害時にも強い、資源の地産・地消

2024年6月27日 12:00 Vol.88
   
沼田 昭二
町おこしエネルギー会長兼社長/ 神戸物産創業者
Shoji Numata
1954年兵庫県生まれ。高校卒業後、三越(当時)に入社。81年に食品スーパー「フレッシュ石守」を創業。2000年に「業務スーパー」ブランドの1号店をオープン。13年には運営会社の神戸物産が、東京証券取引所第一部(当時)に上場する。16年に町おこしエネルギーを設立後、17年に神戸物産の経営を長男の沼田博和氏に引き継ぎ、退社。21年、北海道白糠町に学校法人ジオパワー学園を設立、24年3月から熊本県小国町で地熱発電所1号機の運転を開始。地域活性とクリーンエネルギーを融合させた新しい町づくり事業を進めている。

災害へのレジリエンスを高める点でも期待されているのが、エネルギーと食料の地産・地消である。
ただ、資源の乏しい日本では、あまり普及が進んでいないのが現状だ。しかしここで、再生可能エネルギーと地域活性を組み合わせ、その実現を視野に入れたまちづくりに挑戦するスタートアップが出てきた。
それが「業務スーパー」の生みの親、沼田昭二氏が設立した新会社だ。
沼田氏に町づくりのビジョンや第二の創業に懸けた想いについてうかがう。
text: Fumihiro Tomonaga photograph: Masahiro Heguri

災害に強い町づくりとは

— 沼田さんは、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の地産地消が、災害に強い地域社会の形成につながるとおっしゃいます。早速、その全体像についてお聞かせください。

沼田 日本のエネルギー供給システムの大部分は、石油や天然ガスなど輸入した化石燃料を火力発電所で大規模に発電し、消費地に送るというもの。結果、今もエネルギー資源の約9割を海外に依存しています。

一方、再エネは、その地域でつくった電気を地域内で消費するという意味で、地産地消が基本です。ただ、変動エネルギーが主のため、エネルギーの密度が低い。つまり太陽光にしろ風力にしろ昼夜や天候に左右される分、バックアップ電源が必要となります。当社は、再エネで発電した電気を自営の送配電線を使ってキュービクル(高圧電気を施設内で使える電圧に変換する設備)に送り、EV充電ステーションの蓄電池に貯めたり、水分解して水素を生成して水素ステーションに貯蔵したりというモデルを開発し、特許を取得しました。

さらに自治体と連携して、学校や病院といった主要な施設と発電所を自営線でつないで平時に電力を融通する。それとともに従来の大手電力会社からの系統線も併用して2系統にしておけば、万一、災害時にブラックアウトしても、どちらかが非常用電源になり得ます。そうすると、それらの施設が避難所としても機能しますし、EV蓄電池や水素タンクからも電気や水素の供給が可能なわけです。このようにエネルギーの地産地消では、普段からしっかり機能を果たすとともに、非常時には大きな助けとなる仕組みが求められると思います。

— 再エネを活用して2系統の電力網にすれば、災害時にも効果的に機能するということですね。

沼田 そのとおりです。そしてもう1つ、再エネではないですが、災害時は水の供給も課題です。地域によっては当社が費用を負担して水井戸を掘ることも計画しています。私自身、阪神・淡路大震災を経験した際に、食料や電気の不足よりも、実は断水が最もこたえました。日本の場合、地震は繰り返される宿命ですが、現在の水道管のように長距離に及ぶ地下のインフラは、復旧に時間がかかります。一方、各所に水井戸を掘れば、その心配も軽減できるわけですね。

こうした地域分散型の再エネシステムを幾つか組み合わせ、いかに安定的にエネルギーを供給できるのか。それが今後、災害にも強い、持続可能な地域社会をつくる上での鍵になるのではないでしょうか。

 
 
 
 

ポテンシャルの高い地熱発電

— 再エネの中では、貴社は地熱発電を先行して進めてらっしゃいます。今年の3月には熊本県小国町に建設された地熱発電所の1号機が運転を始めたとうかがいました。

沼田 はい、多少の不具合を調整しつつも、順調に稼働中です。

試運転が成功したときは皆さんに祝っていただき、私自身も苦労した分、嬉しかったですね。「日本の地熱開発の遅れを、これから取り戻さなくては」と改めて心に誓いました。希望としては「今後の日本の地熱発電所の半分は当社が手がける」というぐらいの気持ちでいます。

— 地熱発電に目を向けられたのは、どういった理由からですか。

沼田 地熱発電は地下深くから熱水と蒸気をくみ上げて分離し、蒸気の勢いでタービンを回して発電する仕組みです。日本は地下資源の不足を理由に化石燃料を輸入しながら、東日本大震災までは原子力ありきの政策を推進してきました。ところが地熱に関していえば2,347万キロワット(2016年)と、原発23基分、世界第3位の資源量を有しています。それも1位の米国、2位のインドネシアと大差はありません。なのに実績はいまだに10位、電源構成に占める割合はわずか0.3%です。将来的にこの資源を活かさないわけにはいかないと思いました。

   
約100億円をかけ、熊本県小国町の涌蓋山のふもとに完成した「小国町おこしエネルギー地熱発電所」。最大出力4,990キロワットで8,000世帯ほどが1年間に使う電力量をまかなえる。また熱水を使った野菜のハウス栽培や、エビ・甲殻類、ヤマトシジミなどの養殖事業も試みている
   

— 豊富な資源量のほかにも、地熱発電のメリットは何かあるのでしょうか。

沼田 最大のメリットは、一定期間にどれだけ有効に発電できたかを表す設備利用率が約80%と極めて高いことです。原発や火力発電を上回り、再エネでありながらベースロード電源になり得ます。

しかも安定したパフォーマンスに加え、ランニングコストが圧倒的に低いのです。太陽光なら20~30年もしたらパネルを取り替える必要があり、バイオマスや石炭も継続してくべ続けなくてはなりません。一方、地熱はいったん設備が完成すれば百年単位で長く使え、燃料代も不要。ランニングコストは全ての電源の中で最安価です。例えば、現在の国の地熱発電の固定価格買取制度(FIT)の買取期間は15年ですが、うまくいけば設備償却が8年程度で終わります。その後はある意味、利益となり、15年経つと発電コストは5円/kWhほど。それが50年以上は続くのです。

またバイオマスなどは資材の木材チップなどの細かな温湿度管理が面倒ですが、地熱はボイラーもなく、オペレーションが容易。保守も基本的には1週間に1回ほどバルブを微調整するだけです。さらに地熱発電で生じる熱水を使った農作物のハウス栽培やエビやシジミの養殖などにも利用できます。

— 地熱発電のポテンシャルは高いですね。反対にリスクは何ですか。

沼田 熱源となる地熱貯留層の場所を見極めなければならないことですね。そのため、通常は国から補助金を得て、空中物理探査や地面に流れる電流と磁場を観測するMT探査など、地下深部の地質構造について事前調査を行った上で、地下600メートル程度まで小口径の調査井を掘るヒートホール調査をします。しかし、これだと少なくとも1本2億円以上かかってしまい、一発で当てようと思えばリスクは大きい。そして運よく当たったとしても、調査用なので毎回、穴を埋め戻すことが必要です。こうした従来の方法はあまりうまくいっていないのですが、国の制度がなかなか変わりません。

だから当社は国の補助金をあてにせず、より大口径の竪穴を実際に掘る坑井調査で筒状の地層のコアを取り出し、それを分析します。その際の掘削機は自社製なので1本5,000万円ほどで掘削でき、坑内の温度や圧力、含まれた鉱物の分布などによって、そこに高温域の熱源があるかどうか、明確にわかります。結局、そのほうが早いのです。これを積み重ねて知見を貯めれば、大体この辺りに熱源が分布していそうだと徐々に予想がつくようになり、リスクも軽減できると考えています。

ちなみに掘削して取り出した石のコアは、北海道にある「ジオパワー学園」で、1メートル単位で化粧箱に入れて保管してあります。その石柱を調べれば、そのエリアにどんな鉱物があるか一目瞭然で、高温の熱源を掘り当てた場所では、比重の重いレアメタルのある確率が非常に高いことがわかっています。次世代の鉱物資源開発も視野に入れて、そういったサンプルを揃えるようにしているのです。

   
坑井調査で掘り出した筒状の地層のコア。地熱発電の熱源を探るだけでなく、将来の鉱物資源開発を見据えた貴重なサンプルにもなる
 
 
 
 

業務スーパー方式を地熱発電にも導入

— 今回の小国町の地熱発電所については、開発スピードの速さにも注目が集まっています。どういった方法を取られたのでしょうか。

沼田 地熱発電の運転開始まで通常10~15年かかるのですが、当社は小国町の発電所を約5年で完成させました。これは今まで1カ所ずつオーダーメードだった発電所の設計・建設を、共通のパーツを自社開発することで、パッケージ化したからです。これには業務スーパーでの経験が活きています。業務スーパーでは主力商品を並べる冷凍ケースや常温棚を自社で製造し、各店舗の大きさや形状ごとに組み合わせ、店づくりを行っています。この考えを持ち込んだのです。小国町でも熱源の大きさに合わせてもう1つ、パッケージ型の2号機を建設中です。今後は地熱発電の調査から運転まで、3~5年で行うことを目指しています。

さらにはビジネスモデルも業務スーパーに倣い、フランチャイズ方式を導入しました。大きなポテンシャルがありながら地熱開発が進まなかったのは、先述のように高額な投資を要するわりに、成功する確率が低いからです。だから日本では大手企業さんもなかなか入ってこられなかった。しかし開発のスピードを上げるには横展開が必須です。それなら地熱開発でリスクの99%を占める地下の部分を当社が引き受けよう
と。実際、地上の開発については、お金を出す企業はいくらでもあります。先日もこの方式で地熱発電のパートナー企業さんを募集したところ、わずか2週間で十数社が名乗りを上げてくださいました。

— 地熱発電はリスクが大きいほかにも、温泉への影響が懸念され、地域の温泉組合などが反対して開発が進まないという話をうかがったことがあります。小国町の場合、地元の方々とのコミュニケーションはスムーズだったのでしょうか。

沼田 コミュニケーションが大切なのは事実ですが、その前に国のルールとして、地熱の採掘場所は温泉の湧出地から300メートルは離さないといけません。しかし当社の場合は、2キロ以上離しています。空中物理探査をして地表面の温度を調べると、高温域は温泉地の近くになる場合が多いわけですが、実際は、地熱貯留層と温泉となる地下水はキャップロックという粘土などの緻密な地層である不透水層で遮断されており、相互に影響はありません[図表1]。しかしそのように理論で説明しても、温泉地で営業をされている方々はやはり心配される。だからそれは絶対に避けるようにしています。

そして2キロ、3キロ以上離した上で、例えば小国町は山川温泉という温泉地が最も近いのですが、全部の宿の場所を示した総合案内の看板を当社が負担をして新調したり、年間の温泉組合の運営費も無償で提供したりしています。さらに何百本という椿を当社の従業員も手伝って一緒に植樹したり、といったことを計画的に継続して行っています。

— 地元の方々に対して、可能な限りケアをされているわけですね。

沼田 そうですね。さらにはそれだけでなく、山川温泉の組合にも入っています。そこで定期的に組合員の方々の意見や気持ちを聞く必要性がある。もちろん、さまざまな地質学的なデータなどもモニタリングしていますが、それで「大丈夫」と言われても、やはり組合の方々にしてみると不安が残る。そういった気持ちの問題には常に寄り添い、何か困ったことがあれば、サポートできる部分は私どもが全部させていただくように努めています。こうしたコミュニケーションは大切にしていますね。

   

 
 
 
 

畜産と太陽光発電を掛け合わせたソーラーグレージング®

— 貴社でもう1つ、力を入れていらっしゃる再エネが太陽光発電です。こちらを始められた理由を教えてください。

沼田 遊休地、耕作放棄地を有効活用できるという点が大きいですね。日本は7割が森林、次は農地です。ですからメガソーラーを新設するには、森林で木を伐採・抜根するなどしなければならず、その結果、乱開発が進みます。さらに切り土・盛り土をすると当然、土砂崩れが起きる恐れが大きくなる。そういったことを鑑みた結果、当社の場合は農地、特に耕作放棄地になっていた牧草地に着目し、放牧と太陽光発電を組み合わせたソーラーグレージング®という方法を取り入れる計画を、現在、北海道白糠町で進めています。

— ソーラーグレージング®とはどういったものですか。

沼田 設置した太陽光パネルの下で羊、それ以外のスペースで馬を放牧して発電と畜産の2つを行う営農放牧型の太陽光発電システムです。

今、日本の特に畜産・酪農業の経営は非常に厳しい状況です。そのため次世代への引き継ぎがままならず、広大な面積の遊休地、耕作放棄地が増え続けています。そういった土地は、いくら努力してもうまくいかず、やむなく放棄されたわけですから、単に元に戻そうとしてもうまくいくはずがない。そこで考えに考えて、ここでも業務スーパーのアイデアを取り入れようと思い至りました。業務スーパーでは、神戸物産から納品される主な商品のほかに、各店が独自に仕入れた商品も販売しています。例えば元が酒屋なら酒も入れるし、生鮮食品やあるいは惣菜を入れている店舗もある。そうすることで品揃えが増え、相乗効果で店がより魅力的になるんですね。ソーラーグレージング®の仕組みもこれと似ています。つまり太陽光発電と畜産を組み合わせることで、売電と畜産の2つの収入を得ながら、使われていなかった農地も再生できる。そういった複数のメリットが見込めるのです。

— 畜産業としては、どのような特徴があるのですか。

沼田 両面ガラスの太陽光パネルを使うのですが、これによる遮光が羊を熱ストレスから守ると同時に、牧草の栄養価が高まり、柔らかくなって羊が消化しやすくなります。さらに天然肥料となる羊糞は、窒素・リン・カリウムといった多量要素だけでなく、鉄・亜鉛・マンガンなど微量要素を含んでおり、土壌の質が改善され、栄養豊かになるのです。

現在の牧草地の多くは農薬や化学肥料漬けになっており、土壌の栄養バランスを整える役目の土中のミミズや微生物が、ほとんど死滅しています。すると土が固まり、人間に例えると点滴のような化学肥料でしか栄養分を吸収できなくなるわけです。また化学肥料の多くは化石燃料が原料のため、ほぼ全てを輸入しなければならず、環境にも決して良くありません。さらに化学肥料を5~7年も与え続けると、土がガチガチにより固くなってトラクターで返せなくなり、畜産を続けるには草生の回復を図るためにブルドーザーを使うしかなくなります。これには高い費用がかかるし、環境破壊にもつながる。一方で、ソーラーグレージング®によって改良された土壌から採れる作物は信頼性が高く、それを餌として食べる家畜たちは健康に育ち、家畜の乳や肉を食料として頂く人間にも恩恵があるのです。そういうふうに将来を見据えて、子どもたちのために良好な環境もつくっていく必要があると思っています。

— こちらの展開に関しても、業務スーパー方式で進めるのでしょうか。

沼田 そうですね。今、畜産農家は困っている方々が本当に多い。国がどんどん補助金を出して借金をしたものの、それが返せない。中には数億円にも上る、多額の借金を背負った農家さんもいらっしゃる。そこで「農地の一部にパネルを設置してソーラーグレージング®をやってみませんか」と。その代わり「最初のイニシャルコストや面倒な申請の手続きは全部私たちが見ます。そしてその後もできる限りの支援をします」とお伝えしています。金融サイドからしても、当社がサポートして改めて借金返済の目処が立つのであれば、万々歳のはずです。

こうして酪農を続けてらっしゃる方には、将来の展開を見込めるようにする。そして、残念ながら耕作放棄になった農地は当社が借り上げて再生する。その両面ですね。このように点を線に、線を面に立体に、と広げていくことが大切です。

— 確かに皆さんにメリットが見込め、期待が大きいですね。

沼田 さらには、例えば有事になれば、タンカーやコンテナ船は止まってしまいます。飼料や化学肥料の輸入も止まる。すると日本の農業は瞬く間に危機に瀕して、カロリーベースで38%(2022年度)だった食料自給率がさらに下がり、食料難になる恐れさえある。そういった状況を、今のうちに少しでも緩和しておきたい。そのためには増え続ける耕作放棄地を何とかしなくてはなりません。

通常の方法で化学肥料漬けの農地を再生するには数年かかりますが、ソーラーグレージング®で家畜を使った方法なら、時間的効率もいい。国産エネルギーの自給率アップや災害に強い町づくりのための太陽光発電だけではなく、日本の食料自給率の改善にも貢献できるようになるのです。

   
ソーラーパネルによる遮光によって、羊や牧草がより健康的に育ち、土壌も改良されるソーラーグレージング®。農家にとっては売電収入も見込めるため、遊休地の活用のほか、日本の畜産業の再興と食料自給率アップのための有効策としても期待されている
 
 
 
 

滅私奉公の気持ちで社会課題を解決したい

— お話をうかがっていると、沼田さんは社会の変化を敏感に取り入れつつ、より長いスパンで合理的に思考することで、大きなグランドデザインを描いてらっしゃいますね。

沼田 日本のため、という言い方が妥当かはわかりませんけど、世のため人のためというか、次の時代につながることなのかは、常に考えています。資源の乏しい日本としてみれば、資源を輸入して加工貿易を推し進める従来のやり方は、確かに正しかったのかもしれません。しかし時代の変化とともにですね、日本の技術が特出しているわけではなくなっており、貿易赤字が常態化してきます。これが進めば経常黒字も厳しくなる時がやってきます。そうなっても現在同様、全てを輸入に頼っていたら当然、採算は合いません。国力も損なわれてしまうでしょう。

昔は高度成長の下で急増する人口を支えるために、化学肥料や農薬の使用も必要悪だったわけです。日本の人口が減ることはいいことではないですが、その時代がもう終わりつつあります。これからは適正に戻さないといけない。少なくとも環境に負荷をかけ、自然を壊す方法は止める。誰かがそれを事例として残していれば、次にまた真似をする方が出てくるかもしれない。そんな思いで、今の事業に取り組んでいますね。

— そういった大きな社会課題に対峙しようとされた、そもそものきっかけがあればお聞かせください。

沼田 大病を2度患ったことが大きいですね。最初は2000年の業務スーパー1号店のオープン後、順調に店舗拡大を続けていた2004年の50歳の時、甲状腺癌のステージ4の宣告を受けました。幸い命を取り留めましたが、今度は2014年に60歳で脳幹梗塞を起こしてしまい、その際に願掛けをしまして、残りの人生を滅私奉公の気持ちで頑張ることを誓ったのです。 現在の「町おこしエネルギー」という社名を考えたのもこの時ですね。今までは化石燃料を輸入せざるを得なかったが、再エネなら日本でもできる。そしてエネルギーを単に売るのではなく、これを疲弊した地方の活性化に役立てたい。そういう思いでこの名前を付けさせていただきました。

— とはいえ、沼田さんの年代で新たな挑戦を始めるのは、なかなかできることではありません。モチベーションの源はどういったところにあるのでしょうか。

沼田 挑戦することに恐れが全然ないわけではないですよ。怖いこともある。でも私は今年70歳です。周囲の友人たちを見ても、先行きは知れています。業務スーパーの創業者として十分なお金を頂いてますが、自分の代で使いきれはしません。モノに執着があるほうではないですから。

だから、そういうお金を税金としてお渡しするのであれば、先ほどの水井戸の事例のように、このままでは将来に困るような問題を見つけ、その解決案を考えて実行して形にする。そこに投じたいと考えたわけです。

私も初めは軽四トラックでの行商から始め、会社をつくって段々と大きくなりました。ここまで来られたのは皆さんのおかげ以外にはなく、本当に感謝しかありません。だから最後は、やはり受けた恩を世の中に返さなければと思うのです。

業務スーパーでいえば、オーナーさんたちとの関係がいいので、彼らの顔がいつも浮かぶんですね。そしてこのオーナーさんも儲けてほしい、幸せになってほしい、そういった気持ちがありました。ソーラーグレージング®も同じです。日本の農家の方々の平均年齢は67歳を超えており、この先、残念ながら耕作放棄地がもっと増えてくるはずです。農業や畜産に従事し、これまで私たちが頂く食料を担ってこられて今、大変な思いをされている方々をパートナー企業としてお迎えしたい。そして将来に希望を持っていただきたい。その方々と喜びを分かち合えればと考えています。

さらに、何より私には5人の孫がいます。彼らの将来については、とても危惧しています。孫たちが夢の持てる社会にしたい、その思いが正直、やはり一番大きいかもしれません。自分の孫から「ジイジイはいいことした」と後に言ってもらえれば、これほど嬉しいことはないでしょうね。

   

— なるほど。心は熱く、頭はクールに、その両方があるからこそ挑戦ができるわけですね。

沼田 考えることが元々好きですからね。困難は当然ありますが、そのために考えて念じるんですね。今も平均で1日2、3時間は、会社に行く前に考える時間を設けています。私、夜が弱いんです。だいたい8時、遅くとも9時には寝てしまう。それで3時起きとか、早い時は11時台から起きてしまう日もあります。それから調べ物をしたり、考えたりというルーティンは、もう何十年もずっと変わっていません。

自分の時間では朝が一番好きですね。ありがたいことに読む力や覚える力はあまり衰えていないので、自分の興味がある分野のさまざまな問題点について、朝を使って徹底的に勉強させてもらっています。

— そうやって考えた結果、地熱発電で掘削機まで作ってしまったわけですね。

沼田 そうです(笑)。地熱発電の開発は山間で行われるため、従来、掘削機を運搬する大型車が通れるように、道の整備から始める必要がありました。であれば掘削機自体にエンジンを搭載し、自走式にしてタイヤをキャタピラにすれば、狭く傾斜した山道にも入っていける。さらに現地で掘削機を地面に固定するために櫓を立てていたのも、本体にアームを取り付けて代用すれば、その必要がなくなる。そういったふうに考えました。おかげで掘削費用は従来の3分の1以下に抑えられ、さらには分解すれば、コンテナでも輸送できるのです。

掘削機のほか、地下から上がった蒸気と熱水を分離する汽水分離器も、従来のものより10倍の圧力に耐えられるものを開発しました。また高齢化が進んだ日本の掘削技術者の技術を承継し、後継者となる人材を育成するために北海道に学校も開校しました。“必要なもので、今、ないもの”があれば自分たちでつくる。そして無駄や非効率を排除する。これは業務スーパーの時代からで、変わっていませんね。

   
町おこしエネルギーが開発したオリジナルの掘削機。掘削の際には搭載したアームを櫓の代わりに使用するため、基礎工事や機材搬入が不要
   
コンパクトな自走式のため、大型車両では入りづらい場所でも調査掘削が可能に

— では沼田さんが仕事を進める上で、最も重視しているのはやはり効率性ですか。

沼田 それ以前に最も大事にしているのは、使命感を持ってぶれないことですね。ベースはこれです。当社には「町おこしエネルギーグループの考え方」 という社訓のようなものがあります[図表2]。8番まであって1番は「世の為・人の為である事」、そして7番目には「茶碗一杯のご飯のおいしさ」や8番目には「ロス・無駄は神様に対しての裏切り」などと書いてあります。これは業務スーパーのオープンにあたって私がつくったもので、内容は当時のまま全く同じです。決して今風ではありません。けれども「世のため人のためにある」はずっと以前から考えていることですし、神様は必ずいて、人の世の表裏を見ていらっしゃると信じています。この文言は毎朝、今でも必ず唱えます。だから絶対にぶれませんね。

   

— では最後に、さまざまな社会課題の解決に向け、次に手をつけようと考えてらっしゃることがあれば教えてください。

沼田 もちろん、考えていますよ。ただ、まずは現在取り掛かっている案件をつくり上げないといけません。上場すれば、その配当で公益財団法人や学校法人も運営できるので、まずはそこまで持っていきます。単に寄付をしても、そのうち資金はなくなるだけですから。そうではなく、できる限り循環させないといけない。

企業の存在価値の中でも特に大事なのは、何に貢献できるかということです。例えば私は「業務スーパージャパンドリーム財団」というものも設立し、主に芸術やスポーツ分野で活躍する人材の育成を目的に、毎年約500名の学生やスポーツ選手、芸術家の留学を支援していますが、これは業務スーパーがなくならない限り、半永久的に続きます。こういった社会貢献へ意識を向けることは、同時に本業を頑張りたい、という意欲につながるわけです。

現在の町おこしエネルギーの事業も同じ、いかに社会に貢献できるか。ジオパワー学園で掘削の技術者が育ってくれれば、この国で地熱発電がさらに普及し、将来は各所に発電所がつくられるでしょう。またソーラーグレージング®で全国の遊休地が活用されれば、日本の食料事情が改善され、平時のベースロード電源であったり、非常時のバックアップ電源も再エネで賄えるようになるわけです。

従来、再エネは全てFIT制度で固定価格で買い取られていたため、流通がありませんでした。それが2022年から、発電事業者が市場に参加できるFIP制度に徐々に切り替わってきており、卸電力市場での売電が可能になりました。そうなると半導体工場やデータセンターなど、大量に電力を消費する施設はいずれ電力を効率的に調達できる地方に移り、そこに雇用も生まれ、地域の自立につながるはずです。

ようやくここからです。既存のインフラに頼らない、再エネの地産地消がベースとなった持続可能な社会の実現に向け、当面は注力していきたいと思っています。

   
独自のビジネモデルを構築し、業界屈指のドル箱「業務スーパー」を生み出した、その“超・合理思考”について、創業者である沼田昭二氏が語り尽くす。最終の第7章では、「再びゲームチェンジャーを目指して」と題して、町おこしエネルギーの新たな挑戦が紹介されている(沼田昭二、神田啓晴・著/日経BP/2023年)

株式会社町おこしエネルギー

株式会社神戸物産