公益財団法人 吉田秀雄記念事業財団

広告の学校

第1回
パロディCMと
桃太郎文化

~桃太郎とは何か?
パロディCMから日本文化の深層へ~

岡室 美奈子
早稲田大学 
演劇博物館館長・文学学術院教授

クリックでダイジェスト動画再生
プロローグ

パロディCMと
桃太郎文化

講義テーマは
「パロディCMと桃太郎文化」です。

吉田秀雄記念事業財団が開発・運用している広告アーカイブシステム「デジハブ」を活用して様々な広告をご紹介していきます。

テレビCMの黎明

デジハブを使ってみよう

テレビCMは、黎明期の段階から、2つの潮流がありました。
ストイックで硬派な松下電器のCMです。商品説明も詳細に述べられています。
一方で、イメージ戦略のような早川電機工業のシャープテレビの広告も。

講義風景

社会と商品の成熟によるCMの変化

社会と商品が成熟するにつれて、CMも変化していきます。

佐藤達郎先生のご著書『「これからの広告」の教科書』に基づき、「これからの広告」の方向性について考えたいと思います。

パロディCMに着目してみよう

パロディCMとは何か?

パロディCMといっても多種多様のものがありますので、この授業では、このように定義したいと思います。

「カサブランカ」に関するテレビCMです。

良く知られた古い映画のシーンに新しい商品をのせることで、意外性を醸し出した、日清食品カップヌードルのCMです。
ペンギンのアニメーションが印象的な「泣かせる味じゃん」のサントリーCANビールのCMです。

映画の雰囲気だけを残していますが、元ネタからは遠ざかっています。

講義風景

さらに一世を風靡したCMをご覧いただきます。

リクルート「ホットペッパー」のCMです。別の文脈が当てはめられている、ということだけでも十分面白いです。
「アルプスの少女ハイジ」のアニメーションを使った教育サービス「トライ」のCMです。

元の世界観をそのまま使いながら、キャラクターを大胆にずらしています。

講義風景

パロディCMは破壊力が大事?

パロディは、元ネタが良く知られていることが前提です。しかし、パロディ的な雰囲気そのものや、ずらす破壊力がモノをいう、ということもあります。

桃太郎CM集

桃太郎は人を狂わせる?

さて、ここからが本題 「桃太郎のCM」です。

最近、しばしば目にするようになった桃太郎のCMですが、実はテレビCMが始まった頃から、何度も題材として取り上げられています。

なぜ桃太郎なのか?
桃太郎は人を狂わせるのか?

競合の商品を敵に見立てて、それに敢然と立ち向かう 桃太郎を描いた、サントリーの「ペプシNEX・ZERO」では、とにかくカッコいい桃太郎が描かれています。
これに対してAUの三太郎シリーズは脱力系。「戦わない」ということにメッセージがあるのかも知れません。

この他にもたくさんのCMで桃太郎がとりあげられています。さかのぼると1955年の東芝ミキサーのCMにも、桃太郎が登場しています。

講義風景

なぜ様々な広告で桃太郎が使われるのか?

桃太郎は、勧善懲悪のわかりやすい英雄物語で、受け入れられやすいです。
「日本一」のイメージも伝わりやすいです。

桃太郎の文化史

日本の文化において、桃太郎はどのように語られてきたのでしょうか。

柳田国男の『桃太郎の誕生』でどう述べられ、桃太郎の起源としてどのようなことが言われているのか、紐解きます。

講義風景

桃太郎の謎について触れたいと思います。

桃太郎の物語を読み直した時に浮上する謎について。鬼とは一体誰なのでしょう。

鬼の立場に立ってみたらどうだろう?

そして、桃太郎の話を鬼の側の立場に立って描いた広告も、実は存在しています。

「桃太郎=侵略者説」もあって、芥川龍之介も、小説『桃太郎』の中で、侵略者桃太郎の姿を描いています。いわば「理由なき侵略」です。

これをさらに裏返したのが、戦争プロパガンダの国策 映画「桃太郎 海の新兵」(1945年)です。

パロディとして様々な
桃太郎が描かれてきました。

三太郎シリーズの「戦わない桃太郎」はパロディとして、新しい視点を提示しているかもしれません。

パロディCMの可能性とCMリテラシー

パロディCMは、文脈をずらす装置として、面白い可能性を秘めています。

桃太郎についても、単なる昔話の枠を超えて、今後も新しい桃太郎像が出てくると思います。

そこでは、製作者の見識や価値観が問われ、また、CMの受け手としても、賢くありたいな、と思います。

トークセッション

岡室先生の特別講義を受けて、ここからは、東京大学の吉見先生も登壇され、
2人のトークセッションとなりました。

岡室先生と吉見先生とのトークセッション

吉見
見る者と見られる者が逆転する、という視点は面白いですね。

岡室
同じことを描いているのに、ストーリーが全く逆転するということはとても面白いと思います。

岡室先生と吉見先生とのトークセッション

吉見
そこは演劇・ドラマ・CMがつながっていくキーになっていくかもしれませんね。

岡室先生と吉見先生とのトークセッション

吉見
桃太郎の話は国家的なナショナリズムにも結びつきやすいけれど、そこを踏みとどまって、ずらすことで笑いに転換していけるところに、パロディの面白さがあると思いました。

岡室先生と吉見先生とのトークセッション

岡室
パロディになることで、物語が相対化されて表現に幅がでてくる。そういう力をパロディのCMはもっているのかもしれませんね。

岡室先生と吉見先生とのトークセッション

吉見
「日本一」とか、「犬猿雉」という動物と人間の物語とか、「きび団子」のようなシンボリックなモノ、鬼との関係とか、桃太郎の中には使える要素がたくさんある。それが桃太郎がパロディに使われやすい理由じゃないでしょうか。

岡室
確かに鬼との関係を考えると「他者」という 視点が入り込みやすい物語かもしれませんね。
そういう意味でも、もっといろいろな桃太郎が出てくる可能性を感じますね。
新しい価値観を見せてくれるような、新しいCMが出てこないかなと思っています。

吉見
パロディというのは自己と他者という二項対立を超える表現の戦略ととらえることもできそうですね。

公益財団法人 吉田秀雄記念事業財団