探究心を育むためには「主体的な学び」を認めること
(1)探究心とは
本稿における「探究心」とは、子どもたちが問題解決をするにあたり、自分自身で問題を見いだし、自分なりの解決方法を考え、見通しをもって最適解を導き出すこと。さらに最適解を導き出した後もさらなる知を求めて解決に向けて追究する姿とする。また、新たな知を得る喜びを知っており、子どもたちの意欲が継続し、“追究し続ける姿”も見られるものといえる。
(2)「知識の量」から「考え方」へ
これからの時代は急速に情報化やAI(人工知能)の研究が進み、コンピュータが人に代わって行うようになると考えられており、変化が急速で先が予想しにくい時代になるといわれている。そのため、臨機応変に対処し問題を解決する力や新たなアイデアを出す創造性がより一層求められる。つまり、次世代の教育は「知識重視」から「考え方重視」へのシフトが求められているのである。
このような「考え方重視」の教育を行うには、これまでの「どれだけ知識を覚えていたのか」だけではなく、「知識をどのように活用したのか」「どのような考え方をしたのか」など、「多様な考え方」を得たり交流したりすることに焦点を置き、子どもが自分自身の力で探究する学習環境が必要である。
探究する学習環境には、「学習後に知識や考え方をどの程度つけたいのか」だけではなく、「どのように学習を進めることがさまざまな考え方を得ることにつながるのか」など、教師の「学習過程における子どもの考え方」に焦点を当てた授業が求められる。また、子どもが探究するには、自分で考えることだけでは限界があり、他人の力を借りる必要がある。
すなわち、他者の考えを交流させることでさまざまな考えを得て学んでいく環境も必要だろう。「学習過程」に焦点を当てるだけではなく、他者との対話的な学びのあり方も考える必要があるといえる。
このように、探究心を育むためには、教師自身が「知識の量」を求める教育から脱却し、「学習過程」を重視する指導観へと変わり、子どもに委ねる授業、子ども同士の考え方の交流のあり方を検討する授業が求められるのである。
(3)主体的な学びが成立する4つの要素
探究心を育むには「学習過程を重視する指導観」が必要と述べた。子どもたちに思考させるためには子どもに学習を委ね、考えさせる時間が必要と思われる。子どもたちには、子どもたち自身で活動できる時間の確保が必要ということである。
しかしながら、子どもたち自身で活動できる時間の確保をしたとしても、実際に子どもたちだけで学習が進められるかどうかは別の話である。この「主体的に行動できる」ためには、教師が「子どもに委ねる」と同時に、子どもも自分自身で行動できる主体性や行動力が必要になるためである。ここでは、「自分自身で判断し行動できる」子どもの主体性が成立する4つの要素について述べていきたい。
まずは自分自身の「問題意識」をもっていることが必要である。自分自身の問題意識をもってはじめて、追究する課題が明確になるといえ、すべてのスタートとなる。これが強い問題意識になればなるほど、粘り強く取り組む姿勢につながっていく。しかし、問題意識をもっているだけではその先の解決にはつながらない。なぜならば、自分自身で判断し行動する際に必要な「知識・技能」や、自分自身で判断し行動する際に必要な、ものの解釈や認識のしかたである「物事のとらえ方」や、考える方法や状況に対する反応のしかたである「解決のための考え方」も必要だからである。このように、自分自身で判断し問題を解決するにあたって「問題意識」「知識・技能」「とらえ方・考え方」が必要であり、この3つの要素で解決に向けて行動することは可能となる。しかしながら、時には自分自身の考え方や行動が間違っている場合もある。その場合、自分自身で「自分の考え方や行動が間違っていないか」「間違っていた場合、どのように改善するか」という、自分の判断や行動が正しいかどうかを考えたり、方針転換をしたりする必要が出てくる。そのためこの3つの要素に加え、自分自身の考えや行動を見直したり、その後の計画を立てたりする「メタ認知」の要素が必要になる。したがって、「主体的な学び」が成立する条件として、「問題意識」「知識・技能」「とらえ方・考え方」「メタ認知」の4つの要素が一部に偏ることなくバ
ランス良く必要であることがわかる。以降、それぞれについてもう少し詳しく述べていく[図表1]。
1)子ども自身が「問題意識」をもつこと
社会では、「問題を問題として見いだす力」は問題を主体的に解決する上でとても大切である。例えば、日頃生活をしていて「不便だな」「うまくいかないな」と感じることがあったとする。その不便さに対して「そんなものだから仕方ない」と考える人、「解決できないかな」と改善方法を考える人、そもそもその不便さを感じない(不便と考えることがない)人がいる。これらのさまざまなタイプの人の中で、「不便だな」「うまくいかないな」と感じる人や、「解決できないかな」と改善方法を考える人は、「問題意識をもてる人」といえる。
社会において、改善には “問題を問題として気付ける”ということがより良い生活をしていく上で重要なことである。業務の改善やDX化においても問題を問題として気付き、明らかにしなければスタートを切ることができないのである。どのような場所にいようと、子ども、大人関係なく、より良い環境をつくるためには何事にも「問題意識」をもつことは大切な能力であり、一生使っていく能力であるといえるだろう。
2)子ども自身で解決できるための「知識や技能」をもつこと
自分自身で物事を解決するには、問題意識をもって意欲的になっているだけではうまくいかない。解決のために行動するには「知識や技能」が必要なのである。車を運転する場合で考えてみよう。エンジンのかけ方、サイドブレーキの外し方、交通標識の意味、アクセルの踏み方、カーブを曲がる際のハンドルの切り方……さまざまな知識が必要であるし、技術が必要になる。自分自身で物事を行うには知識や技能をもたないと何もできないということがわかるだろう。
理科の授業場面で考えてみよう。理科は子どもたち自身で問題解決をさせることを大切にする教科であるため、問題を発見し、予想し、実験計画を考え、実験する、そして結果をまとめ考察するという手続きがある。理科ではこの「問題解決の過程」を子どもたち自身の力で行えるようになることが重視されているのである。
理科の実験場面でいえば、子どもたちに主体的に問題解決をしてもらいたいと考えていたとしても、実験器具の使い方や、その操作の仕方などの「知識や技能」を身につけておかないと、自分の力で実験をすることはできないのである。
このように、主体的に学ぶということは、自分自身で解決のための行動ができることであるが、そのためには解決のための「知識や技能」が必要なのである。
3)子ども自身で解決できるための「物事のとらえ方」や「解決のための考え方」をもつこと
自分自身で物事を解決するには、「問題意識」「知識や技能」をもつ必要があることについては述べた。しかし、目標や意欲をもち、知識・技能をもっているだけでは、これまで学んだことのある内容については対応できるが、全く別の新しい場面では「問題意識」「知識や技能」だけでは対応できない。
私たちが直面する問題や課題はこれまで経験していないことも多く、これまでの知識や経験がそのまま使えない場合もある。そのような場合、私たちはこれまでの知識や経験を使って「考える」という活動を行う。これまでに似たような経験を当てはめて対応したり、多様な考え方から最適解を判断したりする。このように、自分自身で物事を解決するには、「問題意識」「知識や技能」以外に、自分自身で考えることが大切になるのである。
そのため、3つめとして「物事のとらえ方」や「解決のための考え方」を挙げる。物事のとらえ方」は、状況や事象そのものの問題点や特徴などをどのようにとらえるかということであり、「解決のための考え方」は、解決の順序を考えることや、違いを見つけるために比較すること、さまざまな考え方を組み合わせて新しい考えをつくり出すなど、思考スキルを指す。 このように、主体的に学ぶということは、自分自身で考えることが求められ、解決のための「物事のとらえ方」や「解決のための考え方」が必要なのである。
4)解決にあたり自分自身の判断を見直す「メタ認知」ができること
ここまでに「問題意識」「知識や技能」「とらえ方、考え方」について述べた。これらの要素を子どもがもっていれば、おおむね主体的な学びが成立する。しかしこれだけでは不十分な点がある。それは、立ち止まって方向性の修正をする場合や、自分自身の成長を振り返るという「メタ認知」である。
何かしら問題を解決する際には、簡単なものや短期的なものだけではない。直線的に解決できず複雑で、違う道を行ったり戻ったりすることもある。その際には、自分自身が問題解決において「今やっていることはこれでいいのだろうか?」と考える必要がある。また、「自分自身が成長しているのか?」といった、長い目で見た自身の振り返りも必要になる。 物事は“やりっぱなし”では成長しない。何がよくて、何がよ
くないのか、今後どのようにすればいいのかなど振り返り、自分の今後の方向性を再確認する「メタ認知」が必要なのである。 このように、主体的な学びが成立する4つの要素「問題意識」「知識や技能」「とらえかた、考え方」「メタ認知」について述べた。これらを車で例えると、「問題意識」は決めた方向に進むエンジン、「知識や技能」「とらえかた、考え方」は前に進むために必要な車の両輪、メタ認知」は方向性を修正するハンドルの役割を担うといえる。自身で学んでいくためにはこれら4つの要素をもちたいものである。
探究心を育むためには子ども自身で「問題を見いだす」力の育成が最重要
ここまで、探究心を育むためには、子どもに委ねる「主体的な学び」が必要で、主体的な学びになるための4つの要素について述べた。ここでは、探究をする最初の「問題を見いだす」(問題意識をもつ)授業の導入場面について考えていきたい。
子ども自身が問題を見いだすことは、一部の教科で評価の観点になっているほど重視されているものである。また、自分自身で「問題を見いだす」ことは、子どもが問題解決をする際に主体的に学習に取り組むための原動力になるという点で重要である。しかしながら実際の授業では、子どもから出てくる問題を引き出すことをせず、教師主導で課題の設定(クラスの目標設定)をしているのが非常に多いのである。
子ども自身で問題を見いださなければ子どもの学習意欲は生まれないし、場合によっては「やらされている」という感覚をもつ。そのため、子どもの「自分事の問題解決」実現のために、「子ども自身が問題を見いだす」ことが大切である。 ここでは、授業の導入の場面をどのようにつくっていくかという点から探究心を育むた授業を考えていきたい。
(1)子どもの思考が促されるよう、教師が授業展開を精緻に考えること
「子ども自身が問題を見いだす」授業の導入を考えることはとても難しい。なぜなら、教師が想定する疑問や問題を見いださないことや、疑問があってもそれが曖昧なままで「自分事の問題」になり切れていないといったことがあるからである。
そこで、授業を行う前に精緻に授業展開を考えることを提案したい。「授業前に考えているよ!」と言われるかもしれないが、どの程度まで精緻に考えるか見ていただきたい。
1)授業展開を「注目」と「着目」で考える
授業の導入は、どのような教科であっても最初に授業の方向性に気付く段階と、問題の本質に入り込む段階の2段階あると考えている。例えば、教師が「振り子の1往復する時間は、何によって変わるのだろうか」という問題に子どもたちを導きたいと考えている5年生の理科の導入場面について考えてみよう。
5年生の振り子の授業では、振り子の1往復する時間が「振り子の長さ」「振り子のおもりの重さ」「振れ幅」のどれが原因なのか、子ども自身が問題をもち追究することになる。
ここでは、子どもたち自身に「振り子の1往復する時間は、何によって変わるのだろうか」という問題を子ども自身が自分自身で見いだし、ノートに記述させたい教師の意図がある。
次の授業場面では、条件のことなる2つの振り子(長さ:長い、おもり:軽い、振れ幅:狭い/長さ:短い、おもり:重い、振れ幅:広い)を用意して、子どもたちに見てもらう。そして2つの振り子を動かした後に「2つの振り子の動きを見て、何か気付いたことはあるかな?」と問う。①
そうすると子どもは、一方がゆっくり動き、もう一方が早く動くと答える。ここで、学級全体の子どもが2つの振り子の1往復する時間に違いがあることに注目するのである。②
そして、教師が「振り子の1往復する時間にどうしてこんな違いが出たのかな?」と、改めて問う。すると、子どもたちは振り子の見た目の違いから、その原因が「長さ」「重さ」「振れ幅」なのではないかと、振り子の1往復する時間の違いの着目するのである。③
その後、原因はいくつかあるが、どれなのか?と子どもたちと話し合いながら、自分自身の問題(理科の授業でこれから調べたいこと)を書く流れになる。④
なお、ここでの教師として書かせたい問題は、「振り子の1往復する時間は、何によって変わるのだろうか」であり、4コママンガで示した授業の流れは、子どもたちが問題を見いだしやすいように、教師が丁寧に授業展開を考えたものである。
この授業の一連の流れを「授業展開モデル」に落とし込んでみると、次のような図になる[図表2]。
ここでのポイントは、この授業の真ん中の丸の部分である「振り子のはやさが違うことに注目する」「振り子の1往復する時間を決める条件に着目する」という点である。
今回の事例の場合は、まずは振り子を使うこと、2つの振り子のはやさが違うことを確認した。そしてそのはやさが違う原因は何かという流れになり、振り子の1往復するはやさを決める原因に着目したという流れである。
どの授業でもそうだが、授業開始直後から「原因は何か?」と最初から本題に入ることは困難であるため、最初は事象に注目する時間が必要になる。そしてある程度学級全体が同じ方向をみたときに本題に入る流れが多い。
授業を進めるにあたり、この理科の事例のようにまず何に注目させるとその後の本題につながるのかを考える必要があるし、この授業の本題となる部分は何か、何に着目させると本題に迫れるのかを考える必要がある。
2)「先生の発言」と「子どもの発言」を丁寧に考える
導きたい問題から逆算して注目させることや着目させることを考えたいことについては述べたが、その流れになるように具体的にどのように先生が発言して、子どものどのような言葉を引き出したいのかについて考えていく必要がある。先ほどの授業展開モデルを見ると、上側には教師の言葉、下側には子どもから引き出したい言葉が書かれている。これらのやり取りを見るとしっかり話がつながっており、授業がイメー
ジできることがわかるだろう。
授業展開を考えることはわかっていてもしっかり子どもに問題が導ける授業展開を考えることは結構難しい。しかし、授業展開モデルに示されているように、発言レベルで考えるような丁寧な授業づくりが求められることはご理解いただけたのではないだろうか。
(2)面白い教材を考えること
先程の授業モデルをしっかり授業前に検討すると、多くの子どもたちが自分自身で問題を導くことは可能である。しかしながら、一方で問題は書けるが、意欲的にならないという子どもたちの姿も見られる。実は子どもたちが問題をもつこと(問題が書けること)と、意欲的になることは別の話で、意欲をもって探究するには「教材の面白さ」が必要なのである。
教科書の指導書に載っている導入場面の教材は、中には面白いものもあるが、その多くは「授業はそれなりに流れるが、必ずしも子どもが面白いと感じていないもの」である。したがって、導入場面の教材については探究心を育むためにも子どもたちの様子から教師がオリジナルで考えた方がよいと考える。
教育のICT化が生み出すもの
探究心を育むために1人1台のタブレット端末時代は、どのような時代になり、子どもの学びがどのように変わるのだろうか。ここでは、(1)子どもに委ねた学びが増える、(2)気付きが増え、精緻にみられる、(3)子どもの理解度がより見取りやすくなる、の3つの変化について取り上げ、教育のICT化により子どもに委ねた学びが増えることで探究心がどのように育まれるのかについて述べていく。
(1)子どもに委ねた学びが増える
1人1台のタブレット端末によって、児童・生徒が欲しい情報を欲しいときに取得できるようになった。それにともない、WEBサイトを検索して情報を得るなど、子どもたちが探し出す情報をもとに考えることができるようになった。これは、子どもに委ねた学習が増えるともいえるが、同時に子どもたちに探究させているともいえるだろう。
子ども自身で探究をするには、教師主導ではなく、子ども自身が必要な情報を探し、自分自身で問題を解決することが重視される。そのため、調べ学習や学習のまとめの授業ではできるだけ子どもたちに委ねていきたい。
それ以外にも、AIドリルなど、教師が丸つけをしなくてもタブレット端末の中で正誤を示し、児童・生徒自身で次から次へと問題を解いていくことができるようになる。子ども個人の状況に応じて与えられる問題を変えて出題できるのもいいところで、一人一人のつまずきや解いた問題数などの結果を集約してくれる。これからの時代、練習問題などはAIドリルなど端末を使った学習に任せ、教師はその正誤情報を参考にして、学習に取り組むための声掛けや、つまずきへの指導に重点を置きたい。
(2)気付きが増え、精緻にみられる
これまでは、子どもが書く手書きの記録自体が不十分であったことなどもあり、みんなが納得して結果やまとめを出せないことがあった。1人1台のタブレット端末があれば、写真や動画に撮影し何回も見ることができる。繰り返し見ることでさまざまな観点から再度見直すことができ、「これまで見逃していたものに気付ける」ようになり、精緻に物事をみることにつながるのである。このことは、目標を少し高いところに設定できることから、意欲的に取り組むきっかけの一つとなり、探究心を育むことにもつながるといえる。
(3)子どもの理解度がより見取りやすくなる
探究は、子どもによって進度の違いがあることを明らかにする。1人1台のタブレット端末を活用することで、子どもの記録やその記録の保存が容易になり、子どもの理解状況が見取りやすくなる。
学習評価をする際には、評価の判断となる記録が必要になる。これまで、学級の中には何十人もの子どもがおり、同じタイミングで全員の学習状況を把握することは困難であった。短い時間で教室中を見回り、子どもたちの書いているものを確認するのは時間的に難しかったわけである。
現在では、タブレット端末に子どもの考えが記録できるため、一目で記入の状況がわかり、これまで以上に子どもの理解状況が見取りやすくなった。
子どもの理解状況が見取りやすくなったということは、子どもの状況に応じてリアルタイムに支援をすることができることを意味し、「止まっている子どもを減らし子どもに委ねる」ことができ、探究心を育むことにつながるといえる。
個別最適な学び・協働的な学びへ
近年、「個別最適な学び・協働的な学び」という言葉がよく出るようになった。1人1台のタブレット端末が配布されたことで、これまで以上に子どもたちに委ねることができるという考えからである。ここでは、タブレット端末の利用以外での個別最適な学びと探究心について考えたい。まず押さえておきたいのは次の2つの学習形態の違いである[図表3]。
「個別最適な学び」について、現在は指導法のAとB両方の意味や主張が混在しているように思われる。筆者は小学校、中学校であれば個別最適な学びを「指導法A」の意味で捉える立場である。確かに、小学生や中学生ではクラスに30人いたとして一部の子どもは指導法Bでも可能かと思われる。しかしながら義務教育であるにもかかわらず教師が介入せず、学習者に多くを委ねるのは、かつての「這いまわる授業」「放任の授業」と同じ轍を踏むことになるからである。
指導法Aの「教師が決めた範囲の中で、子どもに主体性を発揮させる」というのは、例えば学級の問題づくりまではみんな一緒に行うが、その問題を解決するにあたって、その先は個人または同じ考えの人と解決するといったやり方である。つまりこの方法では、授業の方向性を大きくずらすことなく、子どもたち個々の探究の機会を認めることができる。
探究心を育むためには、問題解決する中で、どの場面を一緒に行って、どの場面を子ども個々に学習を委ねるかを教師が考え授業づくりの工夫をする必要があるといえる。
探究心を育むための学習環境デザイン
これまで述べてきたことから、探究心を育むための学習環境デザインについて3点からまとめていく。
(1)子ども個々の考え方の違いや思考過程を重視する
探究心を育むためには、子どもの思考を促す授業が大切である。知識を伝達するような授業では「自分で調べたい」という気持ちは生まれてこない。探究心をくすぐるのは学級の人たちの考え方がバラバラで、どれが正しいのか調べたいといったものであったり、解決方法が多様であり、子ども自身で解決の方法を選択したり判断できる場合である。
このように考えると、直線型で一斉型の授業は子どもたちに選択の余地がないため、本当の意味での探究ができないし、知識伝達型の授業は子ども同士の考えの交流が生まれないため探究型の授業になり得ないといえる。そのため、複線型や個々の解決を認める授業や、子どもの思考を表出させ、思考の交流をさせることが必要である。
(2)子ども個々が自分で判断し活動できる前提の確認
探究心を育むためには、子ども自身に学びを深めていくための知識や方法・考え方等をもたせ、子ども自身が見通しをもって学びに入ることができる環境が必要である。しかしながら、考えるための知識や方法をもっていないのにもかかわらず、「子ども主体」と称し強引に考えさせ(いわゆる「教えず考えさえる授業」)、知識をもっている一部の子どもだけで授業が展開されている授業等が数多く見受けられる。つまり、本当の意味で探究心をもって主体的に学習をさせたいならば、教師自身が「子どもに○○を考えさせるならば、それまでに○○の知識をもたせておかないと自分で考えられないな。だから○時間目に○○を押さえておこう」というように、主体的な学びにつながる知識や考え方を計画的に押さえたい。
このように考えると、子ども自身で探究できる力が不十分なのに探究をさせるとうまくいかないことがわかる。そのため、子どもに自立して任せられるような知識や考え方があるのかなど、子ども自身で探究できる力がある学びなのかについて授業前にあらかじめ確認することが必要である。
(3)子ども個々が自分で判断し活動できる時間の確保
探究心を育むためには、子ども自身で探究できる十分な時間と、子どもに委ねる教師の覚悟が必要である。その際、教師がどの場面においてどの程度介入するのかも考えておく必要があり、「這いまわる授業」「放任の授業」にならないように留意する必要がある。子どもの探究には、子どもに目標を持たせることが前提である。私としては、導入場面を大切にし、子どもに「自分でやってみたい」と思わせ、子ども自身で問題解決できる支援をし続けることが大切と考える。
〈参考文献〉
『小学校のアクティブ・ラーニング入門“ダメ事例” から授業が変わる! (BOOKS 教育の泉 13)』、文渓堂、2016、『問題を見いだす理科授業』、東洋館出版社、2024.4
イラスト:ネットザマリオネット