第3回
広告の
クリエイティビティには、理由がある
〜アサヒスーパードライの奇跡〜
佐藤 達郎
多摩美術大学美術学部教授
広告のクリエイティビティには、理由がある。
アサヒスーパードライは1987年発売。
彗星のように登場したビールの奇跡の物語をお話します。
広告のクリエイティビティには様々な背景要素があり、単純にこっちの方が高い、などと言えないのです。
いわゆるクリエイティビティっぽいものが価値が高いかというと、そうとも限らない。
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考えたいのは、広告のクリエイティビティの背景には理由がある、ということ。
そこにある戦略を読み解こう、というのがBTA分析です。
1987年。
ちょうど昭和から平成に移行する頃のストーリー。
今から約30年前。平成がスタートするその少し前のできごとです。
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シェア10%を割り込んだアサヒ。
そこからの復活劇がこの物語です。
スーパードライはビールの流れを変えた。
そのヒントは「インサイト」というキーワードにあります。
時代の隠れたニーズ=インサイトがこの復活劇の背景です。
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前史
キリンビールのシェアが60%を超えていた1980年代前半のビール広告についてお話します。
当時のビール広告は、味のことを語らなくなっていました。
「味」や「本質」にはほとんど触れていませんでした。
そこへ、コクキレ生の成功。
ビール広告の語り口が本質に回帰し始めたのがこの頃。酵母が主役の広告も登場しました。
そして、少しずつ、ビールの本質=中味が問われるようになっていきました。
スーパードライの衝撃
「コクキレ」と「CIの導入」でシェア回復の基調をつくったアサヒビールは
1987年スーパードライを発売、ビールの常識を打ち破りました。
市場に衝撃を与えたスーパードライ。
斬新なシルバーのパッケージで、広告には、「辛口」という味の表現が登場。
また、「この味がビールの流れを変えた」というキャッチコピーで、落合信彦氏が起用され、斬新さをアピールしました。
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経済面のような新聞広告!
まるで会議資料のような広告ですね。
キリンビールの反転攻撃への模索
キリンビールは、1989年、「キリンビール」を「キリンラガービール」に名称変更。
1990年に一番搾りを発売し、反転攻勢を目指しました。
各社がスーパードライに追随。キリンビールの模索が始まっていきます。
1996年にラガーの生化、1998年には淡麗生を発売し、発泡酒の分野での地歩を固めました。
スーパードライでアサヒNo.1へ
スーパードライはビールのマーケティング文脈を革新しただけでなく
時代感をとらえ続けて今に至っています。
その背景には流行や
常識への挑戦がありました。
それが時代の隠れたニーズ(インサイト)をつかんだ、ということだと思います。
スーパードライの時代
スーパードライが登場した1980年代の後半。日本がバブルの階段を上り始めたその時代背景にも
クリエイティビティのヒントがあります。
1980年代後半の時代感。
IT化・情報化、グローバル化。
そんな時代の変化も、広告の背景にある理由です。
トークセッション
トークセッションでは、文化人類学がご専門の多摩美術大学准教授 中村寛先生も登壇されて、
クリエイティビティをめぐる佐藤先生との討議が行われました。
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中村:
僕は文化人類学が専門なので、どうしてもそういう目で広告を見てしまうんですけど、今日は佐藤先生のご専門の「広告の現場」のお話をうかがいたいと思います。
佐藤:
広告の背景には必ず目的があるので、そのために何をするか、ということですね。
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中村:
人がお金を出してモノを買うということは大変なことですよね。
佐藤:
まずは「いいね」と思ってもらうこと。
その先に行動がある、ということですね。
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中村:
「インサイト」という言葉がありましたけど、それはどんなカタチで見つけていくものなのでしょうか。
佐藤:
グループインタビューとか、デプスインタビューとか、消費者の生の声を直接拾っていくことが多いですね。
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中村:
人類学者はフィールドで起きていることのパルスを感じることが大事と言われています。
雰囲気とか空気感、ということですね。
今起きようとしている予兆のようなことを感じ取っていく、という点は、マーケティングにも共通のような気がしました。
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佐藤:
広告を制作していく上では、頭の中で考えるだけでなく、現場の雰囲気を感じ取ることが大切ですね。