なぜサードセクターは社会的課題解決の現場にいるのか

2024年9月26日 11:00 Vol.89
   
菅野 拓
大阪公立大学大学院文学研究科准教授
Taku Sugano
専門は人文地理学、都市地理学、サードセクター論、防災・復興政策。博士(文学)。社会問題など「やっかいな問題」の解決が一貫したテーマで、災害対応やNPOなどサードセクターの活動を継続的に調査・実践。近著に『つながりが生み出すイノベーション―サードセクターと創発する地域―』、『災害対応ガバナンス―被災者支援の混乱を止める―』(いずれも単著、ナカニシヤ出版)。最近の主な委員として内閣府「被災者支援のあり方検討会」委員、石川県「令和6年能登半島地震復旧・復興アドバイザリーボード」委員など。

 
 
 
 

はじめに

今の日本社会において、さまざまな社会的課題に立ち向かう現場で、NPOや社会的企業などの非営利や協同を旨とする組織が目につかないだろうか。例えば環境問題の解決、難民の支援、オルタナティブな教育、生活困窮者の支援。こういった現場にはたいていNPOが存在する。災害対応の現場でも同じだ。

ただし、日本社会においてはNPOや協同組合などのサードセクター(アメリカではノンプロフィットセクター、イギリスではボランタリーセクター、大陸ヨーロッパではサードセクターと呼ばれているもの)が欧米諸国ほど一般化していない。

ようやく初等・中等教育において、その存在が教科書で取り上げられるようにはなってきたが、サードセクターが何をしているのかよくわからない人が大半ではないだろうか。 本稿では、日本社会がサードセクターに馴染んでいない歴史的経緯を説明した上で、大規模災害が契機となりながら、その取り扱いが変化したことを確認する。その上で、大規模災害でのサードセクターの活動を分析することから、サードセクターがなぜ社会的課題に立ち向かう現場に多く存在するのか、もっと言えば、社会的課題の解決が得意なのかについて説明する。

営利企業や政府・地方自治体などと比較してサードセクターが社会的課題の解決が得意であるのは、サードセクター自体がある特性を持つからであると筆者は考えている。その結果、社会的課題を解きうるイノベーションを営利企業とは異なるメカニズムで生み出している。筆者が過去に行った大規模災害でのサードセクターの活動についての調査(菅野 2020)から、そのメカニズムを析出したい。

 
 
 
 

遅れてきたサードセクターと大規模災害

日本社会ではサードセクターが拡大・発展した時期は1990年代以降と考えられ、欧米諸国に比較して、極めて遅かった。フランスでは、1789年の人権宣言に「結社の自由」が存在しないことに表れるように、国民国家以外のあらゆる中間団体を否認したため、サードセクターの法的基盤の確立が欧米の中で比較的遅かったが、それでも1901年には非営利組織(アソシアシオン)の結社の自由が保障された(高村 2007)。しかし、日本においては特定非営利活動促進法(NPO法)が成立する1998年を待たなければならなかった。

日本が近代化していく過程で、現在であればサードセクターと呼びうる活動主体は法律上想定されなかった。1896年に制定された民法では、営利法人制度が届出主義であったのに対し、非営利法人制度はなく、「公益国家独占主義」として政府の許認可が必要な公益法人制度が設定された(星野 1998、初谷 2001)。例えば1923年に起こった関東大震災において市民による自発的なセツルメント(支援者が住み込みで行う支援活動)が見られたが、軍国主義化していく中で弾圧の対象となっていった。不幸なことに、第二次世界大戦敗北後も許認可不要の非営利法人制度は作られず、その必要性に社会が目をむけるきっかけになったのが、「ボランティア元年」と呼ばれることになる1995年に起こった阪神・淡路大震災であった。その影響のもと1998年に特定非営利活動促進法(NPO法)が成立し、また、2006年に実施された公益法人制度改革によって、上述した民法の規定が110年ぶりに見直された。先進国の中では相当に遅れたものの、サードセクターの法的位置づけが整うことで、ようやく自由に非営利法人を作ることができるようになった。

その後、サードセクターの組織は爆発的に増加し、東日本大震災が起こった2011年時点では、少なくとも5万法人以上が設立されていた。そのため、筆者が中心となって実施した調査でリストアップできただけでも約1400組織が、震災で生じたさまざまな社会課題に対応しており、実際にはもっと多かったと考えられる(菅野 2020)。以上のように、災害大国と呼ばれる日本において、大規模災害はサードセクターが拡大・発展する契機となってきた。

 
 
 
 

東日本大震災におけるサードセクターの活動

以下では菅野(2020)にしたがって、東日本大震災でのサードセクターの活動を概括する。東日本大震災で生じた社会的課題に対して、サードセクターは自ら対応し、一定の規模で解決を担っていたと考えることができる。その対応は変化に富み柔軟であり、財政面の独自性も確保していた。

サードセクターの組織は東日本大震災への対応において3年間で1200億円以上を支出したと推定され、その多くは寄付金や民間助成金といった公費以外の資金であった。また、自主的に反応したサードセクターの組織は、特定非営利活動法人、任意団体、一般法人といった、旧民法下の公益法人ではない行政の許認可が不要な組織が主流を占めた。被災地では震災後に新規の組織が設立され、東日本大震災によって生じた諸課題に対応していたが、1団体あたりの活動資金の規模が大きい国際NGOの分布を主な要因として、活動資金全体の2/3は関東の支援団体が支出していた。

サードセクターの組織の活動内容は時期に応じた諸課題に対応しつつ、柔軟かつ多様に変化していった。2013年10月以降はまちづくりや地域福祉に関わるような、必ずしも災害対応とは言い切れない活動が主流を占めていた。

 
 
 
 

サードセクターの社会ネットワークはインターネットのようにつながっている

このように大規模に活動したサードセクターであったが、その活動の活発さや効果は、被災地の中でも地域差が見られた。うまくいっている地域もあれば、そうでない地域もある。その差を規定する最も重大な要因は、社会ネットワーク、つまりは、人のつながりの利用可能性にあることが明らかになっている(菅野 2020)。

2016年6月から2017年8月にかけて、以下のようなインタビュー調査を実施することで、東日本大震災で生じた社会的課題に対応しているサードセクターの社会ネットワークを可視化させ分析した。調査手法は以下である。あるサードセクターのキーパーソンに、「東日本大震災でお世話になっていたり、信頼していたりする人を最大10人教えてください。行政・営利企業・サードセクターのどこに所属していてもいいし、震災前からのつながりでも、震災後のつながりでもいいし、被災地に住んでいる人でも被災地外の人でもかまいません」と聞いた。この質問で把握できた人のうち、震災後に被災地に住んだことがありサードセクターの組織に所属している人に、またインタビューを行った。これを80人繰り返した。

この調査では、80人に最大10人ずつ、つながりを聞くので、論理的に最大800人のキーパーソンを把握できることになる。しかし、ほとんどの人が10人の名前を挙げたにもかかわらず、実際に把握できたキーパーソンは459人にとどまった。複数の人から指名を受ける人がいたからだ。

この調査で把握した社会ネットワークを示したのが[図表1]である。1つの正円は1人の人物を表し、正円の大きさは「信頼している・お世話になっている」として調査対象者から指名された数を反映している。正円は地域ごとに楕円状に配置している。正円同士をつないでいる線が「信頼している・お世話になっている」として指名された社会ネットワークだ。

このサードセクターの社会ネットワークの分析から、特徴的な性質が確認できた。指名された人数ごとのヒストグラム(分布図)を描くと、ほとんどの人は1人からしか指名されていないが、ごくたまにたくさんの人から指名される人がいる[図表2]。つまり、ほんの一握りの人が多くの人から信頼され、膨大なつながりを持つ結節点である「ハブ」となってさまざまな情報をやり取りする中継点となっていたということだ。しかもこの構造は震災前から全く変わっていないため、日本社会のサードセクター全体の特性であることを推察できる(菅野2020)。

多くのつながりを持つハブがごく少数存在するネットワークは「スケールフリー・ネットワーク」と呼ばれる。スケールフリー・ネットワークは、少数のハブにつながりが集中するため、ランダムな攻撃に対し頑強で、情報伝播が早いという構造特性をネットワーク自体が持つ(Barabási & Albert 1999)。スケールフリー・ネットワークの代表はインターネットだ。この特性のおかげで、大規模なリンクを持つ検索サイト(Googleなど)がハブとなり、わずか数クリックのうちに、世界に10億以上あるウェブサイトの中から、目的にかなうウェブサイトにたどり着くことができる。また、いつくかのウェブサイトがサーバーエラーなどで利用不能になっていたとしても、インターネット全体の構造が維持される。GoogleやAmazonとい
う膨大なリンクを持つハブの存在こそがインターネットの便利さの決め手である。同時に、仮に悪意を持ったハッキングなどで有名検索サイトが利用不可能になった際、さまざまな混乱が生じることが容易に想像できる。ハブを選択的に除去すると、情報伝播が早いという構造特性が失われてしまうのだ。

サードセクターの社会ネットワークも、インターネットとよく似た構造で、ハブが存在することから情報の伝播性が高く、効率的に知識や資源のシェアが可能である。つまり、ハブは問題に応じて、人と人とをつなぐことで、知識や資源を動員する要となっている。問題を明確化させ、さまざまな個人や組織が持っている知識や資源をつなぎ合わせ、解決策を生み出すことを促進している人物こそ社会ネットワークのハブなのだ(菅野 2020)。

   

   

 
 
 
 

近くは競合、遠くは仲間

サードセクターの個別の組織はこの社会ネットワークの構造特性を用い、営利企業や政府よりも効果的に社会的課題の解き方、つまりイノベーションを生み出していると考えられる。私はこのメカニズムを「サードセクターの地域間イノベーションシステム」と呼んでいる(菅野 2020)。このメカニズムは、いわば「近くは競合、遠くは仲間」と言いうるもので、上述した社会ネットワーク調査などによる検討からは、以下のような特性を持つことが確認できた。

まず、サードセクターの組織がなんらかのイノベーションを創出する際に、寄付・助成金といった民間からの資金やボランティア労働力、政府からの補助金や委託などにくわえ、社会ネットワークを経由して低コストで得た知識を利用していると考えられる。例えば、ハブを介せば先進事例を把握し視察にいくといったことを、電話1本、ものの5分で調整してしまえるのだ。政府が先進事例を集めて報告書にまとめるコストを考えてみてほしい。数か月がかりで調査プロジェクトを動かし、場合によっては数千万円という調査費用をかけることもある。つまり、サードセクターは地域間で知識を互酬的に利用して極めて低コストにイノベーションを創出していると考えられる。

さらに、サードセクターの組織が活動する空間的な範囲(スケール)を比較した場合、ある地域に範囲を限って活動する組織のほうが社会ネットワークにより多く参加しており、全国レベルなど広い範囲で活動する組織は少なかった。知識を互酬的に利用する場合、その知識を自らの競合となりえる相手に共有することは自らの活動を制限してしまうことにつながる。しかし同じ社会的課題に向かう組織であっても、自地域で活動をしない相手であれば、知識をシェアしあったほうが、いい解決策ができるであろう。つまりある場所に根を張ることで、同じ問題に向かう異なる場所に根を張る組織と情報交換しイノベーションを創出していることになる。

つまり、サードセクターにおいては、営利企業のイノベーション創出のように、シリコンバレーにIT企業が集まることで集積の利益を受けるといったメカニズムが働いているわけではない。むしろ、それぞれの組織がそれぞれの地域に根を張り、地域間で知識を交換できる関係性を構築することから利益を受け、イノベーションを創出している。

ある場所に根を張り、政府が手を出さなかったり営利目的では解決できなかったりする社会的課題に対して「近くは競合、遠くは仲間」という関係性をもとに、社会的課題の解決につながるイノベーションを創出していく。これが「サードセクターの地域間イノベーションシステム」というわけだ。民間組織としての柔軟さのうえに「非営利性」と「場所性」という特性を持つことで、サードセクターは他セクターに比較して社会的課題の解決について優位性を持つことになる。

 
 
 
 

社会ネットワークのハブとは誰か

では社会ネットワークのハブは誰で何をしているのか。多くの場合ハブは「コーディネーター」という職名で呼ばれている。しかし、上述した社会ネットワーク調査でハブであったコーディネーターは、以下のようなぼやきともとれる言葉を述べた。「コーディネーターって何してるのか、伝わらないんだよね」。

近年、「コーディネーター」に類する言葉を用いる職種や職域がさまざまな分野で目につくようになった。古くは「インテリアコーディネーター」や「カラーコーディネーター」から、「ボランティアコーディネーター」「ITコーディネーター」「地域コーディネーター」「産業支援コーディネーター」「再開発コーディネーター」「生活支援コーディネーター」「福祉住環境コーディネーター」「学習コーディネーター」など、分野を問わず「コーディネーター」なる言葉が使われている。辞書上の意味として「コーディネート」は「調整」を指すため、「コーディネーター」には複数のヒトやモノ、情報を取り集めてきてバランスをとったり、それぞれの要素がうまく働くようにしたり、といった意味を込められて使われているようだが、必ずしも統一的な定義が存在しているわけではない。また、「コーディネーター」という言葉を直接使わなくても、なんらかの調整を含意する職種や職能領域として、国際協力機構(JICA)における「業務調整員」、助成財団における「プログラムオフィサー」、地域福祉団体における「コミュニティソーシャルワーカー」なども使われている。しかし、上述したコーディネーターの言葉にみたように、私達は「コーディネーター」や「コーディネーション」なる言葉をどこまで理解できているかについて、大変心もとない状況でもある。社会ネットワークを理解し、「サードセクターの地域間イノベーションシステム」という、これからの社会の希望となるかもしれない社会的課題の解決につながるメカニズムをよりよく動かすためにも、以下ではハブについて理解を深めたい(より詳しい分析は菅野(2021, 2022, 2023)を参考にしてほしい)。

上述した社会ネットワーク調査のデータを使い統計的に分析すると、ハブは典型的には以下のような人物像である。

✓  サードセクターの組織に対して資源を仲介したり、組織間のネットワーク形成を促進したりすることを役割とする「中間支援組織(infrastructure organization)」のスタッフである

✓  他セクターで働いた経験があったり、経済団体に加入した経験があったりと、サードセクターと他セクターとのつながりを生み出しやすい経験を持っている

上述した社会ネットワーク調査でハブとなっている人物は、自らの動きについて以下のように語った。「全体状況を総合的に俯瞰して、ここ声上がってないとか、困っているはずなのに、ここはどうなっているのか」と思いながら、「いつかは当事者が表に出るべきなので、僕は表に出ない」で、「必要なことを実現してくれる人には耳打ち」して「裏の調整をする」。また、同じ人物は、社会ネットワークについて以下のように語った。「人とのつながりがすごく大事だと思うので、いった先々ではそこの人たちとどうつながるのかを大事にし」、結果として「信頼形成コストがいらない人たち」が現れ、重要な情報を「その人に聞く」ことができるようになる。

では、ハブはいったい何をしているのか。この疑問に迫るため、上述した社会ネットワーク調査において把握したキーパーソン459人のうち、指名数が上位10人に入るハブ5人にインタビューを実施し、彼・彼女らが何をしているのかについて理解を試みた。端的に述べるなら、彼・彼女らは、社会的課題が存在する「状況をマクロに捉えてミクロな部分に陰から働きかけ」て、「自らの利害への執着のなさと他者の利害を想像し通訳」することでさまざまな調整を実施していた。

東日本大震災被災地においては、被災者の生活再建、住民自治の再構築、被災児童の教育環境の再整備など、被災者支援にまつわるさまざまな事柄がやっかいな問題として現れていた。彼・彼女らは、被災者支援に関わる制度の種類や制度間の差異を理解し、制度の運用状況についての地方自治体ごとの特徴を把握した上で、その制度の運営を受託する非営利組織の担当者の悩み相談を受けて、他の地方自治体における運用実態や、当該組織の実情、委託者である地方自治体との関係性などを踏まえた上で、担当者に対してアドバイスをするなどしていた。このような行為を繰り返す中で、問題が明確化し、必要な措置が理解でき、非営利組織や地方自治体、国などのステークホルダーを巻き込みながら、問題に対応する施策が形成される場合もあった。

ハブたちは、ある規範をベースに4種類の技能を組み合わせた行為を行っていると私は考えている。ある規範とは、自らの直接的な利害関心に応じて振る舞うことを抑制し、複数の人物や組織間で集合的に設定される目標に応じて振る舞うことを是とする「私益禁止の規範」である。また、4種類の技能とは、

① 文化翻訳(「NPO的にみると○○だ、行政的に考えれば△△だ、といった形で、さまざまな人物が内面化している暗黙のルールや規範の違いを了解可能なように伝達する)

② フレーミング(問題や手法に関わる認識を共通にするなどして知識や資源の動員や組み合わせの意味を明確化する)

③ ネットワーキング(人物同士を結びつけてネットワークに新たなつながりをつくり、知識や資源の動員や組み合わせを容易化させる)

④ 組織化(各人物が所属する、境界が流動的なものから、固定的なものまでさまざまな組織を成立させて知識や資源を蓄積し活用する)

として把握できる。社会ネットワークのハブは、私益禁止の規範をベースに4種類の技能を組み合わせた行為を日常的に行っている。その中で、自らが起業家のように振る舞うというよりは、陰から個人に向き合いながら、多様な人たちに対峙し、その結果として、多くの人たちから信頼されることで、独自の知識や資源を動員することが可能な社会ネットワークを形成しているようだ(菅野 2021)。

また、情報の伝播性の良さ、つまりは、知識が伝わりやすかったり、資源が融通しやすかったりするという、サードセクターの社会ネットワークの構造特性を、地域として利用できているかが、地域としてみた公共領域のイノベーション創出の決め手となり、社会的課題の解決効率に強く影響している可能性がある。ハブの存在しやすさには地域差があることもうかがえ、地方自治体の市民活動や協働への支援が規定要因のひとつであることが示唆された(菅野 2020)。

 
 
 
 

私たちの社会はいま

ここまでをまとめておこう。現代日本のサードセクターは社会的課題に一定規模で対応するようになっている。また、地域内外に構築された社会ネットワークを経由して、資源、特に知識を互酬的に利用することで、サードセクターは社会的課題に対応するイノベーションを効率的に創出している。社会ネットワークを経由して知識を互酬的に利用するためには、政府ではうまく対応できていなかったり営利目的ではいまだ解決されていなかったりする社会的課題に向かうという「非営利性」とともに、ある地域に根を張って活動する「場所性」が重要になる。なぜなら、場所性は「近くは競合、遠くは仲間」と言いうる人のつながりを生み、地域間で知識をシェアする条件となるからである。また、このメカニズムを効果的に働かせる鍵となる社会ネットワークのハブである人物が活動する環境を整備することで、地域内外からもたらされる知識を地域としてうまく利用することができる。そうすると、地域としてうまく社会的課題に対応していける可能性が高まる。

「非営利性」と「場所性」を持つという意味では、NPOが組織イメージの典型ではあるが、ほかに道の駅や各地方の弁護士会なども類似しており、実は同じイノベーション創出のメカニズムを利用している可能性が高い。また、サードセクターにおいてネットワーク組織やアンブレラ組織といわれるような、「非営利性」と「場所性」を持つ組織同士の地域を超えた知識交換を促進させる(つまり、相互のつながりを作り維持する)組織にハブとなる人物が存在するかどうかが、社会的課題の解決効率を高める重要な条件となるであろう。

なぜサードセクターが社会的課題解決の現場にいるのかが、これで理解できたはずだ。また、地域を超えた知識の交換を促進することが、複雑でやっかいな社会的課題のまだ見ぬ解決策を導出する際の極めて重要なポイントになることも理解できるはずだ。人のつながりを通して地域同士が相互作用し、社会を変えてしまうような創発的なシステム。日本社会にもサードセクターが広がることで、このようなダイナミックな世界を私たちは生きることになったのだと思う。

〈参考文献〉
菅野拓(2020)『つながりが生み出すイノベーション─サードセクターと創発する地域─』ナカニシヤ出版。

菅野拓(2021)「職業としてのコーディネーター―越境的協働を促すメカニズムの体現者―」『国際開発研究』30巻2号, pp.11-24。

菅野拓(2022)「ネットワークをつむぐ―人と人とをつなぐ人の作用―」堂目卓生・山崎吾郎編『やっかいな問題はみんなで解く』世界思想社,
pp.94-113。

菅野拓(2023)「「やっかいな問題」の解き方としてのネットワーク―災害復興の鍵を握る「ハブ」は何をしているのか―」中嶋愛編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 04―コレクティブ・インパクトの新潮流と社会実装―』SSIR Japan, pp.93-101。

高村学人(2007)『アソシアシオンへの自由―〈共和国〉の論理―』勁草書房。

初谷勇(2001)『NPO政策の理論と展開』大阪大学出版会。

星野英一(1998)『民法のすすめ』岩波書店。

Barabási, A. L., & Albert, R.( 1999). Emergence of scaling in random networks, Science, 5439, pp.509-512.

菅野 拓

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