災害への備えを楽しくする“ 防災スポーツ”

2024年9月26日 11:00 Vol.89
   
篠田 大輔
株式会社シンク代表取締役社長
Daisuke Shinoda
慶應義塾大学理工学部卒業、同大学院理工学研究科修了。中学1年生の時に阪神・淡路大震災を経験。スポーツ系企業勤務を経て、2014年にシンクを創業。スポーツコンサルティング事業、マラソン大会向け記録配信サービス事業(スポロク)などを手がけてきた中、2018年、自身の被災体験をもとにした「防災スポーツ」事業を始動。その後、内閣府主催「第4回日本オープンイノベーション大賞 スポーツ庁長官賞」(2022年)、「令和5年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞」(2023年)を受賞。

被災時には、冷静な判断力とすばやく行動できる体力が求められる。そのため災害時を想定した事前の訓練が必要だが、現実的には後回しにされがちだ。そのような中、迅速な避難や負傷者の搬送など、災害時に役立つ行動をスポーツとして楽しみながら体験する「防災スポーツ」を広める企業がある。訓練を楽しさに結びつけたアイデアや、防災スポーツを体験した人々の反応について、シンク代表取締役の篠田大輔氏にうかがった。
text: Ayano Yoshida photograph: Takao Ota

 
 
 
 

“防災”にスポーツの価値を活かす

— まずは「防災スポーツ」の概要や理念について教えてください。

篠田 日本は地震や津波、台風など、自然災害が絶えません。もしも災害に遭ってしまったときに、自分や家族、そして周りの人を助ける力を身に付けていてほしい。そんな思いから生まれたのが、防災スポーツです。

災害時には、負傷者の救助や搬送、瓦礫の撤去、支援物資の運搬など、重いものを持ち上げて運ぶ作業が必要になります。さらに、人命救助など一刻を争う場面では、周囲と協力しながら迅速に、かつ慎重に行動することが求められます。しかし、いざそのような状況に置かれると、冷静な判断や行動は、なかなか難しいものです。ですので、防災スポーツは、これらの状況下で瞬時に適切な行動がとれるよう、楽しみながらトレーニングできるプログラムを中心に展開しています。防災訓練を競技化した体験型プログラム「防リーグ」と、防災に関する正しい知識と行動を学び、実践する「防トレ」、地域の防災を歩きながら学ぶ「防災ウォーク」の三本柱で構成しています。

— 一般的には、防災とスポーツはなかなか結びつきにくいイメージがあります。防災という視点から考えたとき、スポーツにはどのような力があるのでしょうか。

篠田 スポーツは、大きく分けて「遊戯性=楽しむ要素」「運動=体を動かす要素」「競争性=競う要素」の3つの要素から成り立っています。これらの要素が災害とどう結びつくかというと、まず運動と競争性は、素早く避難したり、人を救助したりするなどの行動につながる点で、災害時に役立ちます。例えば、防災スポーツのプログラムの1つに人間の体重に近い重さの人形を運ぶレースがあり、これを身に付けることで災害時に必要となる動きを体で覚えられます。災害時には瞬時の判断が生死を分ける可能性もあるので、実際に災害が起きたときにすぐに行動できる判断力と瞬発力を養うことが大切です。

次に遊戯性という要素には、防災に必要とされる能力を楽しみながら身に付ける効果が期待できます。一般的に災害に対しては「危ない」「怖い」というネガティブなイメージをもちやすいですが、スポーツを通じて楽しみながら体を動かすことによって、防災・災害に対して前向きに取り組むことができると考えています。

こうした身体的側面と心理的側面の二面性が、スポーツそのものの価値として防災・災害に生かせると考えています。

さらに、この取り組みに共感していただいたスポーツチームやアスリートの方々の力を借りることで、防災啓発にもつなげることができます。まず、アスリートの発信力や訴求力によって、人々の防災への意識を高めていくことができ、さらにスタジアム・アリーナといったスポーツ施設を活用することで、防災スポーツの取り組みを、より大規模に展開していくことが可能です。このように、スポーツには防災・災害に寄与する、さまざまな力があると信じています。

— プログラムの具体的な内容を教えてください。

篠田 まず、スポーツ競技(体験)型防災プログラムとしての「防リーグ」があります。これは、「楽しんで、競い合って、身体で覚える」ことをテーマに、災害時の自助・共助、災害後の復旧・復興の際に想定されるシーンをスポーツ競技として開発したものです。現在は全部で7種目あり、「キャタピラエスケープ(火災時に煙の中や低所など、姿勢を低くして行動する速さを競うレース)」や「バケツリレー&シューティング(火災など水が必要な場所へ素早く運び、消火するレース)」「レスキュータイムアタック(災害時でも入手しやすい毛布を担架の代わりに使い、負傷者を安全に速く運ぶ障害物レース)」「ウォーターレスキュー(川や海で溺れている人を救助することを想定した、的当てと綱引きレース)」などがあります。これらのプログラムを通じて、「防災の知恵と技を身体で覚える」「安全面を意識しながら速さを競う」「チーム戦で協力・コミュニケーションを学ぶ」ことを経験し、老若男女を問わず、あらゆる参加者が楽しみながら防災の知恵と技を身に付けることができます。

防リーグで防災意識を高めた後には、親しみやすいイラストで、子どもでも取り組みやすい内容が記載されている小冊子『防トレ』で、災害時の連絡方法や家具の転倒防止、備蓄など日常的な防災対策を身に付け、実践につなげられるようになっています。 これは、主に家庭での防災を意識したプログラムです。大切なことは、防リーグと防トレがセットになっていること。体験によって座学で学んだ知識がより定着し、逆に、座学を通じて体験を言語化することで、より理解度を深め、日常からの防災行動につなげられます。

そして、地域防災を意識しているのが「防災ウォーク」です。これは、地域の防災情報を歩きながら学ぶプログラムです。災害が起きると街が一変するので、地域の防災情報を平時からしっかり頭に入れておき、非常時でも冷静に対応できるようにしておくことを目的としています。

 
 
 
 

被災体験で得た気付きが
アイデアの源泉に

— どのような経緯から防災スポーツという取り組みが生まれたのでしょうか。

篠田 私自身に被災体験があることと、子どもの頃に野球に打ち込んでいたことが大きな理由です。私は、中学1年生のときに兵庫県西宮市で阪神・淡路大震災を経験しました。地震が起きたとき、地響きで目が覚めて、揺れを感じてから布団をかぶって身を守り、揺れが収まるのを待ったことを今でもよく覚えています。幸い、瓦礫や家具に埋もれることもなかったのですが、隣の部屋で寝ていた妹や弟が本に埋もれた状態だったので、まずは彼らを引っ張り出しました。

当時私は野球をしていたこともあり、体力や筋力があったので、避難所では地域の活動に協力しました。例えば、避難先の小学校でプールの水をみんなで協力しながらトイレに運んだり、支給物資を必要な場所に届けたりなどの手伝いをしました。

これらの経験から、災害時に必要な動きを体で覚え、また日頃の体力作りが必要なのだという認識ができました。防災スポーツの事業化に当たっては、私自身のこうした被災体験がもとになり、「走る=逃げる」「運ぶ=人を助ける、物資を運ぶ」「投げる=水害時に浮くものを投げる」といった具合にスポーツの動作を災害時に必要な行動とリンクさせるアイデアが浮かびました。このアイデアを実践させるための「防リーグ」と「防トレ」の監修を、「防災の日常化」を目指すNPO法人プラス・アーツに依頼し、また東京大学で防災研究に従事する廣井悠教授をアドバイザーに招くことで、客観的、実践的にブラッシュアップさせて、防災スポーツが生まれました。

— 篠田さんご自身が野球をしていたことは、どのように防災スポーツへとつながったのでしょうか。

篠田 中学時代から野球に夢中になっていた経験から、社会人になっても、何らかの形でスポーツに関わり続けたいと考えるようになりました。こうした理由からスポーツ系企業に入社し、「新たな形でスポーツの発展に貢献できたら」という想いをもって、2014年に起業しました。初めはマラソン大会などスポーツイベントのプロデュースやスポーツコンサルティングなどを手掛けましたが、2016年頃から防災とスポーツを掛け合わせた事業ができないかと考え始めました。試行錯誤する中で、被災体験とスポーツが結びつき、先ほどお話ししたようなアイデアが膨らみはじめたのです。

また、被災した際には中学1年生でしたが、スポーツで鍛えられた体力があったからこそ、自分や周りを助けることができたという実感をもつことができました。

大好きなスポーツだからこそ、災害という非常事態への備えに、スポーツをうまく活用することで、世の中に新しい価値を提供できるはずだと信じています。

— 先ほどの被災体験の中に、避難所での地域の方々との連携がありました。日頃から周囲とのコミュニケーションが重要ですが、現代社会ではなかなか難しいと思います。防災スポーツでは、その点について、どうフォローされていますか。

篠田 災害時には人命救助が優先されますので、身の回りのことはなるべく自分たちで行うことが求められます。だからこそ、地域の方との連携が重要なのですが、現代では日常的な近所づきあいが難しくなっています。このような状況を考慮し、防災スポーツでは、チームワークが問われるプログラムを開発し、いざというときに団結するための力を培います。

例えば「ゴー!ゴー!キャリー」というプログラムは、災害支援物資を効率的に運搬し、限られたスペースへの収納を体験する知力・体力が試されるレースです。チームのメンバーと協力しなければ大きな荷物を速やかに運ぶことはできないため、参加者同士が自然と声を掛け合って、励まし合う様子が見られます。スポーツという楽しい場では、チームワークが生まれやすい。こうしたポジティブな環境で、人と連携する大切さを実感すれば、災害というネガティブな状況でも体が自然と動き、周囲に協力を求められるようになると思います。

ですので、小学校の授業に講師としてお話しさせていただいた際には、児童たちに「まず自分や家族の命を守った上で、周りと助け合いましょう」と念を押すようにしています。

— 防災スポーツは、主にどのような方々が体験されていますか?

篠田 持続的な取り組みにつなげるため、ビジネスとして展開していくことをポイントにしています。そのため、企業の依頼で実施することが多く、CSRや、地域に対する社会貢献活動の一環として導入していただくこともあります。また、商業施設のイベントとして活用いただくときには、PR活動として位置付けられることもあります。

もし防災スポーツを地域の一部の熱心な方々やボランティアなど有志の方々が担当するとなると、どうしても地域限定での活動となり、継続が難しく、広がっていかないのではないでしょうか。ですので、ビジネスとしての仕組みを前提としています。

また、防災訓練のようなイベントを企業内のプロジェクトとして、社員の方々だけで企画・実行する場合、1回限りになりがちです。そこでわれわれがビジネスとして防災スポーツを展開していくことにより、顧客側の負担を減らし、防災の知識を学ぶ機会が増え、継続性が生まれると考えています。それは企業組織にかかわらず、教育機関、自治体といったケースでも、共通しています。

近年、教育機関や自治体への取り組みが増えていますが、今後もさらに増やしていきたいと考えています。例えば、茨城県常総市では2022年度から継続的に防災スポーツを導入していただいています。常総市は2015年に「関東・東北豪雨」で市内にある鬼怒川の堤防が決壊し、市の3分の1が浸水してしまいました。それ以降、自治体での防災・災害に対する意識が高まり、継続的に防災スポーツを導入いただいています。2022年度には地域イベントとしての導入に加え、市民向け防災マニュアルを制作し、2023年度には学校安全教育(防災教育)の一環として自治体の全小学校といくつかの中学校で「防災スポーツ」を実施しました。千代田区の小学校では、カリキュラムとして継続的に導入いただいています。

そのほか東京都ならびにTOKYO UNITE主催のイベント「TOKYO防災×スポーツチャレンジ in東京ドーム」、また東日本大震災で大きな被害を受けた石巻市など、自治体と連携した防災訓練・イベントの実績も増えています。

— 参加者の方々の反応はいかがですか。

篠田 小学生の反応を見ていると、最初はうまくいかなくて、何回もチャレンジして自分のタイムをあげようとしたり、友達に勝つために頑張ったり、楽しみながらポジティブに取り組んでくれます。反復することで災害時に必要なアクションが自然に身に付くので、これもスポーツの力だと感じています。災害時は、とっさの行動が非常に重要です。一瞬の判断の遅れが、命に関わることもある。防災スポーツを反復することにより、考えるよりも、まず行動できる瞬発力を身に付けることを想定しています。

また、小学生の子どもは、新しく知ったことを積極的に周りに発信してくれるので、帰宅後に、家族にも防災スポーツで自分が体験してきたことを話してくれるようです。そこから、周囲にも、防災への意識や日常の防災行動が広がっていきます。

家族の中での広がりという面では、商業施設でのイベントも効果があります。たまたまイベント会場を通りがかった家族に防災スポーツに参加いただいたところ、「みんなで一緒に楽しみながら学ぶことができた」「いい経験ができた」と言っていただけました。

— 教育機関の方々の反応はいかがですか。

篠田 教員の方々にも非常に喜んでいただいています。「自分たちでは『防リーグ』のように子どもたちが楽しみながら取り組めるプログラムは思いつかないので、防災スポーツを導入してよかった」という感想もありました。日頃は授業のことで手いっぱいで、防災のための情報をリサーチする時間はあまりないと思います。私たちは場所さえ提供していただければすぐにプログラムを実施できるように備えています。また、ある学校の校長先生から「防災スポーツは、体を動かす体験を通して学ぶ場であり、興味関心をもって楽しく活動できることが最大のメリットです」というコメントもいただきました。今後も、教育関係の方々との協力関係を続けていきたいと思います。

— 防災に対する、人々の関心は高いと思われますか。

篠田 そうですね。最近では、今年初めに能登半島地震が起きましたが、自然災害が発生したタイミングで問い合わせが増えることもあります。震災直後の1カ月くらいは行動を控えようというムードが広がっていましたが、2月頃からは「やはり日頃の訓練が必要」という意識が芽生えたようで、問い合わせが増えました。

例えば、東京都港区でのワークショップを昨年度実施したところ、12月までは参加者が10人程度だったところ、能登半島地震の後には30~40人と急増しました。現在は地震から半年以上経ちましたが、やはり企業や自治体の方々の意識の高さを感じます。個人レベルでは、震災から時間が経つと少しずつ意識が薄れてしまうようですが、企業や自治体といった防災訓練を実施する立場にいる方たちは、やはり日頃の訓練の必要性をよく認識されていますね。

   
商業施設の防災イベントにて。毛布など身の回りのものを担架にして負傷者を運ぶ、「レスキュータイムアタック」の様子
   
豪雨による被害に遭った常総市の学校では、2022年度から継続的に防災スポーツを導入している
   
プールを活用したより実践的な水害・水難対応プログラム
 
 
 
 

認知拡大を狙ったブランド戦略とデザインの力

— 現在は教育機関、自治体、企業を問わず、防災スポーツの広がりがうかがえますが、最初のきっかけを、どのようにつかみましたか。また発信やブランド戦略など、マーケティング的要素においては、どのように工夫されましたか。

篠田 まず、導入実績をつくるために、スポーツ関係の仕事で関わらせていただいた企業や教育機関から協力を得て、実証実験のようなことを繰り返しました。正式な事業として展開し始めたのが2018年10月で、豊洲の商業施設で防災イベントを実施しました。

そこから少しずつ実績を増やそうとした矢先に2020年からコロナ禍になり、人々が集まるイベントを開催できなくなってしまいました。そこで、実績以外の部分で社会的な評価を高めていくために始めたのが、省庁などが主催するスポーツやビジネスデザインに関する賞への応募です。防災スポーツの社会性・公共性の高さに対する自負がありましたので、実績は少なかったものの、2020年に「スポーツ振興賞 スポーツ庁長官賞」を受賞し、それが原動力となりました。その後、スポーツ庁主催「INNOVATION LEAGUEコンテスト ソーシャル・インパクト賞」(2021年)、内閣府主催の「日本オープンイノベーション大賞 スポーツ庁長官賞」(2022年)、「科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞」(2023年)を相次いで受賞できました。それ以前では、2019年にグッドデザイン賞も受賞しています。

コロナ禍でしたので、参加者を募ってイベントを行うことはできませんでしたが、展示会に積極的に出展し、認知を広めていく活動は続けていました。こうした積み重ねにより、コロナが5類に移行した年の秋頃から、防災月間や“スポーツの秋”としてのタイミングでお問い合わせをいただくことが増え、イベントの開催やプログラムの導入実績を増やしていくことができました。

もう1つ大切にしていることが、パンフレットやチラシ、ホームページなど、広報ツールの見やすさ・わかりやすさを意識したデザインです。防災スポーツを検討し始めた当初からアートディレクターに依頼して、インフォグラフィックを取り入れながら、老若男女どんな方でも理解しやすいデザインで、PRを展開していきました。「防災」も「スポーツ」も親しみのある言葉ですが、“防災スポーツ”と聞くと、まったく異なるものの組み合わせなので想像しにくい。だからこそ、ビジュアル面も大切にしながら、この取り組みの内容を伝えています。

— 省庁から表彰された際には、特にどのような点が評価されたのでしょうか。

篠田 スポーツ庁の室伏広治長官が特に注目してくださっていて、2020年に第8回スポーツ振興賞スポーツ庁長官賞を受賞したときには「スポーツと防災訓練を掛け合わせた、大変興味深い取り組み。いざというときに、慌てず冷静な判断ができるようになるのではないでしょうか」というコメントをいただきました。社会課題をスポーツで解決することに可能性を感じてくださったのだと思います。「まさに、こういう取り組みを広げていきたいと考えていた」ともおっしゃってくださり、この言葉は私にとっても非常に励みになりました。

また、「防災」という誰もが関係のあるテーマを入り口に、スポーツを楽しむ人を増やすことで、スポーツ実施率の向上にもつながると期待していただいているようです。スポーツ庁では「成人のスポーツ実施率を週1回以上が70%程度(障害者は40%程度)となること」を目指していますが、同庁による令和5年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」では20歳以上の週1回以上のスポーツ実施率は 52.0%にとどまっています。防災スポーツが誕生した経緯からすると逆説的にはなるのですが、スポーツ庁で推進している「Sport in Life」という「生活の中に自然とスポーツを取り込んでいく取り組み」にもつながることが期待されています。

— 受賞によって心境の変化はありましたか。

篠田 弊社は小規模な会社ですし、受賞した時点では実績も少なかったので、省庁から認めていただいたことが大きな励みとなり、活動を続けていく原動力になりました。コロナ禍で活動が制限されていたことも相まって、精神的に非常に支えられました。

また社会的信用にもつながり、最近でも教育機関や自治体へのアプローチの際、受賞経歴がサービスの導入を後押しすることもあります。

   
2020年12月、第8回スポーツ振興賞スポーツ庁長官賞を受賞。スポーツと防災を掛け合わせた取り組みに、室伏広治長官も期待を寄せた
   
防リーグの競技紹介には、親しみやすく、一目で競技内容が理解できるピクトグラムを取り入れた。わかりやすいビジュアルでの訴求にも力を入れている
 
 
 
 

あらゆる社会課題へのアプローチを目指す

— 社会課題の1つとして少子高齢化もあげられますが、防災スポーツではどのようにアプローチされていますか。

篠田 少子高齢化の影響としては、災害時に助ける側の若い世代の数が減っていくということです。高齢者の方々は思うように体を動かせないことも多く、若い世代に防災の必要性を訴求することが大切です、しかしそれとは別の視点で、防災スポーツをフックに、高齢者と子どもたちがコミュニケーションをとる機会を創出していければよいのでは、と考えています。例えば、過去に災害を経験している高齢者の方々が、子どもたちに語り継ぐ機会を防災スポーツのプログラムに入れていってもいいかもしれません。

— 防災スポーツを通じて災害時の行動を体験することが、各家庭での備えにどうつながっていくと考えられますか。

篠田 各自治体から、防災マニュアルが各家庭に配布されていると思いますが、日頃からこれを熟読して災害時に備えるのはハードルが高いと思います。先ほどお話ししたように、防災スポーツでは、「防災知識トレーニング」という、防災の正しい知識と行動を学ぶプログラムがあります。例えば、被災後1週間を乗り切るための備蓄の知識をクイズ形式で得ることもできます。子どもたちが学校などの場で、この知識を身に付け、家に持ち帰って家族に話すことで、家庭での防災行動につながる効果も期待できます。

— 今後、防災スポーツを、どのように広め、社会の課題解決につなげたいとお考えですか。将来のビジョンも含めて、お聞かせください。

篠田 今後は障害のある方との連携を深めていきたいと考えています。現在のプログラムは健常者をベースに作成しているので、専門家のアドバイスを取り入れながら、障害のある方と健常者が災害時に一緒に行動できるような訓練を取り入れていきたいです。パラスポーツを通して障害のある方への認識や理解が深まっているように、防災に関しても理解が促進されるようにしていきたいと思います。

また、「災害大国・日本から生まれた防災ソリューション」として、海外へ展開していくことも視野に入れています。2023年には日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の第4回スポーツ大臣会合の際に、文部科学副大臣や政府関係者とともに同行し、ASEANの大臣や政府高官たちに向けてプレゼンテーションを行いました。日本は自然災害の多い国ですが、世界的にも温暖化による環境の変化や自然災害が増えているので、海外の方も防災に対する意識は非常に高いと感じました。そこに防災スポーツをサービスとして広めていければと考えています。

そして、防災スポーツの実績やノウハウを活かした新たなサービスを展開しています。例えば、防災コンサルティング事業では、「楽しく災害に備える仕組みづくり」として、防災マニュアルの企画監修、防災課題に対応したソリューション支援や協業などの形で、企業や自治体などへ展開させていただいています。

またこれからも、こうした事業を通じて、スポーツの価値をさらに高めていくことも目標としています。

   

「防災スポーツ」と「防リーグ」「スポロク」は株式会社シンクの登録商標です。

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