~桃太郎とは何か?
パロディCMから日本文化の深層へ~
岡室 美奈子
早稲田大学
演劇博物館館長・文学学術院教授
テレビCMは、黎明期の段階から、2つの潮流がありました。
ストイックで硬派な松下電器のCMです。商品説明も詳細に述べられています。
一方で、イメージ戦略のような早川電機工業のシャープテレビの広告も。
「カサブランカ」に関するテレビCMです。
良く知られた古い映画のシーンに新しい商品をのせることで、意外性を醸し出した、日清食品カップヌードルのCMです。
ペンギンのアニメーションが印象的な「泣かせる味じゃん」のサントリーCANビールのCMです。
映画の雰囲気だけを残していますが、元ネタからは遠ざかっています。
さらに一世を風靡したCMをご覧いただきます。
リクルート「ホットペッパー」のCMです。別の文脈が当てはめられている、ということだけでも十分面白いです。
「アルプスの少女ハイジ」のアニメーションを使った教育サービス「トライ」のCMです。
元の世界観をそのまま使いながら、キャラクターを大胆にずらしています。
なぜ桃太郎なのか?
桃太郎は人を狂わせるのか?
競合の商品を敵に見立てて、それに敢然と立ち向かう
桃太郎を描いた、サントリーの「ペプシNEX・ZERO」では、とにかくカッコいい桃太郎が描かれています。
これに対してAUの三太郎シリーズは脱力系。「戦わない」ということにメッセージがあるのかも知れません。
この他にもたくさんのCMで桃太郎がとりあげられています。さかのぼると1955年の東芝ミキサーのCMにも、桃太郎が登場しています。
日本の文化において、桃太郎はどのように語られてきたのでしょうか。
柳田国男の『桃太郎の誕生』でどう述べられ、桃太郎の起源としてどのようなことが言われているのか、紐解きます。
岡室先生の特別講義を受けて、ここからは、東京大学の吉見先生も登壇され、
2人のトークセッションとなりました。
吉見:
見る者と見られる者が逆転する、という視点は面白いですね。
岡室:
同じことを描いているのに、ストーリーが全く逆転するということはとても面白いと思います。
吉見:
そこは演劇・ドラマ・CMがつながっていくキーになっていくかもしれませんね。
吉見:
桃太郎の話は国家的なナショナリズムにも結びつきやすいけれど、そこを踏みとどまって、ずらすことで笑いに転換していけるところに、パロディの面白さがあると思いました。
岡室:
パロディになることで、物語が相対化されて表現に幅がでてくる。そういう力をパロディのCMはもっているのかもしれませんね。
吉見:
「日本一」とか、「犬猿雉」という動物と人間の物語とか、「きび団子」のようなシンボリックなモノ、鬼との関係とか、桃太郎の中には使える要素がたくさんある。それが桃太郎がパロディに使われやすい理由じゃないでしょうか。
岡室:
確かに鬼との関係を考えると「他者」という 視点が入り込みやすい物語かもしれませんね。
そういう意味でも、もっといろいろな桃太郎が出てくる可能性を感じますね。
新しい価値観を見せてくれるような、新しいCMが出てこないかなと思っています。
吉見:
パロディというのは自己と他者という二項対立を超える表現の戦略ととらえることもできそうですね。